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第三回天下一武道会 三月二十九日

[ 第三回天下一武道会 サイドA ]

第三回天下一武道会 三月二十九日

50 名前:三月二十九日(1/4) :03/10/24 22:09 ID:???
今日は会長がきた。まぁ日記に書くとそれだけの出来事なのだけど、詳しく書くといろいろと大変であった。
あぁ、それにしてもお腹が痛い。まったくあいつらは・・・


さて、会長がここにくるのは思えばずいぶん久しぶりのことだった。
いや、くるにはきているのだ。打ち切り作家の回収を行うために会長は4日に一回はここを訪れている。
けれどそのときは、車から降りてくることはほとんどないし、こちらを見向きもしない。
彼は車の後部座席にまるで段ボール箱をつめるように作家を押し込んでいくだけだ。
そこには感情というのは感じられず、ひよこの雄と雌を分類している作業員のように淡白な無味乾燥的な作業に過ぎなかった。
私としてもそのある種の通夜のような雰囲気のなかで会長をつかまえて話をしはじめるというわけにもいかず、ただ黙って車を見送るだけだった。
話したいことは多々あるのだが、どうも話せる状況ではないのだ。去っていく作家をまえにしてそんな話題をふることはできない。

だが、今日は久しぶりにそんな用事ではなく、会長はきた。雑誌のアンケートの不正疑惑というものが浮上したからだ。
それはある特定の読者によって偏った投票がなされて、打ち切られる作家が決定されているのではないか、という疑惑だ。。
このままにしておくと雑誌のアンケートの公正性が損なわれ、最後まで残る作家が作品とは関係なしに決まる可能性が強い。
それで過剰投票をしていないまじめな読者から苦情がでたからだ。雑誌の信頼性にかかわる重要な問題である。
ということで私と会長はそのことについて早急に話し合う必要があるというわけだった。


会長がきたのは、日もすっかり落ちた夕暮れのことだった。昼間の約束だった筈なのだが、彼にはそんなことは関係ない。
私は会長に出す茶菓子はあるが、デザートの買い置きがないことを思い出した。
買っていた生クリームケーキは昨日カクリコンが頭に塗りつけながら、「毛髪活性!毛髪活性!」といいながらむさぼりくってしまったからだ。
生クリームが頭髪にいいとは聞いたことがなかったが、レビルの持っている本に書いていたということだった。・・いっそ禿げてしまえ。

てなわけで、私は会長にだすためのデザートとして苺を採りにイザークの菜園にこっそりいった。
「きさまぁ!苺泥棒だぞ!」私が手を伸ばそうとすると、どこからきたのかイザークが叫びながら走りよってきた。
なんて悪いタイミングなんだ。マーフィーの法則でもあるまいしついてないにも程がある。
「いいじゃないか。5,6個くらいくれても。会長がきてるんだよ」と、私はボウルを持ったまま弁解した。
「会長だとぉ!余計にやるわけにはいかん!」と、イザークは両手を広げて私から菜園を守るように立ちはだかった。
まるでピッコロが御飯を守ったときのようだな、と私は昨日見たアニメを思い出した。あれは感動したな・・まさに自己犠牲の極地だった。
ちょっとまて。それだったら私はナッパということになるじゃないか。いやいや。それだけは断固として認められない。私のキャラじゃない。
ってなにをいってるんだ。今はそんなひまはないのだ。会長が部屋で待っているんだから。
「どうしても?」と、私は頼んだ。イチゴくらいだしておかないと減給にしかねない男なのだ。冗談抜きで。
「だーめーだ、絶対にやらない!」
「やらない?」と、私はもう一度聞いた。
「やらない!」
「…やらないか?」

・・おもいっきり殴られた。いいじゃないか、イチゴそんなに一杯できてるんだから。ぶつぶつ。


51 名前:三月二十九日(2/4) :03/10/24 22:28 ID:???

「待たせてすいません」
部屋に戻った私は会長と向き合うようにして、依然として出しっぱなしのコタツに座った。
足をつっこむと中は長時間つけっぱなしにしていたせいか、とても暖かい。
結構夜はまだ冷えるのだ。コタツがあると不精になりやすいが、気持ちよさにはかえられない。猫もいるし・・ってこれは言い訳か。
中で寝ていた猫が不機嫌そうにでてきて、私の膝の上にのって、おおきくアクビをした。なんだよ、面倒だなぁ、という顔をしている。
かわいい子猫なのだが名前がどうもいけない。何か新しい名前をつけてあげなくては不憫だ。なんとなく。

会長は早速私の意見を聞きたがった。
私は昨夜のうちに製作しておいた打開案を印刷した書類をテーブルの上に置いた。

「私はいくらか打開案を考えました。ひとつはアンケートを登録制にすることです。
これは面倒ですし、新規アンケートが得られないというマイナス点がありますが、それを除けばなかなかいい案であると思われます。
次に、どこかアンケート用のプログラムを作ってそこで投票をするという案もあります。これも面倒ではありますが一考の価値はあります。
更に、いっそのことポイント制をやめてコメントをみてこちらで判断するという方法もあることはあります。
これはやや主観的にすぎるとは思われますが、あまり続くようでしたら仕方がないと言わざるを得ません。どういたしますか?」

私はそこで言葉をきって会長の返事を待った。
だが、会長はそれに目もくれてなかった。書類を手にとって眺めようともしておらず、耳をほじほじと掻いていた。
「もう二人とも打ち切っちゃいましょう」
まるでピクニックでもいこうか、と人を誘うようなかるい口調で会長はいった。HEY、LET'S GOってな感じだ。
おかげで私はその言葉の意味を理解するのに多少時間がかかった。
「・・・・え?すいませんもう一度?」
「だから、打ち切っちゃいましょう。二人とも」
会長は、テーブルの上にあった煎餅をばりばりと齧った。イザークがくれなかったイチゴの代わりだ。
これは結構堅い煎餅で、私は三枚くらい食べると顎が痛くなるくらいなのだが、会長はばりばりと小気味いい音を立てて貪るようにして何枚も食べていた。

(注 ちなみに会長の口調はあまりにすごく特徴的だ。日記では再現するのが面倒なので一般的な現代語に翻訳している)

せんべいの割れる音を聞きつつ、私は平静心を取り戻していった。
「二人・・というのはスレンダーとカクリコンのことですか?」
「そうでしょうね」
「理由を伺ってよろしいですか?」
「理由?わかりませんか?」
私はちからなく首を振った。わかるわけがない。
少なくとも私のいった打開案のほうがまだ穏便だし、それに今後のアンケートのためにもなる。
読者は決してカクリコンとスレンダーを嫌っていたわけではないし、むしろ残ってほしいという気持ちから、多重投稿をおこなったと思われる。
それを無にするのはどうもおかしい、といわざるをえない。どう考えたって両方打ち切りは乱暴だった。筋がとおらない。
会長は仕方ない、という風に肩をすくめると「だって両成敗が一番いいでしょ。あとくされないですし」といった。


52 名前:三月二十九日(2/4) :03/10/24 22:47 ID:???

「こういった争いが起こること事態はこういうアンケート形式をした時点で重々承知していました。匿名ですからね。
ただ誤解して欲しくないのは、決してこれは悪いことではないのです。
なぜなら、いわゆる組織票というやつはどんな雑誌、人気投票でも存在しますし、それはいい方向に働くことも多々あるからです。
それが表に明白な形で出ない限り、それはむしろうまく投票を成立させる鍵になりうるのです。が、それはあくまで水面下でのことというのも確かです。
明白にこうして自分が不正に投票しましたとのレスも出た以上、他の読者の手前、両方打ち切りというのがよいでしょう」と、会長はつづけた。
「しかし・・それはどうも極端に過ぎると思うのですが。それに両方打ち切りとなるとその穴は誰が埋めるのですか?」
「誰も埋めません。つまり廃刊は第十号ではなく第九号になるということです。
雑誌の発行は3回ということですね。えーと、残るはアムロ、ブライト、イザーク、レビルでしたね。
彼ら4人+穴埋めの読みきり作家という体制でがんばってもらおうかな、と思います」
「はぁ・・ですが・・」
「なにを渋ってるんです?あなたにとっても早く雑誌が終わることになるから万々歳でしょう?」と、会長は言った。
たしかにそれはそうだ。私はこんな生活がいやだった。最初のころはさっさと自宅に戻りたいと思ったし、管理人なんてまっぴらだとも思った。
管理人になってから土日はないし、フラウがいなくなってからは食事の世話もしないといけないし、それに掃除や洗濯もしなければならない。
もっとも洗濯は自分のものだけである。いくらなんでも男のパンツを洗うほど私は落ちぶれていない。

私はどうも納得できなかった。
「それには私は反対です」
「反対?」
「ええ。そんなことしてもなんにも解決にはなってませんよ。それはただの自暴自棄、というやつですし、何より読者に対する裏切りじゃないでしょうか」
「裏切り、ときましたか。なら、どうするというのです?」
会長は愉快そうに笑った。そして、今度は驚異的なスピードで蜜柑に取り掛かった。
かごにこんもりと盛られた蜜柑が見る間に減っていった。私のミカン、とこっそりと思った。
「今回の結果は、ある意味では順当です。つまりスレンダーとカクリコンの作品は純粋にレベルが低かった。
ゆえにアンチ票が二つに集まったと私は考えます。ですが、あまりに極端に集まりすぎているのも確かです。
決して公平な目で投票されたとは考えられません。それではこの雑誌の直接民主主義という点において齟齬が・・・」
「前置きはいいですから、早くいいなさい。僕だって忙しいんです」
「つまり今回は一応結果は出します。が、打ち切りはありません。次号の作品とあわせて決めようと思います。
今号と次号、二つの号の点数をあわせた総合順位で決定しようと思います。その上で、下位二人は脱落者ということにします」
「なるほど…そういうことですか。先送りということですね」
「そうするのがこうなった以上、一番だと思います。」
「もしもそこでもこういったことが起こったらどうしますか?」
「それは・・仕方ないですよ。まぁ、そのときはそのときで考えましょう」
私はそこで両手をあげた。そんな先のことを考えても仕方がない。私は基本的には楽観主義者なのだ。
そんなことを考え出したらきりがない。そもそもこの雑誌自体が無計画なのだ。行き当たりなのだ。いろいろ綻びが出るのは寧ろ当然のことだ。
「まぁ、いいでしょう。こちらにも都合がありますし、二人だと少々やっかいなのですが、今回はアナタの意見を聞いておきましょう」
「ありがとうございます」
私はほっと胸をなでおろした。これでなんとか今回の所はオッケーだ。次回は二人落ちることになるけれど、仕方ないだろう。
「あなた、少し変わりましたね」と、会長がいった。意味深な表情を浮かべてこちらをみた。
「・・・そうですか?」
いったいどこが変わったのだろうか?私はほほを撫でた。どこも変わった点はないと思うのだが。髭が生えているわけでもないし。


53 名前:三月二十九日(3/4) :03/10/24 22:56 ID:???

会長がいった。
「あなたがそこまで編集者になりきっているとは思いませんでしたよ」
「そういうわけじゃないんです。ここまできた以上中途半端にしたくないんですよ。
ほら、物事を途中でやめるのって好きじゃないんですよ。ルールを変えるのも嫌いですし。気持ちわるいんです、そういうの」
残っていたコーヒーを飲むと、もうすっかり冷えきっていた。
会長のカップをみると中はもうはいってなかった。

「お茶を注いできましょう」と私は立ち上がった。
食堂にあるコーヒーメーカーに仕掛けておいたのだ。そろそろ出来ている筈だ。


ドアをあけようとすると、ドアの向こうでばたばたと走る音がした。なんだ?
不思議に思いながら廊下にでたが、そこには誰もいなかった。なんだったんだ?誰かが会話を盗み聞きでもしていたのか?
・・・・私と会長は別にやらしい事をしていたわけではないぞ。まさかそういう噂があるんじゃないだろうな。
それに会長はホモじゃない・・と思う。むしろ女好きだ。確か結婚もしていたはずだ。いやほんとに。




コーヒーを入れて部屋に戻ると会長が帰り支度をしていた。
まぁ、帰り支度といっても帽子を被ってコートを着ている位の変化しかないのだが。
それでも帰り支度には違いない。

「会長?もうお帰りですか?」と、私は聞いた。
「ええ、残念ですけど、僕も忙しいんですよ」
むむ・・赤棟のことについてさりげなく聞き出そうと思っていたのに。
こんなチャンスは滅多にあるものじゃない。しかし、今ここでどうやってきいたらいい?私の思考はそこでまたストップする。
会長に質問をするのは、白棟の管理人の百倍やばい気がする。それに赤棟の管理人のときみたいに「順調」とかいわれたらますます混乱しそうだ。
ただでさえ昨日の今日である。下手なことはしないほうがよさそうだった。
「そうですか・・それじゃあまた」と、私はいうしかなかった。
「雑誌のほう、よろしく頼みましたよ」


そういうと会長は宇宙刑事ギャバンのように颯爽と帰っていった。
私はそれを見送りながら、やっぱり後悔した。きいたほうがよかったかな・・やっぱり。
が、今日のところはなんとか二人とも打ち切りというバッドエンドを避けれたのでよしとしよう。うん。
それにしてもすぐに人の首を切りたがるのが会長のおそろしいところだ。私はギャバンとカイシデンを少しだけ思い出した。
あの時は悪いことしたな、ともふとおもった。私はとめるべきだったのだ。きっと。

54 名前:三月二十九日(4/4) :03/10/24 23:08 ID:???


時間は変わって深夜。
私はいつものように寝ていた。が、ふと尿意を感じて目が覚めた。
それでトイレにいって用を足した。そして部屋にもどろうとしたところ、私の部屋のドアのすぐ脇に小さなガラス器が置いてあることに気がついた。
まるで出前のラーメンを食べた後、扉の外に回収しやすいように置いておくサラリーマンのようにそっと置かれていた。
私はすこし迷ったあと、それを部屋に持って帰った。こんなところに誰かが忘れ物するわけがない。これは私へのプレゼントだろう。賄賂か?
枕もとのスタンドの明かりを付けて中をチェックした。真っ赤なイチゴがこんもりと盛られていた。ご丁寧にラップまでしてあった。

表面のラップにマジックでスレンダー、カクリコン、両名より感謝をこめて、と書いていた。
ははぁ、なるほど。さきほど会長との会話を廊下で盗み聞きしていたのはあいつらだな、と私は感づいた。不安だったのだろう。
それで立ち聞きしていたというわけか。この苺は打ち切りにしなかった私への恩返し、というわけか。
うーむ。これは困ったな。
別に自分のためにやったわけであってあいつらのためにやったわけじゃないのだが。しかもこれってパクッてるんじゃないか?
あのケチなイザークが私へのプレゼントのためにイチゴを使うことを許すわけがない。
それになんといっても、苺は会長にだしたかったのであって、私が食べるためにイチゴがほしいのではないのだ。私は困った。
受け取ったら収賄ということにならないだろうか。政治家じゃないんだから大丈夫か?いや、けど会長が知ったらやばいかもしれない。
だが、まぁ、人の好意は受け取っておくべきだろう。かわいいところもあるじゃないか。私より年上だけど。
それで結局、私は布団にねっころがったまま苺を摘んで食べることにした。10個ほど食べて、それから、寝た。
実に満ち足りた気持ちだった。






数時間後、猛烈に腹が痛くなって目が覚めた。明らかに食中りと思われる痛みだった。
私は布団の中でお腹をおさえたままうめいた。痛い。確実に痛い。何故だ?さっき食べたイチゴがくさっていたのか?
食べ残していた苺をよく観察すると、細かい毛髪が刻み海苔のように入っていた。カクリコンのものか?おまえの感謝は毛髪なのか?
それを私に食べさせることはいったい何を意味しているんだ。それも民明書房のうけうりか?レビルの所為だな、あのじじい・・
痛みに耐えながらイチゴを全部どけると、器の底には油性マジックで「俺あんたのために残ります 夏」とかいてあった。いや、今は夏じゃない。
語呂も悪すぎる。夏しかあってない。それに私のために残るってどういうことだ?なんか非常に気味が悪い。別にお前に特別残ってほしいわけじゃない。
私はただ自分の主義として打ちきりを断っただけで、其れ以外の気持ちは1ナノミクロンもないのだ。
ここのところをはっきりしておかないと今後いろいろ困ったことになり・・・・・腹が痛すぎる。だめだ。もう限界だ。


マッハのスピードで、トイレに駆け込んだ私はそこで「あっあっあっあ」と叫びまくることになった。
(三月二十九日終了)

55 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/10/24 23:29 ID:???
唐突なハンターハンターネタにワラタ

56 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/10/25 00:32 ID:???
もう1年なのかぁ
シャアポで紹介されて以来ずっと楽しませていただいてます
主人公のスタンスと1さんのスタンスが重なって見えるなぁ、感謝せねば

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