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第三回天下一武道会 三月二十七日 (1)

[ 第三回天下一武道会 サイドA ]

第三回天下一武道会 三月二十七日

307 名前:三月二十七日 1/4 :03/09/25 22:56 ID:???

―――スプートニクに乗って、宇宙に飛ばされたライカ犬のことを思えば、僕の不幸なんてちっぽけなモノだ。
                                       イングマル 『My Life As A Dog 』

快晴。やや肌寒い1日。

さて、今日はアンケートを集計した結果、新たな打ち切りが出た。
会長から事前に連絡が来ていたので、誰なのかは昼頃には既にわかっていた。だが、私は悩んだ。
こういうのもなんだが、少し勿体無い気がした。彼の人気は高い。固定ファンもきっと居るだろう。
打ち切りにしてしまえば、雑誌の売上に影響を及ぼすこと必死だ。
相撲で言えば貴乃花の引退、オリックスでいえばイチローのメジャー行きみたいなものだ。厳しい。
だが、ここで特例をつくってしまえば、この雑誌の趣旨から反してしまうのも事実である。
アンケートによる結果は絶対。読者の意志。これは絶対なのだ。そこを変えるわけにはいかなかった。
だから仕方なかった。

そんなわけで私がグエンに打ち切りを告げたのは、太陽が西に沈みかけ、空を赤く染め始めた時刻だった。
美しい夕焼けだった。まるでなにもかも飲み込んでしまっていくような、そんな気さえ感じさせる鮮烈な赤さだ。
グエンは、白の広場のベンチに座っていた。夕日を黙って見つめていた。
手にはピーナッツの袋を持っており、足元にはどこからきたのか鳩が数羽、餌を啄ばんでいた。

私はその隣に座った。グエンはこちらをちらりとみたが、何もいわず、また夕日に目を戻した。
なんと切り出そうか私は迷ったが、いい言葉が思いつかなかった。
そのまま暫く時が流れた。遠くにみえる山の稜線の辺りに鳥が何羽か群れをなして飛んでいた。
雲は、その上にふんわりと幸福そうに浮かんでいた。

「美しい夕日だ・・。自然というものにはいつも圧倒させられる。
これに比べれば人間のつくりだすあらゆる創造物はほんとに矮小に感じられるね」
私は、彼が突然そんなことをいったので、驚いたけれど黙って頷いた。確かに、圧倒的な美しさだった。
それは、なにか人の存在を否定している気さえした。

「私は美が好きだった。だが、絵画などヒトが作り出した美にはあまり興味がなかった。
神が創造したもうたもの、自然の美が好きだった。それは人間でも同じさ。神が作り出した傑作。ゆえに人間は美しい。」
グエンは更に続けた。
「無論、反吐がでるような人間も居る。私は子供の頃に性的虐待をうけたのでね。そういう汚さは存分に承知している。
けれど、それにもかかわらず、総体としての人間は紛れもなく美しい。・・・ところで、私は打ち切りかい?」

突然の質問だった。
私は、そうだ、と返事をするかわりに再び黙って頷いた。グエンは表情を変えなかった。うすうす感づいていたんだろう。
それはあるがままを受け入れている死刑前日の囚人のようだった。

308 名前:三月二十七日 2/4 :03/09/25 23:14 ID:???
グエンは、言った。

「そうか。仕方がないな。ローラもいなくなったし、これでいいのかもしれない」

その言葉は私には予想外のものだった。彼が、そんなに弱気だとは考えていなかった。
「ローラ・セアック。彼がいなくなったときに、私もこの棟を去るべきだったのかもしれない。
・・・今だからいうけれど、私がローラに特別な感情を持ったのは、彼にかつての自分を見出していたからなんだよ。
あのコは、似てたんだよ、子供の頃の私に。部分的にというわけでなく、全体として。
雰囲気というか、漂っている空気がね。どこか無垢なころの私のようだった。だから、私は惹かれた。
彼を大事にすることは、あの当時の自分を大事にすること、自分への慰めになるように感じていたからね。馬鹿さ」
そういって自嘲気味に笑った。
鳩が、こちらをみて、クルックと鳴いた。餌をもっとくれといいたげに。グエンはピーナッツを撒いた。
白いアスファルトに、ピーナッツが散り、白よりややくすんだ色の鳩がそれに群がった。

「けれど、私はヒーローになりたかったんだよ。ローラにとってのね。
それは自分が子供のころに願っていたことだから。ヒーローが出てきて、僕を救ってくれればいいのに、ってね。
けれど、そんなものは祈ってもきやしなかった。当然のことだけど、漫画のようにはいかなかった。
私は親に虐待されつづけ、そのおかげで、どこか歪んでしまった。修復不可能な傷の入った器のようなものさ。
水が多量に、入っても、どれだけ丁寧に注がれても、水は割れ目から零れ落ちる。それは、本当に辛いことだよ。
だから、ローラにはそうなってほしくなかったんだ。けれど、それは詭弁さ。」

グエンは、手のひらを夕日にかざして、眩しそうに目を細めると、ゆっくりと握りこんだ。
「私は、救いたかったんだよ。自分を。自分の手で。
自己愛の延長として、ローラを救いたかった。ヒーローになってね。」

エゴイズムの極地だよ、彼はそういった。
私は、彼の独白を聞きながら、ふと、巷に流れていたポップソングを思い出した。

―――でも、ヒーローになりたい。ただ一人君にとっての。

グエンが思っていたのは、こういうことだったのだろうか。彼の横顔からは、それ以上推察できなかった
彼にとっての君とは、ロランのことなのか。それともグエン自身のことなのだろうか。それはわからない。
ただ、彼は、純粋だと私は思った。結果はともわなくても、過程として。


309 名前:三月二十七日 3/4 :03/09/25 23:24 ID:???

「ここを出ればまたロランに会えるんじゃないか?」
慰めにならないかもしれないが、そんなことを言った。だが、自分でもこれはあまりに俗な発想だと思った。
グエンは一瞬きょとんした目で私をみたが、すぐに腹を抱えて笑い出した。
「ははは。ロランにあえるだって?君は本当に何もわかってないんだな。いや、無理もないか。
私も知ったのは、ついこの間だからね。そう・・ええとちょうど一週間前か。」
目じりに浮かんだ涙を彼はふき取った。
「何もわかってない?」
「あぁ、そうだね。呆れるほどに。・・ん、そうだな。一つだけ教えてあげよう。」
グエンの表情から笑みが消えた。

「スプートニク号に乗ったライカ犬って知ってるかい?」
「・・・は?スプートニク?・・あのロシアが打ち上げた宇宙船のことか?」
「そう。そのスプートニク号のことだよ。世界で初の有人飛行実験。わかるね?」
私は頷いた。それくらいは常識だ。
1957年11月、冷戦下のロシアが国威発揚と、人類の限りない可能性のために打ち上げた人工衛星。
地球の生命体としてはじめて宇宙に出たライカ犬のことだろう。

「歴史的なプロジェクトだった。人類は宇宙にいきたかった。それで必死に研究した。
そして、搭乗員に一匹のライカ犬が選ばれた。勿論、偶然じゃない。そんなに適当なことはしない。
事前に科学者たちによるあらゆる検査を受けて、実験を重ねて、慎重に選ばれたんだ。
ロシア産の犬であり、器量よしであり、なにより優秀であること。この前提のもとに20匹ほどの実験体から念入りに選ばれた」

私は、白衣に身を包んだロシアの科学者が、犬を冷たい目で眺めているところを想像した。
犬が足元にくる。餌を求めているわけじゃない。じゃれているのだ。科学者はうざったそうに犬を跳ね除けると、書類に何か書きこむ。
20匹の犬の目が、彼にじっと注がれている。怯えたような、媚びるような視線で。部屋の中にはペンを走らせる音だけが響く。
そんな光景が目に浮かんだ。

「それがなにか?」
「こうして選ばれた彼女・・そのライカ犬はメスだったからね。彼女は、その中のもっとも優秀な犬だった。
20匹の中の一番!素晴らしいことだね。彼女は仲間との競争に勝ったんだ。だろ?」

「だが、彼女に待っていたのは、暗闇とわずかな食料と七日後にくる絶対的な死だった。それは絶望と言いかえられるものじゃないかな?
可哀相だとは思わないか?折角、一番だったのにそんなめにあうなんて」

確かに可哀相かもしれない。子供ならば、この科学者たちに怒りを感じるし、犬に憐憫の情を示すだろう。
感傷的になれるのが、子供の長所であり短所である。だが、私は違う。
ライカ犬が可哀相などという連中は自分の生命がそういった生命の犠牲のうえにたっていることを忘れたエゴイストだと私は思う。
牛や豚を食うのと何が違う?生体実験で死ぬマウスと何処が違う?人が生きるとは有史以来そういうことだ。仕方のないことだ。

私は息を吐いた。なにかわからないが、無性に苛立っていた。自分の考えが一般論に過ぎないからだろうか。
「それで?スプートニク。ライカ犬。いったいなにがいいたい?」
と、尋ねた。グエンはそんな私の目をじっとみた。まるで心の奥まで覗き込むように。



310 名前:三月二十七日 4/4 :03/09/25 23:37 ID:???

「わからない?いや、わかっているけど、私の口から聞きたいんだろう?最後になって君という男がわかってきたよ。
それじゃあいってあげよう。この棟は、まさにスプートニク号なんだよ。それも『二号』のね」

二号、のところに彼はアクセントを置いた。白棟が二号・・となると1号は赤棟ということだろうか。
スプートニク。・・・
グエンは更に続けた。
「会長はロシアの科学者であり、我々はライカ犬である.そして・・いや、やめておこう。
 これ以上君にいうことはできない。その理由もいえない。それに私自身、それほど知っているわけじゃないしね。
 一つ言えるのは、会長に選ばれた君はここで最後まで見届ける義務があるということだ。
 そして、最後に、全てがわかると思う。スプートニクは、月にいかなかったけど、君が乗っているのだけはアポロだから」

月。それは真実ということだろうか。私が乗っているのはアポロ?じゃあ、他の皆はなんだ?。
「きっとその結末は、私達にも責任があるのかもしれない。宇宙を夢みたのは、科学者だけじゃないのとおなじように。
だけど・・・君がこの寮に隠されたパラドックスに気がつけば、もしかしたら、最悪の事態は回避できるかもしれないね」
「パラドックス?」
「根源的な矛盾だよ。ローラは其れに気がついた。いや、教えてもらったのかな?」
「誰に?」
その問いには答えずに、彼は立ちあがると、右手に持っていたピーナッツの袋をベンチ脇の屑入れに捨てた。
鳩はいつのまにかもう既にいなくなっていた。そこにはいくつかの糞が影のようにこびり付いているだけだった。
この寮での生活は楽しかったよ、と彼は言って笑った。
私はその笑顔をみて、真っ白なシーツに垂らした墨汁のように悔恨が広がるのを感じた。

「そろそろ失礼するよ。荷物をかたずけないといけないものでね」

そういって彼は去ってしまった。私が何か言う暇もなく、白棟に戻っていってしまった。
残された私は煙草を取り出すと、一本吸った。禁煙するつもりだったが、どうやら無理なようだ。
ゆっくり考えてみる必要があった。ピースが次第に嵌りつつある。いや、既にそれは全て集まっているのか?
昨日、イザークが何も教えてくれなかったのが、痛い。彼は私のあらゆる問いに黙秘を貫いた。
ロランが気がついていただって?そういえば、彼は寮を去るときに林檎をくれた。あれは何を意味していたのだろう。
わからない。そもそも意味なんてないのかもしれない。みんなで私をからかっているのか?
私は短くなった煙草を捨てて、口に溜まった唾を吐き出した。
ふと顔をあげると、日はすっかり落ちて、川底のように静かに透明な夜が忍び寄っていた。風が冷たい。
太陽があった部分には、星が顔をだして、淡いささやかな光を放っていた。




私は部屋に帰るとネットでライカ犬を調べた。彼女は、宇宙に出て七日後に死んでいた。


                                                    (三月二十七日終了)



311 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/25 23:46 ID:???
リアルタイムキター

グエン。。
しかし、一方で謎が深まるなぁ
クドリャフカ(ライカ犬)がのったの自体が二号機で
史実の二号機をさすわけではないようだけれど


312 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/26 09:20 ID:???
スプートニクは色々な哀しみでできている。
スプトーニクにまつわるエピソードも
スプートニクに乗せられた犬のことも
そしてスプートニク自体すらも。

さらばグエン。
気になるロラン打ちきりの回は>>50-59

313 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/26 18:14 ID:???
管理人が乗ってるのがアポロ1号(火災事故で3人の宇宙飛行士が死亡)
でないことを祈るよ

314 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/26 19:42 ID:???
―――でも、ヒーローになりたい。ただ一人君にとっての

Mr.Children 「HERO」のフラッシュ。グエン・・
ttp://www18.tok2.com/home/ibetasu4/hero.swf

315 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/27 02:27 ID:???
>>313
アポロ1号ってそんなことになってたんだ・・・月にいったのって何号だっけ?

316 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/27 07:55 ID:???
>>315
着陸に成功したのは11号。周回軌道飛行なら8号。

317 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/28 14:39 ID:???
天下一武道会をご覧の皆様、突然の無礼を許してもらいたい。
わたしは作詞家の井荻麟であります。
話しの前にもう一つ知っておいてもらいたい事があります。
わたしはかつて富野由悠季と呼ばれていた男だ。
私はこの場を借りて∀の意志を継ぐ者として語りたい。
もちろん富野由悠季ではなく、アニメ屋の一人としてである。
∀の意志はバンダイのような欲望に根ざしたものではない。
サンライズが∀を作ったのではない。
現在ガンダムSEEDがアニメ界をわがものにしている事実は、平成ガンダムのやり方よりも悪質であると気付く。

318 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/28 14:40 ID:???
私が∀を創ったのは、アニメがアニオタの重みで沈むのを避けるためだ。
しかしファーストガンダムを見た人類は、そのアニメとしての可能性を拡大したことによってアニオタそのものが力を身につけたと誤解して、
福田・両澤のような勢力をのさばらしてしまった歴史を持つ。 それは不幸だ。 もうその歴史を繰り返してはならない。
アニオタはアニメを離れることによってその能力を広げることが出来ると、なぜ信じられないのか。
われわれはアニオタの手でアニメを汚すなと言っている。
アニオタは萌えや燃えに魂を引かれた人々の集まりで、アニメを食いつぶそうとしているのだ。
アニオタは長い間このアニメという揺りかごの中で戯れてきた。
しかし、時はすでにときはすでにアニオタを部屋から、隔たせるときが来たのだ。
その後に至ってなぜアニオタ同志が戦い、アニメを汚染しなければならないのだ。
アニメを子供の揺りかごの中に戻し、アニオタは社会で自立しなければ、アニメは子供の視聴に耐えるものではなくなるのだ。
このガンダムシリーズさえアニオタに飲み込まれようとしている。 それほどにアニメは疲れ切っている。
いま、誰もがこのアニメという媒体を残したいと考えている。
ならば、自分の欲求(燃え&萌え)だけを果たすためだけに、アニメに寄生虫のようにへばり着いていて良いわけがない。

319 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/28 14:41 ID:???
現に福田・両澤は、このようなときにガンダムSEEDを仕掛けてくる。 見るがいい、この好虐な行為を。
彼らはかつてのコミケから膨れあがり、逆らう者の全てを厨と称しているが、
それこそ厨でありアニメを衰退させていると言い切れる。
テレビをご覧の方々はおわかりになるはずだ、これがバンダイ・サンライズのやり方なのです。
私がサンライズを日本刀で制圧しようとしたのも悪いのです。
しかしバンダイ・サンライズはこのガンダムSEEDの視聴者に自分たちの味方となるガンオタがいるにも関わらず、ガンダムを破壊しようとしている。」


320 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/09/30 00:34 ID:???
深夜の保守

321 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/10/01 21:38 ID:???
ぷららのアク禁が解除されるまで続きは無理っぽい

322 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/10/02 01:41 ID:???
>>321
な、なんだってー!!

323 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/10/02 22:50 ID:bb05dv2E
plala解除age

324 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/10/04 21:17 ID:???
保守である

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