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第三回天下一武道会 三月十四日

[ 第三回天下一武道会 サイドA ]

第三回天下一武道会 三月十四日

497 名前:投稿日:03/05/18 15:07 ID:???

今日でここに来てちょうど2週間になる。
なんというかあっという間だった気がする。時の流は、まさしく光陰矢のごとし、といったところだ。
最初はうんざりしたものだが、次第にこの生活に慣れつつある自分を感じる。

午前中、外に出てタバコを吸っている奇妙なことがあったので記しておこう。

天気はあいにく雲が分厚くかかっていて、太陽はその姿を出していなかった。
それでもこうして外に出てるだけで、次第に暖かくなっていく陽気を感じることができた。
季節が次第に移ろってきているのは、カラダで実感として理解できた。

食堂から持ってきたコーヒーを飲みながら、広場全体を何の気なしにと眺める。
テニスコートのように細長い白の広場には、私以外、誰もいなかった。ゴミ一つなく、アスファルトは整備されたままのようだった。
その脇にある花壇には白い美しい花が咲いて、そのアスファルトの殺風景な広場に、色取りを添えていた。
私は、一人、白く塗られている木のベンチに腰を下ろしていた。後ろには、まだ蕾のままの桜がうわってある。上を向くと枝がよく見えた。
みな部屋のなかにいるようだった。明後日にはまた雑誌を発行しなければいけないので、皆、頭を悩ませているのだろう。
管理人である自分は何もすることがない。多少、この過酷なスケジュールに罪悪感を感じたが、かといってどうすることもできない。
会長が決めたことを覆す権利など私に与えられているわけもないのだ。

第二号の売上もまずまずだった。
創刊号に比べるとほんの僅か落ちていたが、これも計算の内だ。
それに、ネットには違法流通しているだろう。しらべなくてもそのぐらいのことは容易に推察できた。
つまり実際には、売上の部数のざっと倍は読んでいるものがいる、と計算できる。固定した読者がついてくれればいいのだが。
順調な出だしといえる。
マニア向けにならないように、シリアスからコメディまで備えているのがよかったのかもしれない。
だが、色気がないのが難点だ、それにやはり女性作家がいないのもきつい。アンケートにもそれが如如実にあらわれている。
何かよい方法がないものか・・・とここまで考えて、私は自分が編集者らしくなっていることに気がつき、驚いた。咥えていたタバコを落とす。
いつのまにか自然にこんなことを考えている。
やばいな。私はそう思った。どうせ10号で廃刊が決まっている雑誌に思い入れなどないほうがいい。
足を上げて、まだ煙を出しているタバコを踏みしめる。念入りに、2度3度踏んだ。思い入れなどいらない。
それは無駄だからだ。
どんなに立派な雪だるまをつくっても暖かくなれば消えてしまう。それはでかればでかいほど無様に形状を崩していく。失望が増す。
そして残るのは、泥にまみれた水だけだ。その惨めな残骸を私は想像したくなかった。物体の消滅とはいつも醜いものだ。


498 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:10 ID:???


消える雑誌。減っていく作家。
それに会長が何をたくしているのか、何を考えているのか私は依然としてわからなかった。
視線を右に移して、Bアパートを眺める。目にやきつくように赤い。
静かだ。まるで誰もいないかのように静まり返っている。そこには密かに胎動しているものが感ぜられて、私は目をそむける。
沈黙という重いカーテンがまるで覆い被さっているかのようで、私はそれが嫌だった。その鉄のカーテンの向こうには一体何があるというんだ。

Bアパートのことはフラウから聞いて、あれから少し調べていた。

どうも朝、それもまだ日も開けぬ早朝に、そこの住人はバスに乗り込んで何処かにいっているらしい。
そして深夜、その時間は不規則だが、バスが帰ってきてまた住人を降ろしているということだ。
だが、どこに、何をしにいっているのかは、フラウ・ボウにもまったくわからない、ということだった。
何かをしているのは間違いないな。皆目検討がつかないが。それが私に苛立ちを与えている。
・・・どうしてこんなに胸騒ぎがするのだろう。


私は、苛立ちを抑えるために胸ポケットからタバコを取り出して一本咥えると、ポケットに手を突っ込んでライターを探した。
だが、みつからなかった。私は、ライターをポケットに入れたと思ったのだが、そこにはなかった。手はむなしくポケットをまさぐるだけだった。
ベンチから立ちあがって、ズボンの後ろのポケットを探す。
だが、そこにもやはりなかった。どこで落としたのだろう。私はくわえていた煙草を一旦はずした。
確か、ベンチに座ってタバコに火をつけたはずだ。それもほんの数分前に。そして、そのままベンチに・・
そこでようやく私は思い出した。
しゃがみこんで、ベンチの下を覗きこんだ。案の定、カルチェのライターはそこにあった。
雑な作りのベンチで木の板を貼り合わせたような作りだから、その木の隙間から落ちていたのだ。
私は、ため息をつきながらそれを拾い上げる。ひんやりとした金属の硬質な感触が手に伝わってくる。
この感触は嫌いでない。むしろ安心感を与えてくれる。ほどよい一定の質量感が肌にくっつくようによくなじむ。



499 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:19 ID:???

私が顔をあげてベンチに再び座ったとき、広場の景色が先ほどとちょっと違った。
広場のちょうど中央付近に、何か緑色のものがゆっくりと転がっている。私は目をこらす。
それはボールだった。緑色のボール。バスケットボールより少し大きいぐらいのものだろう。
私はそれの近くまで歩いた。ボールは私が近づいても相変わらずコロコロと転がり続けていた。
持ち上げようとして触って気がついたのだが、それはボールではなかった。
先ほどのライターと同じく手にひんやりと吸いつくような不思議な感触だが、ボールではない。
それは機械だった。目らしきものがついている。私はそれを両手で掴みあげて、じっと見た。これは一体なんだ、と疑問に思った。
だが、ふとそれをみていると何か自分はこれに見覚えがあるんじゃないか、といった錯覚に襲われた。


「アムロ、アムロ!ワカッタワカッタ!」
そのボールが、突然、そう叫んだ。その声は、呆れるほど実に機械的な声だった。
まさに子供の頃、ロボットが喋ったらこういう声だろうな、と想像していたままの声だ。
これはおもちゃのロボットだった。ボールの内部にAIを詰め込んだものだろう。その擬似音声は甲高く、僅かに耳障りに感じた。
私は、ふと、視線を感じて、後ろを振り向いた。
二階の窓からアムロ・レイがこちらを見下ろしていた。その視線は私でなく、手に持ったボールに注がれていた。
その時のアムロの表情はなにか隠し事がばれた子供のようにみえた。私は手もとのボールを掲げた。これはアムロのものなのだろう。
そして手の中の重みを私は考えた。その重みは、ただの質量だけでなく、何かもっと本質的な重さを感じた。
それはたとえるなら恋人の形見のペンダント、そういったものを持ったときにだけ感じる、独特の重みのようなものだ。
だけど、どうしてこれにそういった重みを感じるのかは、私にはわからなかった。

寮に戻って、階段を上り、部屋をノックした。アムロに直接それを返そうと思ったのだ。アムロは驚くほどすんなり出てきた。
彼は小さな声で礼を言うとそれを受け取った。彼の後ろめたげな瞳の奥に、その奥に在る感情を読み取れた。それは、戸惑いと、後悔?
私の頭の中に幾許かの疑問がよぎった。ドアが私の目の前で再び閉まった。だが、ドア越しにそのボールの音声は聞こえてきた。

ーアムロアムロ!ワカッタワカッタ!

擬似音声でそう叫ぶあのボールに、私は何かを感じずにはいられなかった。
他愛もない言葉でそれに意味などないのかもしれない。ただの機械の故障かもしれない。
だが、その言葉には私を立ち止まらせる何かがあった。それはまさしく直感だった。むろん根拠などなにもなかった。



500 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:24 ID:???

部屋に戻らずに、玄関に設置してある椅子に座る。それは相変わらずギィと悲鳴を立てながら私を受け止めた。
そこに背中を預けて、ぼうっと座ってると、階段から降りてきたランバラルがこちらに気がついた。いぶかしげにこちらをみて尋ねる。
「そんなとこで何をしているんだ?」
「いえ、別に何も。ただ、ここでぼうっとしているだけです」
私は曖昧な言葉で口を濁す。
ランバラルは眉を潜めたが、それ以上、こちらを追求することはなく、だが、かといってすぐに私の前から去ることもなかった。

「・・なにか?」
「いや。なにかというわけでもないのだが・・」そういって居心地悪そうにその場にまだ立っている。
「どうかしたのですか?」
もう1度私は彼に尋ねた。何か私に聞きたいことでもあるのだろう。

「いや。その、今日結果がでるのだろう?それが少し気になってな。決して教えて欲しいわけではないのだが・・わしはどうなってる?」
私は、その言葉にほんの少しだが、彼の弱さを見たような気がした。彼がアンケートの結果を気にするようなタイプだとは思わなかった。
剛毅な外見とは裏腹に実は、臆病な男かもしれない。しかし、だとしても私に彼を軽蔑する資格はない。
それは何故かと言うと、彼をこういった臆病な男たらしめたのは、会長のこの企画の所為であるからだ。
絶え間ないプレッシャーを感じ始めたゆえに少し気弱になったのかもしれない。普段なら、彼はこういったことは決して口にしないだろう。
人は環境によってその性格を様々に変化させていくものだ。それは人を脆くも、また強くもする。
会長はひょっとしたらこういうことを考えていたのかもしれない。そう私はちらり、と思った。
そういえば彼の作者コメントもえらく気弱なものだったのを私は思い出した。

「いまから、調べるところですよ。それに今はまだ二時前後でしょう。
アンケート募集は夜までやってますから、途中経過という形でしか教えることはできませんが・・まぁ、あなたは恐らく大丈夫でしょう。」
私は、脳裏に昨晩確認したときのアンケートのグラフを思い出して答えた。
そのグラフは、棒線の単調なものであるが、彼らにとってはそれが自分が打ち切られないための大事な証なのだ。
ランバラルはその言葉に幾分、自信を取り戻したとみえて、カイとは違うのだよ、といいながら靴をはいて何処かにでていった。
その変貌振りはみていて、呆れるくらいで、切り替えが早いな、と私は思った。
けれどそれがここではとても大事なことなのかもしれない。私は自分も思考を切り替えることにした。
どうも些細な出来事に気を取られすぎている。いつまでも思案したところで何がわかるということもない。

私は、部屋に戻って,仕事を進めることにした。
とりたたて今しなければということはないが、気をまぎわらすには仕事が一番だ。



501 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:31 ID:???


昼過ぎに、腹がすいたので、ミートスパゲティでもつくろうと思って、部屋を出た。
廊下には、イザークがいて、受話器を取り上げて、何かパンフレットのようなものを見ながらダイヤルを回していたところだった。
どうも出前を注文するようだった。いつもうどんを食っていた彼だが、流石にあきたのだろう。
「あぁ、俺だ。グゥレイトな焼飯をひとつ大至急持って来い。あ?金はツケでな。いなりはゼッタイにもってくるなよ」
と、かなり偉そうに注文していた。本当に、口の聞き方がなってない。
どうも馴染みの中華料理店に電話しているようだった。だが、それにしても乱暴な口の聞き方だ。



そんなイザークの横を通りぬけて、私は食堂に入った。
入ってすぐの正面のテーブルに、ロランが一人ぽつんと座っていた。そして奥の調理室からは、オトコの妙な歌い声が聞こえた。
中には彼ら二人の気配しかしなかった。フラウ・ボウはどこかにいっているのだろう。アムロのところに料理を運んでいるのかもしれない。
「こんなところでどうしたんだ?」私は隣の椅子に座りながら、ロランにそう尋ねた。テーブルの上にはレンゲだけ置かれている。
レンゲということは、何かスープでもすくって飲むのだろうか?ラーメンでも食べるのだろうか・・私は、ちらりと思った。
ロランが本当に嬉しそうに「スレンダーさんが、美味しいお粥をご馳走してくれるらしんです。」と私の質問に答えた。

「へぇ、彼も料理が得意だとはしらなかった。」

それはめずらしいこともあるもんだな、と私は思った。スレンダーはアムロほどではないが、ひきこもり気味だ。
被害妄想のせいもあるだろうが、残らなければいけない、という強迫観念があるかららしいが少し誇大妄想の気もある。
その彼が料理を作り、しかもご馳走するなど、ちょっと考えられないことだった。自分の連載の評判がいいからだろうか。

「なんか、昔、美味しい作り方を同僚に聞いたみたいですよ?」
ロランがそう答えた。


502 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:40 ID:???


「アンタも食いますか?」
ちょうどそのとき、スレンダーが、お粥の入った鍋と、器を厨房から持ってきながら、そう言った。
私は一瞬迷ったが断るのも体裁が悪いと思って、頷いた。スパゲティにはいささか食傷気味だったので、たまには粥もいいだろう。
それで、「嬉しいな。腹が減っていたところなんだ。」と、お世辞を言った。
スレンダーがそれをきいて嬉しそうに、頬をあげてにやつくと、有田焼風の陶器の茶碗にお粥を入れた。

「これは中国式の粥なんだ。日本のお粥とはまるで味が違うぜ。
日本のは主に病気をしたりしたときしかお粥とかは食べねぇけど、向こうは、これを祝い事などのときに食べるんだ。
すっぽんや茸、それにほしあわびなどをたっぷり入れて濃厚なダシをとってるんだぜ・・
これ自体に芳醇な旨味のエキスがたっぷりつまっててまさに至福の味だ。あとは生米からじっくり煮るのがこれを作るコツだな。
そうすることで米自体がその旨味を充分に含むんだ。だから噛むと、そのなんともいえない旨味がじゅわ、とあふれ出る。」

そんなことを自慢気にいって、粥のたっぷり入った茶碗を渡した。
私は、そのスレンダーの講釈を聞きながら、真っ白な蒸気を立てているそれをレンゲですくった。そしてじっと見つめる。
ほどよく煮えたと思われる米は、粒がピンとたっていて微かに色がついていた。香りが実にいい。
見るからに滑らかに喉を通りそうで、美味そうだ。ほかほかと湯気をたてているそれをみて、私は無性に食欲をそそられた。

「ささ、二人とも食べてみてくれよ。」
スレンダーが、促したので私はそれを早速口に含んだ。
口内に感じるなめらかな米の質感が、私を官能と恍惚の支配する味覚の世界へと鮮やかにつれていく・・はずだった。だが。
硬い!
私は眉をしかめた。硬い。米の芯が完全になくなってない。まだピンと筋が残っている。
米を充分に煮てなかったのだろう。それは口の中で、ゴリゴリとした触感で、とても美味しいとはいいがたかった。
咳をするふりをして、さりげなく舌をだして、くっついている米粒を一つとった。まだ熱いそれを含んだそれを人差し指と親指ですり合わせてみる。
やはり硬い。指の腹で押しても潰れない。芯が残っているのは間違いなかった。どうやらスレンダーの自慢料理は失敗したのだ。
生米から煮るのはやはり難しいのだろう・・それにしてもこれは噛んでいると歯が悪くなりそうだ。
「どうだい?美味いだろう?」
テーブルの正面に座って、身を乗り出しながらそう聞いてくるスレンダーに、私は返答に困った。まさか、マズイ、とはいいにくい。
それでなくとも被害妄想の気のある彼なだけに、私は返答に窮した。自殺でもされたら困る。



503 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:43 ID:???


「お、美味しいですよ。とっても!」私が困ってるのをみて、ロランが慌ててそう返答した。彼はレンゲをまだ口に含んでいる。
「そうか!そりゃ、うれしいぜ。まだお代わりはあるからドンドン食べてくれていいぜ!」スレンダーが上機嫌で言った。
私は横のロラン君の顔をちらりと眺めた。
形のよい眉を僅かにひそめている。それはそうだろう、いくらなんでもこれが美味しいというような奴はいない。
困ったな。私は、食べる振りをしながら、実に後悔していた。こんなことなら当初の予定どうりスパゲティでも食べてればよかった。
一旦、ロランと作戦会議をする必要があった。私はコップの中の水をいっきに飲み干してしまうと、空のコップをひらひらさせて
「すまないが、スレンダー。麦茶をとってきてくれないか?厨房の冷蔵庫にはいっているはずだ。」
スレンダーにそう頼んだ。
「ああ、お粥はびっくりするほど熱いもんな。わかった、とってくる。ちょっとまっててくれよ。」
スレンダーが立ちあがって、調理場に引っ込んでいった。

私は茶碗をテーブルにおいて、ロランに話しかけた。
「やれやれ、これは食えたもんじゃないな・・。」
「そうですね・・けど、マズイなんていえませんよ。折角つくってくださったんですから・・」
話ながら、ロランは既に茶碗の半分ほど粥を食べていた。きっと飲みこむようにして食べているんだろう。
「そうだな・・これが店で出た料理なら残してでていくこともできるが、そうもいかないのがツライな。
一つ屋根の下にいる限り、なるべくなら人間関係にヒビは、いれたくない。修復するのは至難の技だからな。
だとすると仕方がない。ここはスレンダーの顔を立てて、一杯だけは完食するとしようか。」
「そうですね・・一杯くらいならなんとか飲み込むようにすれば食べれますよ。噛んだらダメですね。」
「そうだな・・麦茶で流し込むとしようか。」


そんなことを話していたらスレンダーが麦茶の入ったビンを片手に戻ってきた。
「お待たせ。」スレンダーはにんまりと笑った。

私とロランは、嬉しそうに、内面はうんざりと、スレンダーに微笑んだ。



504 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:47 ID:???


十分後。
ようやく食べ終えた私とロランの二人は、スレンダーにお世辞をいっていた。胃がとても重い。
スレンダー自身は、粥を食べず、私達がたべているのをずっと幸せそうに眺めていただけだった。
「本当に美味かったよ。横浜の中華街で食べたのと同じような味でびっくりした。」
「ええ。僕もこんな美味しい粥は食べたことなかったです。」

「そうかい?そういってくれると作った甲斐があったってもんだ。どうだい?もう一杯?」
スレンダーが器になみなみと注いだ粥をこちらに差し出した。見た目は美味しそうなのだが。

「いや、もう結構!」
「僕もお腹一杯です。」
私とロランは慌てて、頭を振りながら、差し出された茶碗を前に、そういった。
「そうかい?遠慮しなくていいんだぜ?残念だな。」

「さて!それじゃ、私達はこの辺で失敬する。ご馳走様。」
私はロランを促して、そそくさと席を立つ。これ以上、この場にいて味の感想をきかれたらつい本音がでてしまいそうだ。
はやいとこ食堂を離れた方がいい。折角、和やかに終われるんだ。私は自分で自分を誉めてあげたかった。よく耐えたものだ。
麦茶でたぷついた胃をさすりながら私は、出口のドアに近寄った。

「腹がすいたのォ」
そういってランバラルが食堂のガラス戸を引いたのはそんなときだった。
「んん・・なにやら、いい匂いがする・・坊主たち、ひょっとしてなにか食っていたのか?」
入ってくるなり、その特徴の在る鷲鼻をひくつかせて、ランバラルはロランと私にそう質問した。

「あ、今、自分が粥を作ったんですよ。」
まだテーブルに座っていたスレンダーがその問いに、間髪入れずに答える。その声は何処か得意げだ。
「ほぅ、粥か・・それはいい。久しぶりにあっさりとしたものを食いたいと思っていたところだ。
最近、いささか胃の調子が悪くてな・・・やはり年にはかてんのかもしれん。」と、ランバラルはがらにもないことをいった。
「あ、食べますか?まだ、残ってますよ。」

なんか、嫌な予感がする。私は、彼等のやりとりをききながら、漠然とそう思った。


505 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 15:58 ID:???

「まだ残っておるのか?そうか、これはついているな。なら、折角だから頂こう。」
そういってランバラルは、先ほどまで私が座っていた椅子にどっかりと腰を下ろした。
「ええ、遠慮なく食べてください。どうせあまっても仕方ないですし。それじゃ器とレンゲ持ってきます。」

スレンダーがいそいそと再び厨房に引っ込むのをみて、私とロランはランバラルに話しかけた。

「ん・・二人ともそんな真剣な顔をしてどうしたんだ?」ランバラルが、怪訝そうにこちらをみる。
私は、彼の隣に腰掛けた。そして、手を伸ばしてテーブルの上で組んだ。
どういう風に彼にいったらいいか、私は少しだけ逡巡した。だが、ぐずぐずしてる暇はなかった。スレンダーがすぐに戻ってきてしまう。
ランバラルが彼を傷つけたら、折角の私とロランの努力が水泡に帰してしまう。それだけはさけないといけなかった。
「いや、その・・一つだけいっておきたくてね。彼の作る粥は、ちょっと癖がありましてね・・
口に含んだとき、最初はちょっと違和感を感じるかもしれない。口にあわないかもしれない。けど、彼にそれをいわないでほしいんだ。
美味しそうに食べてくれると助かるんだ・・まるで食いしん坊万歳のアナウンサーのように。・・私がいいたいことわかりますね?」

私はきわめて婉曲に話を伝えた。ランバラルならこういう言い方でさっしてくれると思ったからだ。
百戦錬磨の彼なら、私のこの微妙な言い方から全てを汲んでくれると思った。言外にある意味を推測してくれるだろう。
案の定、ランバラルはハッハッハと手を振りながら豪快に笑って
「わかっておる。わかっておる。そんなのは無論、心得ておるよ。決してそんな失礼なことはせん。
第一このラルがそんなことをするような漢に見えるか?」そういってこちらをギロリと見た。
「いや、それは思いませんが、まぁ,念のためという奴です。なぁ、ロラン君?」と、私はロランに会話を振った。
「そ、そうですよ。もちろん僕もランバラルさんがそんなことをするとは思ってません。気を悪くしたなら謝ります。」

「いやいや、謝らなくてもいい。むしろ、その和を大切にする心、それにこのラル、久しぶりに心がうたれたわ!」
そういってもう一度、豪快に笑った。私とロランも、釣られて笑う。ランバラルは親指をグっと立てる。
食堂を暖かな空気が包んだ。こういった寮での生活もわるくないものだな、と私は思った。
実にいいものだ。胸がすうぅとするようだった。わだかまりなく笑えることがこんなにいいことだとは私は忘れていた。
こんな風に過ごせるのなら、ここでの生活も悪くないな、頭の隅でちらりと思った。
そのうちにスレンダーが茶碗をもって戻ってきた。そして、お粥をすくって、それにたっぷりと入れると、笑顔でランバラルに差し出した。

茶碗をうけとったランバラルがそれをゆっくりと口に含む。そして、ゆっくりと咀嚼しているかのごとく、その太い顎を上下させた。
そのたびに彼の蓄えた髭が僅かに動いた。スレンダーがそれを満足そうに見守る。
私と、ロランも、そのを固唾をのんで見守った。ごくり、と隣で生唾をロランが飲みこんだのが聞こえた。私はランバラルが言葉を発するのを待った。




506 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 16:00 ID:???


ランバラルが言った。






















                      ,.. -───‐- 、
               /    , ', -─‐- 、.._  _,.-.\
      |二l二    /       i l  ‐#- 、゙ヽ. ̄   ,r`ゝ-
-─- 、  |二|二 バ (        | L_ u v   \`ー-‐''/ ヽ
 _,ノ  ハヽヽ亅   ヽ      | r‐、} ヽ ̄`ヽヽ,, ,//´7;|   なんだっ・・!
      ┌┴─      >   | |ト、|l u ` ー゚イ u vl.゚ー'  | この粥はっ・・・・・・・・!
 o    | 土土l カ  /    | ヽ_|! u'_,ノ {  u'  }じ v |
      ノ 上 匕    (    /|  /! r'',ニニ=`==='=ニヽ!  芯が残ってるっ・・・!
 o     l       \__/  |. / :| | |ー'ー'ー'ー'ー'ー'ー'ー' l∥ 芯が残ってちっとも美味くねえじゃねえかッ・・・・!
       ニ|二       ,ゝ   |/  :| l lーiーiーiーiーiーiーi‐rl ||
 o      ヽ_ノ    / |    iヽ.  ヽヽニニニニニニニンノ
                /   !    | ヽ   ` ー-- ニ二二~-‐'\   食えるかっ・・・・!
 o      |      ヽ  |   |  ゙i      ::::::::::::/ :|\. \   こんなもん・・!
        |       \|     !   !       //   |   \
 r:、      /       > /\  !ヽ..__,//\  |
 |/      /-、     /! /   oヽ |::::::::::::::/ __   \. |
 o     /  し'   (  "       |:::::::::::/      `
         
                      ランバラル


507 名前:三月十四日投稿日:03/05/18 16:01 ID:???










                    r'⌒ヽ_       r'⌒ヽ_   
                /´ ̄l、_,/}:\/´ ̄l、_,/}:\
                /__ィ::.  ゝ~_ィ´:; ,ゝィ:.  ゝ~_ィ´:; ,ゝ
                (T´ |1:::.  \_>、};;_」´:::.  \_>、};;_」´
               .  ! ` ̄''ァ一 、\ ヽ} ''ァ一 、\ ヽ}
               〈` ̄ ̄^`¬ノ .::〔 ̄´` ̄ ̄^`¬ノ .::〔
                   1  ヽ   .:::レ  ヽ   ヽ   .:::レ  ヽ、  
                |_イー-、_;;j|_:.   ゝ イー-、_;;j|_:.   ゝ
                __,,,... -- |. {―――‐フゝ、   〉 ――‐フゝ、  〉 ...,,,__
        _,, -‐ ´       ,r|__ト,    1ニノ ー'´,__ト,      1ニノ     ` ‐- ,,_
    , ‐ ´         └―'´       └―'´    └―'´         ` ‐ 、

                 ↑ ロランと私

   (十四日目終了)        

508 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/18 17:37 ID:???
力の限りワラタ

509 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/18 21:07 ID:???
すまんがあまりにも嬉しいので言わせてくれ


キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(`  )━(Д` )━(;´Д`)ハァハァ !!

510 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/19 20:36 ID:???
もしかして人いない?それともスレを汚したくないから控えてる?
羽目を外さない程度に感想を書いたほうが1さんの励みになるかと思う保守。

511 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/19 22:23 ID:???
>>510
そ、そうだよね。
書くヒト少なかったから遠慮しちゃったYO
>>1
ハゲシクワロタ
AAもイイ!!

512 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/20 00:35 ID:???
久しぶりに来て、第三回一気に読んだけどやっぱおもろかった
来週分?からはアンケも書こうと思います。
(´-`).。oO(今週のは3月14日過ぎたみたいだしなあ)

513 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/20 00:58 ID:???
>>510
ごめん、書くの面倒臭かったから・・w
もちろん面白かったですよ。最後のAAでワロタ。
最近の1さんは2chのネタ(特にAA系)で笑わせてくれるのが上手いですね。前もたまにあったけど。

514 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/20 19:35 ID:???
自分の出したキャラには愛着を感じる。てなわけで浮上age


515 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/20 22:32 ID:???
ロランがいなくなったら、グエンは相当落ち込むな

516 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/20 22:50 ID:???
それはそれで面白いけどね。

517 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/21 00:41 ID:???
俺的に最後まで残って欲しいのは レビル・ロランタン
いつ消えても無問題なのが  イザーク
皆はどうだ?

518 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/21 00:44 ID:???
>>517
漫画はつまらないが残って欲しい:ロランたん
別にいなくていいが漫画が面白い:イザーク

何が何でも最後まで残って欲しい:スレンダーw

519 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/21 21:15 ID:???


520 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/21 22:03 ID:???
残って欲しい:イザーク、スレンダー
いらん:カクリコン

動向が気になる:マ・クベ

521 名前:山崎渉投稿日:03/05/22 02:39 ID:???
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―

522 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/22 02:44 ID:???
少数派かもしれないが、スレンダーネタはもう秋田

523 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/22 14:19 ID:???
傑作age

524 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/23 18:57 ID:???
保守しておきます。

525 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/24 09:12 ID:???
落とすわけにはいかない。















絶対に

526 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/25 15:35 ID:???
中途半端な時間保守

527 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:03/05/26 23:19 ID:???
保守

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