第三回天下一武道会 三月二十一日
[ 第三回天下一武道会 サイドA ]
- 149 名前:三月二十一日 :03/08/04 06:47 ID:???
雲ひとつない快晴。気温は暑くなく、寒くなく。
さて、まずは、私が住んでいるところを明確に記しておこう。
図は前に書いたのがあるのだが(>>4)、どうもあれだけではわかりにくいかもしれないからだ。
今後のことを考えて、私自身のおさらいのためにも、日記に正確に明記しておくことにしよう。
ここは、二つの棟、および各広場、その他無駄に広い敷地があり、およそ2メートルのコンクリートの塀に周りを囲まれている。
入りぐちは、正面にひとつだけ。裏門はなし。棟は、白と赤の輝かしい二色。地面の色も赤白帽子のようにくっきりと分かれている。
そして、丘の上にぽつんとたっている。昔ここにあったのは、どこかの華族の別荘で、其れを払い下げられたらしい。
いくらかかったかはしらないが、それを一度綺麗に更地にした後に、一からたて直した、と聞いている。
建物のセンスについて、取りたてて意見を述べる気はないが、わざわざこれをたてた意義はどこにあるのかは、いまだわからない。
裏手は、切り立った崖になっていて、まるでブラッ○ジャックの家のあるような断崖絶壁の場所を連想させる。
長い坂を降りたところには、スーパーや玩具屋、パン屋など小さな商店街があり、中心部には市電が走っている(礫死者一人)
小さな町であり、私はここにくるまで、東京の中枢の場所にいたので、この町を知らなかった。聞いたことのない町だった。
まぁ、ごくごく一般的な多少寂れた時代遅れの町である。ちなみに住人も変わったやつがおおいのは、いわずもがなである。
ここに私と住人たちはいわばコーンビーフの缶詰のようにぎゅうぎゅうに閉じ込められているのだ。
ほぼ拉致監禁に近い状態で。そういえば私の以前すんでいたマンションはどうなっているだろう。不安だ。
まぁ、とにかくここに私たちはいる。
- 150 名前:三月二十一日 :03/08/04 06:53 ID:???
では、日記に入ることにする。
よく晴れた日だった。春らしいのどかな一日。何もしてなくても自然に笑みがこぼれるようなそんな日だ。
そんな午前中、私は初めて棟の裏手を歩いてみることにした。
暇だったし、いつも私が暇なときに座っているベンチでは、レビルとランバラルが談笑していたからだ。
彼らと一緒に話すのは、とても疲れる。特にランバラルは最近、ちょっと挙動不審だ。必死だな、と誰かに言われたのだろうか。
どうもやつれたようにすら思える。頬が少しこけている。
玄関で靴を履いているときに、グエンがこちらをみて何か話したそうにしていたが、途中で止めて、廊下の奥に消えていった。
なんだったのかよくわからない。彼も最近少しおかしい。ロランが去ってからだ。
裏手は、途中から、.アスファルトの整備がなくなっている。どうもきちんと舗装されているのは、正面のあたりだけらしい。
時間がなかったのか、それともわざとなのかはわからない。だが、やはり土のある庭というのは、いいものだ。
私は、その赤黒い土を踏みしめるようにして歩く。脇には、ところどころ草が生えている。
ここは、棟のおかげで日陰になっているせいか、ひんやりとして気持ちがいい。風がそよぐようになびいている。
コンクリートの塀の脇には、桜の木が塀を隠すように植わっていて、その花がそろそろ開花しようというところだった。
其れをみながら、しばらくうろうろと歩いていると、思いもよらないものにぶつかった。
場所は、ちょうど真ん中、右手にチョークのように白い白棟、左手に六月の薔薇のように真紅の赤棟があるちょうど真ん中だ。
「・・どうしてこんなのがあるんだ?」と、私は一目見ていった。
そこには、いわゆる、ひとつの家庭菜園があった。
レンガで周りをちょこんと囲って、こんもりとした土壌に中に何かの苗、野菜が実っている。
日曜日によく近所のサラリーマンがやっているようなやつ。其れが、ここにぽつんとつくられていて、何かの実がなっていた。
よく見ると其れは苺だった。
太陽の光を浴びて、それは葉の緑色によく色づいたなかに赤く輝いていて、美しくさえあった。緑のなかにある赤はよく映えるものだ。
小さな猫が一匹、その土の脇で、気持ちよさそうに昼寝をしていた。実に幸せそうな寝顔だった。世の中に嫌なことはひとつもない、という顔だ。
ここだけが、このわれわれのすんでいるある種の特異性から抜け出していて、平和であった。
こんなところで、誰かが栽培していたのか。私は、意外に思ってもっと近寄った。広さは、そんなにない。大体2メートルくらいの小さなものだ。
レンガの脇に、シャベルと、肥料の入った袋が置かれていた。封はきられていて、中にある腐葉土は半分くらい減っている。
私は、レンガ脇にしゃがみこんで、苺をひとつ、取った。
その赤く熟れた実を私は、口に含んだ。噛むと、独特の酸味が入り混じった甘味があった。・・実に美味い。
そこらで売っているものとは違って、それには、生命というものをリアルに感じることが出来た。生きている果実の味だ。甘く、みずみずしい。
実は豊かになっているので、もう一個くらいいいだろうと思って、手を伸ばしたら、大きな声がした。
- 151 名前:三月二十一日 :03/08/04 06:57 ID:???
「貴様ぁ!勝手に何をしている!」
その声に驚いて振り向くと、イザークが、水のたっぷり入ったバケツを両手で持って、ものすごい形相でこちらを睨んでいた。
「人の物を勝手に食べるなぁ!」
私が何も言わないでいると、彼は再度そう叫んだ。それで、私はこれは彼がつくっていたものだとわかった。
これは、まずい。いわゆる野菜泥棒になってしまう。
戦時中ではないのだし、そんな罪に問われるのはまっぴらだった。
「いや・・ちょっと散歩してたら、美味しそうに実ってたものでね・・悪かった。」
それで、そう素直に謝罪した。
イザークは、私の真横まできて、そこで両手の持っていたバケツをおろすと、こちらをみた。
「・・もう2度と勝手にとるなよ!わかったらあっちにいけ!」
そういったら後はこっちにお構いなしで、バケツの水をひしゃくで、すくっては大事そうに苗の根元にまいた。
私は、このまま去ってしまうのは、どうもきまり悪かったので、彼の脇にたったままそのしぐさをみることにした。
イザークは、実に丁寧に、水をきちんとやっていて、それは普段の彼の言動からは創造できないものだった。
普段の生活の態度からして、水をまくなど凄く適当にやりそうな印象があったからだが、それはどうも私の思い違いだったらしい。
盆栽に水をやる老人のように丁寧に真剣な面持ちで彼は、水をまいた。まるで、それは手術をしている外科医のようだ。
一通り、まきおわってバケツの水がなくなると、彼はようやく、表情を緩めた。そして、ようやくまだ私が脇にいることに気がついたらしく、顔をしかめた。
「なんだ・・まだいたのか?そんなにこんなちっちゃなのが珍しいのか」
苺の実をひとつ大事そうにつまんで、彼は、そんなことを言った。
「いや・・ただ、君がこんなことをするようにはどうも見えなかったから驚いているだけさ。カルチャーショックとまではいかないがね」
「はん。貴様なんかには俺の感性がわかるわけないだろ。」
そう彼はせせら笑った。
- 152 名前:三月二十一日 :03/08/04 07:05 ID:???
「ねぇ、前から思っていたのだが、君は、どうしてそんなに苛立っているんだ?折角、寮でいっしょになったんじゃないか。
仲良くしようじゃないか。そんなにとんがっていても、何も楽しいことなんかないだろう。」
「うるさい。余計なこというな。」
「私には、わからないな。仲良くしたほうが楽しいだろ?少なくとも喧嘩するよりね。」
「うるさい。」
「思春期にはありがちだが、そういう反抗期は結局は損することに・・」
「うるさいっていってるだろ!貴様!仲良くする?冗談言うな!仲良く付き合ってもどうせおさらばするだけだろうが!
ロランみたいに去るときはあっさりとな!そういった一定期間の人付き合いが、なんの得になるっていうんだ!
干渉してくるな!どうせ、貴様はそういったタイプの人間だろうが!俺たちに冷たく打ち切りを宣告する!
去っていくものにたいして何も出来ないくせに、良識ぶるな!貴様は黙って編集作業でもしてろ!!」
「それは・・」
正論だった。何も言い返せない。私は編集者であり、彼らは作家だ。
こちらは、いわば資本家であり、向こうはいわば労働者だった。決して私自身はブルジョワ階級ではないけれど。
彼らと私には仕事以外のつながりというものはない。
「確かに君にとってみたら私は憎いかもしれない、けれど、私は決して・・」
「黙れ!俺に話し掛けるな!会長や、あの赤棟のくそ冷徹な管理人の仲間の癖しやがって!」
その言葉で私は、一瞬で、彼がとてもその二人を憎んでいるのだとわかった。
井戸の底から、円く切り取られた空をみあげるような、ものすごい憎しみがあるとわかった。夕日をみるようにはっきりと。
何が彼をそこまで駆り立てているのか私にはわからなかった。だが、それは私が見た中でもっとも直接的な憎しみだった。
すくなくともこの年頃の子供が抱くような感情じゃない。私は、小さくため息をついた。
それにしても、また赤棟か。まったく、あそこにいったいなにがあるっていうんだ。わからない。私にはわからないことが多すぎる。
自分のことすらよくわからなくなってくる。私は首を振る。
話題を変えたほうがいい。こういった話題は、だめだ。
- 153 名前:三月二十一日 :03/08/04 07:13 ID:???
「・・ところで、いつからここでこんなことをはじめていたんだい?」
しばしの沈黙の後。
私が、声色をかえて、静かに話すと、彼も一瞬表情を変えたが、おとなしくなった。しゃがんでシャベルで肥料をまきだした。
どうやら自分でも言い過ぎたのだと思ったのだろう。どこかしゅんとしているようだった。私もつられてしゃがみこむ。
「・・俺がはじめたんじゃない。俺は、最初は手伝っていただけだ。」
「手伝い?誰の?」
「そんなこと、貴様に話す必要なんてない」
ま、そりゃそうだ。
「ふむ。けど、こんなことをするやつは白棟にはいないな。となると、赤棟の誰かか・・」
「うるさい。勝手に推測するな。」
私たちの会話がうるさかったのか、隅で寝ていた猫が起きてきて、こちらにすりよってきたので私はそっと撫でた。
人懐こい猫だ。目の色が左右で違う。吸い込まれそうなゴールドとブルーの目だ。
もしかしたらヴァン猫かもしれない。トルコ地方の有名な猫だ。泳ぐ猫。私はこの猫が地中海を泳いでいることを想像した。
「・・まぁ、いいたくないなら無理にはきかない。ただ、こういうのはどちらかというとランバラルやレビル達がやることのように思えるな。
けれど、年配といっても、彼らにはこういったことをする趣味はなさそうだけど。」
「ふん。俺だって、あんまりこんなことするのは好きじゃない。どこかの店で買ったほうがはるかに楽だ」
「けれど、その苺とても美味かったよ。店で買ったんじゃその味は手に入らない」
私がそういうと、イザークは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにまた顔をなんともないといった感じに戻した。
「お世辞いわれても、貴様にはたべさせてない」
「そんなつもりでいったんじゃないんだがな」
さっきの苺は本当に美味かったのだ。ぷちっとしたまわりの粒々のさりげない舌触りが、また味をひきたてていた。
実は砂糖でもかけたように甘かった。そして、みずみずしかった。
だけど、決して、実際に砂糖をかけたような下品な甘ったるい味じゃない。もっと果実本来の味が素直に出ている。
あんなに美味いイチゴを食べたのは初めてかもしれなかった。
- 154 名前:三月二十一日 :03/08/04 07:21 ID:???
「どうだか。とにかく、さっさとどこかいけ。邪魔だ。」
「そういう言い方はいただけないな。私は、その味を素直に美味いと思っていってるんだ。
これには、良識も何も関係ないだろう?純粋な感想だよ。君は、よくやっている。苺はとても美味いよ。」
どんな人間だって、自分の作ったものを誉められて悪い気のする奴はいない。丹精こめて育てているとなれば尚更だ。
「・・・それは、当然だ・・この俺がつくっているんだからな」
イザークは、横を向いて、頬をわずかに赤くしていった。全く素直じゃない奴だ。
私が、にやにや笑いながら、猫をそっと抱いて彼を眺めていると、気に障ったのか彼は凄く不愉快そうな顔をした。
ふさふさしている猫の尻尾を触ってその独特の感触をひとしきり楽しんだあと、私は言った。
「・・・さて和解したところで、苺食べていいかな?」
「はあ?!それとこれは話が別だ!ていうより俺は貴様と和解などしてない!」
「・・じゃあ、どうやったら食べさせてくれるんだ?」
「だから、食わせないっていってるだろぉが!貴様ぁ!俺をからかってるのか!」
「いや、そんなことないぞ?なぁ、猫君?」
私は、猫に話し掛ける。猫はわかったようなわからないような顔でこっちをみた。
「信じるかァ!その猫返せ!これ以上貴様に触られたら、腰抜けがうつる!」
「あー、うるさい子供だ。ほら、返す。これでいいだろ。」
彼は私の腕からまるでもぎとるように、猫をとりあげた。まったく私は、悪代官かなにかか?
別に三味線をつくろうとおもったわけじゃなし。それに・・腰抜けというのはうつるものなのか?意味がわからない。
子供の相手は、まったく本当に疲れる。礼儀をしらないやつだと、なおさらだ。
だが、少し面白い。ロランたちとは違った面白みがこいつにはある。それに、何かこいつは秘密を知っている。
そして、それはきっとこの棟の本質に迫ることだ。おそらく。いや、確実に。
- 155 名前:三月二十一日 :03/08/04 07:26 ID:???
「・・そういえば腹がすいたな。そろそろ昼食にするか」
その後、イザ-クが猫を片手に、再度、肥料をまくのをみていた私は、時計をみてもう12時をまわっていることにきがついた。
そろそろ戻らないと、ほかの連中にぶつぶつ文句をいわれる。彼らは、締め切りより食事時間をしっかりとまもるのだ。
「貴様の作る料理は不味い。あのフラウとかいう女はどこにいった?」
「どこにいったのか、私が知りたいよ。おかげでこっちは大忙しだ。文句をいうなら自分でつくるんだな。」
「・・・チャーハンなら作れる。」
「へえ?じゃあ毎日チャーハンでも食うんだなぁ。朝から晩まで。私は君以外の住人に作るだけで、精一杯だ。」
「ありがたく思え。貴様の不味い飯で、今日のところは我慢してやる。俺は寛大だからな。」
「そりゃ嬉しくて涙がでるな。君の優しさは、火星圏にまで突き抜けているよ。いや、もう木星圏までいってるんじゃないか。
そして、二度と帰ってこない。悲しいね。さて、それじゃ戻るとするか。」
「貴様ァ!」
彼はかっとなって立ち上がった。そのとき大事そうに胸に抱いた猫が、にゃあ、とのどかに鳴いた。
「そうそう。あとは、この猫の分も作らないとな。」
猫が嬉しそうにもう一度鳴いたのを聞いてから、私は、ゆっくりと立ち上がった。
(三月二十一日終了)
P.S
「それにしてもかわいい猫だな。名前は?」
「福田。」
「もっとましな名前つけてやれ。いますぐ」
- 156 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/04 19:09 ID:???
- 福田かよ!?
- 157 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/04 23:50 ID:???
- このスレ読んでちょっとイザークに興味を持ったんで、久しぶりにSEEDを見た。
……出てないね、どうしちゃったのかな?
- 158 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/05 01:24 ID:???
- イザークだけがザフトに残ってる。えらい。
- 159 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/05 03:51 ID:IIYpBi0h
- 実はイザークはいいやつの予感
- 160 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/05 17:59 ID:???
- >>158
それって仲間外れにされたのでは……
- 161 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/06 02:43 ID:???
- 誰か前スレのログ全部もってない?
最初から全部読みたいんやけど、まだ前スレ見れないみたいだし。
- 162 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/06 15:46 ID:???
- 調べてみたが、>>90で上げたdatがまだ生きてる。
しかし保管サイトの人はもう読んでないのかな?
- 163 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/06 17:12 ID:???
- >>162
けど、あれ途中までしかないよね?みたけど。
だれか日記とか少年ガンダムごとにしわけした保管サイト作ってくれんかな・・
まったく関係ないけど、広島追悼age
- 164 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/06 17:42 ID:???
- 広島追悼に泥を塗った大学生がいるのでsage
- 165 名前:テンプレ保管庫人 :03/08/06 20:00 ID:???
- Vガンテンプレサイトの関連スレログにも保管させていただいてます。
よろしければどうぞ。
http://f4.aaacafe.ne.jp/~shar/Kassarelia/index.html
- 166 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/06 22:43 ID:???
- ___r'⌒ヽ_
/ l、__,/}::\ ←途中までしかないログをうpして、
(T´ | ゝ_ィ>};;_.」 指摘されるまでその事実に全く気付かなかった俺
! `''ァ、. \__}
〈`^`¬ノ . :〔 ナゼダ… ログハ カンペキ ダッタ ハズダ・・・
,... -- |__イ-、_j|_: . ヽ、--.,,__
´ rニト, フ ,ゝ__ 〉 `
└-'´ '
- 167 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/07 09:59 ID:???
- >>166
warotayo
- 168 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/08/08 23:45 ID:???
- HOSYU