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第三回天下一武道会 三月三日

[ 第三回天下一武道会 サイドA ]

第三回天下一武道会 三月三日

238 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:04 ID:???



今日も寝不足だった。私は大きく欠伸をした。昨日は、本当にうるさかった。
そういえば初日も何か音がしていたような気がする。いったい何をやってるんだ?



同じように7時に起きて、ふとんをたたんだ後、昨日と同様に顔を洗うために外に出た。今日もイイ天気だった。
太陽は、今朝もその存在を十分にアピールしていた。気持ちのよい朝だ。私は、持参したスリッパを履いて外に出た。
また、少年と出会った。どうやら彼もこの時間帯に起きる習慣らしい。
私は、軽く手を上げて朝の挨拶をした。少年・・ロラン君も丁寧に頭を下げてお辞儀をする。
今日は、タオルを持ってきたのを強調するために私はタオルをヒラヒラさせた。
ロラン君は、それを見てクスっと笑った。私も唇の端を少し上げて、笑いかえした。



石鹸を泡立てて、私は顔を洗った。水は相変わらずハッとするほど冷たくて私の精神を引き締めてくれた。
顔を丁寧に洗顔したあと、電動歯ブラシで、歯を磨く。私は面倒なことが嫌いだ。仕事ならともかく私生活では面倒なことはしない。
歯ブラシは電動の方が、よく汚れが取れる。それに楽だ。この時代に手でやるのはよっぽどの貧乏人か、ただの暇人だ。
ロラン君も隣にたって歯を磨き出した。彼のほうをちらりとみると、歯ブラシを手でゴシゴシとやっていた。
私は、彼はそんなに裕福ではないのだと推測した。もともと、こんなとこに来るのだからよっぽど生活には困っているのだろう。
彼の服装を観察した。ジーパンに真っ白なシャツというラフな格好だ。普通のこの年代の格好だといっていい。
ただ、ズボンには継ぎはぎが張られていて、それが私の推測があたっていたことを教えてくれた。
まぁ、何か事情があるのだろう。私は他人の過去には踏み込まない性格だ。そんなことをしても何の得もない。
二階から聞こえる「そうだー!どうせ(略」の声を聞きながら、私はうがいをして、朝の行為を終えた。
ロラン君の表情は、また引きつっていっていた。



239 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:06 ID:???




今日はそのまま、ロラン君と食堂に行った。
今朝のメニューは、ハムエッグとトーストが二枚、それにトマトのサラダという軽い洋食だった。
トマトを見て私は、昨日のアストナージのコラムを思いだし、ほんの少し食欲がなくなった。
美味しそうにトマトを食べるロラン君に自分の分のトマトも勧めた。



其の後。
ロラン君が自室に引き上げた後、私は食堂に残って手帳を眺めていた。三月五日にマークがしてある。
今日が3月3日、創刊号に間に合わせるには3月5日までにみんなの原稿を集めて、パソコンで会社に送らなければならない。
となると、グズグズしていられないってことだろう。私は今日から彼らの原稿のチェックに入らなければ。
わたしは食堂を見渡した。先ほど食事をしていたときには、マ・クベがカップラーメンを啜っていたのだが、今はそのすがたがみえない。
もう8時を回っているのだが、食堂の食事を食べたのは私とロランとランバラルだけだ。マ・クベは金がないらしい。
フラウの話によると、実家の鉱山の経営がうまく言ってないらしい。
もって後一ヶ月というとこらしいが、周りには「後、十年は持つ」など負け惜しみをいっているみたいだ。まぁ。どうでもいいことだが。
私は、辺りをもう一度見渡した。食堂の中はテレビの音しか聞こえなかった。
テレビの内容は主婦をターゲットに変更したといわれている某子供番組だった。
ランバラルはそのテレビを面白そうに見ている。




240 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:08 ID:???

私は、取り合えずランバラルに原稿のことをきくことにした。

ランバラル 「原稿?」

私      「そうです。」

ランバラル 「ハッハッハ。安心したまえ。・もう書いている。」

私      「どんな内容なのか、聞かせてもらいましょう?」

ランバラル 「ああ。漫画だ。某料理漫画をイメージのモチーフしにたものだ。」

私      「料理・・というと?」

ランバラル 「そうだな。砂漠の美味い料理を訪問したり、非常食の味の研究する男の話だ。水にもこだわる。
        第一回目だからな、それで方向性を考えるとするよ。まずはそれからだ。」

私      「それは結構ですが。最低人気だと即打ち切りですから。お気をつけて。」

ランバラル 「わかっている。まぁ。若者向けに、第一回目はジムの食べ方でもおしえるとするよ。」

私      「・・ジムって食えるんですか?」

ランバラル 「・・・・・・冗談に決まってるではないか?」



そりゃそうだ。




241 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:11 ID:???


次に今ごろに、食卓に来たカイを私は捕まえた。


カイ     「原稿?書いてるよぉ。俺はジャーナリスト崩れだぜ?当たり前だろう?
         ビンタの交わし方ってコラムを書くつもりだぜ。もう執筆ははじめてるから安心しなぁ」

私      「そうか、ならいいんだが。予定までには間に合うんだね?」

カイ     「そういえば、締め切りっていつだったっけかな?」
    
私      「明後日だ。」

カイ     「あさってかい?!早い!早いよ!」

グエン   「かなしいこといってくれるじゃないの」

私&カイ  「うわっ!!」


いつのまにかグエンがわりこんできていた。私は反射的に身を引いた。彼はにやりと笑っていた。
このオトコは本当に何なんだ。私の背中にいつのまに、忍び寄っていたんだ?
大学時代に、空手をやっていた私の背後をこうもあっさりと取るとは信じられなかった。キケンだ。
私は、その場をそっと離れた。カイにはまた後でいっておこう。
そう判断して、手帳をズボンの右ポケットにしまうと私は、管理人室に戻るべく、食堂の出入り口へと向かった。
グエンはカイの手を握って離さない。


そんな私の耳に最後に届いたのは、グエンが発した「いいこと思いついた。」という声だった。


242 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:15 ID:???


管理人室に戻り難を逃れた私は、パソコンの電源を入れて、その他の会社の仕事をする。
会長は編集者以外の仕事もいままでと変わらず私に任せているからだ。あの人は私に暇な時間を与えてくれないのだろうか?
12時まで、黙々と、メールで、書類を送り続ける。非常に忙しい。それでもなんとか一区切りはついた。


お昼は、各自適当なので、私はスパゲティを作ることにした。
食堂のキッチンを借りることにする。どうせこの時間は誰も居ないのだ。
別に使用してもかまわないだろう。私は食堂にいった。廊下に出るとマ・クベが電話をしていた。
「やあ、正二」などと親しげに話している。きっと友達なのだろう。私は邪魔にならぬよう彼の横を黙って通り抜ける。
食堂の厨房に入った私は、昨日もって帰ってた材料が冷蔵庫にあることを確認する
冷蔵庫の下から2段目の引き出しの右のブロックが私専用のところだ。そこから、野菜を取り出す。
使った材料は以下のとおり。

ニンニク たまねぎ
ベーコン バター
白ワイン 牛乳
生クリーム パルミジャーノ  卵黄

以下はレシピ。
でかい鍋に水を張る。このとき、みずはたっぷり使うことが肝心だ。
パスタは、少し硬めに茹で上げる。そのほうが旨い。


適当に刻んだ具をバターにてフライパンで弱火でじっくりと炒める。
イイ感じにいたまってきたら、そこに牛乳、白ワインをいれ、そのまま煮詰める 。
パルミジャーノをすりおろして入れ、生クリームとコンソメを適量入れる。
先ほど取り出しておいた、硬めにゆでた麺を入れ、絡める。
卵黄を潰して全体に絡める。 その上に少量の黒こしょうをかける。   
これで出来あがりだ。なれたものだからすぐにできる。簡単で、しかも旨い。


243 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:19 ID:???


イイ出来だ。
私が自分の出来に満足して、それを鼻歌交じりに皿に移しているところに、同じく料理をしていたフラウがやってきた。
手には、トレイを持っている。上にはサンドイッチが大量に載っている。
それは君の昼食かい、と私が尋ねたところ、「違います」と彼女はさらりと答えた。
私がじゃあ、それは誰のだい、とたずねたところ彼女はアムロの昼食よ、と答えた。
そういえばアムロレイは、食事の時、一度も見ていなかった。最初に見たきりだ。

フラウの話をよくよく聞いてみると、彼はひきこもりらしい。いわゆるヒッキ-だ。
出てくることはほとんどない、ということだ。だからこうして彼女が毎回食事をはこんでいるらしかった。
私は呆れた。もう15歳になる少年が、赤ん坊のごとく幼馴染に甘えているなど、信じられなかった。
だから「私が、それをもっていこう。」とフラウにいうと、トレイを奪って、食堂を出た。パスタはそのままにしておく。


二階にのぼる。そういえば階段をのぼるのははじめてだった。
私は手すりを左手で持ちながら、あがっていった。学校の階段のように階段は途中で折れ曲がって二階に行けるようになっている。
長い廊下がある。一直線に全ての部屋が並んでいる。トイレと洗面が206号室の隣にある。
そして手前の廊下の先のところに渡り廊下がくっついていて、向こうのBアパートに繋がっているのだ。
だが、今その鉄の扉には鍵がかかっているらしい。会長がそういっていた。となると行き来はできないのだろうか?
アムロ・レイの部屋は階段の一番手前。201号室だ。私は前に立つ。ふと、中から微かに話し声がするのに私は気がついた。
ボロイ木製のドアに、201とマジックで書いている。・・昭和ってそんな時代だっただろうか?
私は微かに首を捻りつつ、ドアのノブを掴んで回した。
・・が、あかない。どうやらかぎをしているらしい。
一応、カギはプライバシー保護の観点と、グエンがいるという理由で設置されていた。
私はドアをノックする。



244 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:22 ID:???

「誰?」
中から、微かに慌てた少年の声がした。

「私は、編集者だ。この前あったろう?君の幼馴染のフラウに頼まれて食事をもってきた。」

「・・・そこにおいといてください。」
「この床にか?」
私はそういって古い木目調の床を眺めた。汚い。・・いや、汚そうにみえる。私はトレイを持ったままかがんで、床を指でこすった。
・・どうやら見た目よりは綺麗そうだ。このカイにはロランがいるから掃除をしているのかもしれない。

「せっかく、持ってきてやったんだ。あけてくれないか?」
と、私は頼む。置いて帰れ、なんてこっちは子供の使いじゃない。
私はもう27なのだ。子供にパシリに使われたくはなかった。

「それに君には、雑誌にかく内容も立場上聞いておかないといけない。」

「・・だったら、いいです。それ。いりません。」

「・・いらない、だと?」

私はこの言葉にほとほと呆れた。この少年は本当に引きこもりなのだ。
人生の春とも言える青春時代を、汚い4畳半の部屋で過ごすつもりなのだろうか?それで満足なのだろうか。
まぁ、私には関係のないことだ。この少年の青春が、ひきこもりだろうが関係ない。それは口出しする問題じゃない。
けれど、雑誌のことは別だ。これは私の首にかかわるからだ。
私は少し乱暴にドアを叩いた。




245 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:24 ID:???

「おい!あけないか!
顔ぐらいみせたらどうなんだ?」

「いやです。・・ドア叩くの、やめてください。」
部屋の中からそっけないそんな声がした。私は、言い返した。

「食事、それじゃあ、もってかえるぞ。欲しいんだろ?
育ち盛りだ。お腹がすいてないってことはないだろう?食べたいなら、出てきなさい。」

「・・・僕、乞食じゃ有りませんから。」


こりゃダメだ。私は、ため息をついた。
駄目だと思ったらさっさと身きりをつける。これが私の主義だった。
無駄なエネルギーを使うことはまさしく無駄だからだ。それに私も食事がまだだった。
さめたスパゲティほど不味いものはない、というのが私の持論だ。早く食べなければ。
諦めて床にトレイを置く。そして、

「ここにおいておくぞ・・
あと、締め切りはあさっての昼までだ。忘れないように提出するように。」

と言い残して、部屋の前から去った。
狭い階段を降りながら、そういえば中で会話がしていたような・・と私は思い出した。
独り言だったのだろうか?だとしたら彼はもう末期症状かもしれない。


冷めたスパゲティは、すさまじくまずかった。




246 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:25 ID:???


昼食後は、少し休憩のため広場に出ることにした。
外は、アサと同じようにイイ天気だった。私は、スリッパでふらりと外に出た。
白の広場に設置されているベンチにすわり、青く澄んだ空を眺めながら、タバコをふかす。
風が私の頬を優しくなでる、微かに春の匂いがした。冬ももう終わりだな、と私は思った。
始まる前からこんな調子じゃ、この雑誌が終わるのはいったいいつのことなんだ?
口からソラにぽっかりと浮かんでるのと同じ白い塊を吐きながら私は、そんなことを考えた。


そのとき、Bアパートの方から銃声らしき音がした。
パン、と乾いた音が響いた。私は反射的に立ち上がる。
が、すぐに思い直して座る。常識的に考えて銃を所持している奴がいるとは限らない。
きっと爆竹か何かだろう。その証拠にBアパートは静まり返っている。


私は、ポケットからもう一本タバコを取り出すと、ライターで火を付けた。
「一本、私にもくれんかね?」
だしぬけに玄関から、一人の初老の男が出てきて、私に問い掛けた。
眼光が鋭い。人を圧倒させるような目だ。レビル将軍である。
上に立つ才覚のある人間にだけもたらされている能力の一つだ。
私は無言でタバコを彼に差し出す。
彼は、礼を言って、一本取ると私の横に座った。
「何か起きたようだね。」
彼はBアパートの方を見て、そう私に話し掛けた。
私は、その問いに軽く答える。
「そうですね・・・きっと、爆竹かなにかでしょう?まったく五月蝿いですね。」
「・・・そうか。君は何も知らないんだな。」
レビル将軍は、タバコを旨そうに吸うと、ふと思い出したように呟いた。




247 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:30 ID:???

私は、将軍のその言い方が気になった。
何も知らない、とはどういうことだ?


「・・知らないって・・何をです?」
「・・いや、きにせんでくれ。老人の独り言だ・・
ただ老婆心から言わせてもらうと、Bアパートには近づかないことだ。」

「なぜですか?」

「訳は聞かないほうがいい。それが君のためだ」

レビル将軍はそういうと、タバコをベンチ脇の吸殻入れに落とした。
もうこれ以上、その話をすることはできなさそうだった。彼は、もう何も話してくれないだろう。
私は釈然としないものを感じたが、曖昧に頷いておいた。別の話をしたほうがよさそうだ。

「ところで・・原稿の方はどうなっているんですか?」私は話題を変えた。

「原稿か・・もうほとんどできているよ。」
「どんな内容なのですか?」

「うむ・・・・そうだな。世界の不思議や、面白い成語について教えるつもりだ。
最近の子供は、物事をしらなすぎるからな。様々なジャンルを教えるつもりだ。
たとえば分子核構造の理論から、中国憲法、はては驚異の昆虫世界まで、わけへだてなくな。
その上で、子供が興味を持ってくれればいい。大人が子供に知識を与えなければな・・
なぁ、君。私は思うのだが、昨今もてはやされているゆとり教育などというものは愚の骨頂だと思わんかね?。」

レビル将軍は嘆くように言った。その意見に、私は頷いた。
確かに最近の子供はまるで、頭がない。


248 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 01:30 ID:???
 

249 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:33 ID:???


「それは私も思いますね。子供はもっと厳しく教育すべきですよ。
・・それにしてもさぞ大変だったでしょう。そんな多分野を調べるのは・・やはりインターネットをお使いに?」

「いや。私は古いタイプの人間でね・・どうもああいうのはあまり好きではない。
使えないことはないがね・・だからもっぱら書物だよ。私の狭い部屋に山済みにされておるよ。
けれど、これが一番役に立つのだから仕方がない。ハッハッハ。」

「書物ですか?確かにネットじゃなくてもそう言ったもののほうがより細かく載ってるかもしれませんね。
私も書物はよく読みますよ。岩波文庫とかありますよね・・ちなみに将軍は、どこの出版社のをお使いに?」

「民明書房だ。あそこの本はいい。実は今回の話しは全てそこから引用するつもりだからな。」

「民明書房?」
どこかで聞いたような名前だった。
だが、どれだけ頭を捻ってもどこで聞いたのかは思い出せなかった。




そのままベンチで夕食までの間、レビル将軍と雑談をする。
最終的に、かなりの洞察力と、知識と、それを活用する才覚を持った男と私は結論付けた。
中々の人物だ。私はこの将軍に好感を抱いた。だが、言葉の節々に何か微かな違和感を感じた。





250 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:40 ID:???


夕食後。
外で微かに汗をかいた私は、ここの共同浴場に入ることにした。
初日は、ショックですぐ寝たし、二日目はマンションでシャワーを浴びたので、ここの浴室は今日が初めてだった。
狭い脱衣場で、服を脱ぐ。そして、備え付けの籠に、服をきちんとたたんで入れておく。
どうやら、何人かは入っているようだった。同じように籠に服がいれられていたからだ。
私は、一人で風呂に入りたいタイプの人間だった。男同士が一緒の浴室にはいるなど、あまり好きではない。
けれど、仕方がない。ここしか、入る場所はないのだ。あのセイラ・マスとかいう女性と一緒なら喜んで入るのだが。


腰にタオルを巻きつけると、浴室の引き戸のドア・・ガラスが蒸気で曇っている・・を引いて、中に入る。
私は中を見て、多少驚いた。私の予想以上に、浴場は狭かったのだ。
旅館の大浴場みたいなのを想定していた私には、それはかなりの狭さに見えた。
これでは、4,5人入ったら一杯になるだろう。それぐらいのスペースしかない。
そして、入り口の脇には、何故か馬鹿でかいサウナが備え付けられていた。
これが、余計狭く感じさせる原因だろう。なぜ、こんなボロアパートにサウナなんて作っているんだ。
これがなければまだマシなはずなのに。
私は、腰に手を当てたまま、その場で深くため息をついた。会長の考えることはやはり意味不明だ。


「管理人さん?」
聞き覚えのある声がして、私は振り返った。褐色の肌が目に入った。
・・一瞬女かと間違った。だが、私はすぐに誰だかわかった。
「ロ・・ロラン君か・・君もお風呂かい?」
「ええ・・どうなさったんですか。こんなとこに立ち尽くして。」
不思議そうにそう質問する。彼の声が狭い浴室にこもって反響する。
幾重にもリフレインしながら、部屋に響く。
反響音と言うのは元の声より少し高く聞こえるものだ。だから、ロラン君は余計少女みたいだった。
彼は後ろ手で入り口のガラス戸を閉めながら、大きな瞳で私をじっと見た。



251 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:43 ID:???

その瞳に見つめられて、私は何故か動揺した。
「・・い、いや、ちょっと狭くてびっくりしちゃってね・・
これじゃあ最高で5、6人しかはいれなくないかい?」
私は話題をうまく逸らした。ロラン君はその言葉に納得したように相槌をうつ。

「あぁ。そうか。管理人さんは知らないんですね。
ここのお風呂は、交代で入る時間が決まっているんですよ。見てのとおり狭いですから。
だから、みんなが一緒になることはないんでこれで十分なんです。」

「・・そうなのか。
誰もそんなことをいってなかったからてっきり自由だとばかり。」
うかつだった。
少し考えればそれぐらいわかりそうなものだった。

「この時間帯は、僕とイザーク。それにスレンダーさんが入る時間です。
大体、三十分で交代です。今が八時ですから、八時半からはギャバンさんやランバラルさん達ということですね。」

「君達が一番風呂なんだね?」

「ええ。僕達が一番最初に入ってますけど。」

「なら、私もこれからはこの時間に入らせてもらおう。かまわないかな?」

「はい。それは別にかまわないと思います。」


よかった。あのむさっくるしいギャバンや、ランバラルと一緒に風呂に入るなど私には耐えられない。
かといって最後のほうの湯船など、変な毛が浮いてそうでいやだ。いや、きっと浮いているだろう。それも確実に。
そんな男のエキスといえる湯船に浸かることを考えただけで、鳥肌ものだ。そんなのは片足だって突っ込みたくない。


252 名前:三月三日投稿日:03/04/08 01:52 ID:???


まだ、このロラン達のほうがいい、一番風呂だし。そう思った。私は彼の体をまじまじと見詰めた。
まだまだ成長過程らしい。少年期独特の体つきだ。しかし思ったより筋肉質もついている、中々引き締まった体だ。
無駄な肉がない。私は、ロラン君は貧弱ないまどきの少年(たとえば、アムロ・レイのような)とは違うらしい。
あんまりまじまじと見ていると、彼に誤解されるかもしれないので、私はカラダを洗うべく、イスに座った。
そして、備え付けの安そうなシャンプーを使わず持参してきた高級シャンプーを使い髪を丁寧にこするように洗う。
洗いながら私はハッと思った。

ここに、ロラン君がいるということはもしかしたらあの男も一緒ではないだろうか・・?
私は、あの男を思い出して、背筋に冷たいものを感じた。こんなところで彼と一緒になったら、傷物になるかもしれない。
そう考えると、一番風呂は危険かもしれない。

「あ、ちなみにグエン様は一番最後にお一人で入ることを硬く義務付けられていますから・・」
同じように髪を洗っているロラン君が私の考えを読んだかの如く、そう答えた。私は胸をなでおろした。

その後、私達は、体を一通りざっと洗ってしまうと、湯船に浸かった。
熱かったので、もともとヌルメが好きな私には少しきつかったが、それでもやはり風呂は気持ちよかった。
いつもシャワーでさっと済ましてしまうので、久しぶりだった。
誰が沸かしているのか、と私はロラン君に尋ねる。
「え~と・・これは温泉らしいですよ?わざわざ奥深くまで掘って出したそうです。
あんまり熱いので、水で少し薄めてますけれど。誰も別にボイラーとか薪で、沸かしてるわけではないですよ」
ロランも気持ちよさそうに浴槽の中にカラダを伸ばしながらそう答えた。





253 名前:三月三日投稿日:03/04/08 02:02 ID:???


「そう・・なのか。」
私はこれを掘り出すためにいくら使ったのか考えて頭が痛くなった。
無駄なことをしたがる会長だ。この辺は温泉が出るとは知らなかった。いや、温泉が出るからここを選んだのかもしれない。
温泉か。そう考えると、この湯はいつも私がはいってるのとは違う気がする。
少しなんというかミネラルが入っているというか、ちょっと肌にくっついてくる感じだ。
これなら汚れが綺麗にとれるだろう。

「美容にもいいらしいですよ。
管理人さんはハンサムだから、必要ないかもしれませんけど。」

「ハハハ。お世辞はやめてくれよ。
それにこんな男だけのアパートで美容に気を使う必要がどこにあるというんだ?」

・・少しだけドキっとしたのは気のせいだ。私にそんな趣味はない。
それより彼がなぜ金魚を股間に置いているのか、それが気になってしかたがなかった。何かの宗教だろうか?
あまりに不自然過ぎる。けれど、聞かなかった。私は干渉するのもされるのもきらいだからだ。
私はタオルを頭の上に載せて、肩まで完全に湯船につかった。
思わず口から、ふぅっと息が漏れる。熱いが、気持ちイイ。
やはり私の体は、思ったより疲れていたらしい。こうして浸かっていると緊張がほぐされていくようだ。

「あとはですね、擦り傷や、打ち身、打撲にも効用があるそうですよ。」
ロラン君が髪を額になでつけながら、そんなことを付け加えた。
それにしても湯気がスゴイ。私は浴槽から手を伸ばして、上に備え付けられている嵌め格子の窓を微かに開けた。
外は真っ暗だった。充分に夜の冷気を帯びた風が、浴場に入ってきた。
一瞬で湯気が吹っ飛んだ。気持ちがイイ。ロラン君が、少しだけ寒そうな顔をしたので、私は窓をすぐにしめた。
寮のような共同生活では、住居人全てが協調性を持たなければいけないのだ。

254 名前:三月三日投稿日:03/04/08 02:05 ID:???

「そういえばセイラさん達は、ここのお風呂にはいらないのかい?」
「ええ。彼女達は通いですから・・」
「そうか。そいつは残念だな。」

私はオドケタ口調でそう言った。両肩を竦めて見せる。
「アハハ。何を考えてらっしゃるんですか?」
ロランがそんな私の仕草をみて、クスクスと笑った。

そんなたわいもない話をしばらくする。
久しぶりにイイ気分だった。今日はあがったらビールを飲もうと思った。
芯までキーンと冷えたビールの泡に口をつけて飲むことを考えると私は、とても楽しい気持ちになった。



15分後。
充分にカラダが温まったので、あがることにした。
脱衣場でバスタオルでカラダを拭きながら、ロラン君に、そういえばイザークとスレンダーとやらは来なかったな、と聞いた。
彼らは今日は入らないつもりなのだろうか?私は疑問に思った。
ロランがその質問に簡単に答える。

「いや、あの人達ならずっとサウナルームにいましたよ。ドッチが長く(サウナ室に)残れるか、との勝負だそうです。」
「また・・くだらないことをしているな・・」
「ちなみに今までの勝負は全てスレンダーさんの勝利だそうですよ。」

「そりゃ、めでたいな。」



正直、どうでもよかった。

255 名前:三月三日投稿日:03/04/08 02:10 ID:???

















さて・・今日の主要な出来事はこれでおしまいだ。今日も長くなってしまった。
ああ。右腕が痛い。二階は相変わらず騒がしい。タバコは切らしてしまったので余計気に障る。


だから、今夜はビールだけが私の友だ。かけがえのない友。戦友といってもいいだろう。あとは柿のたね。
ビ-ルが戦友だとしたら、柿の種は拳銃の弾薬だ。そうなると・・ピーナッツは手榴弾といったところか。
我ながらくだらないことを書いている。まぁ、いい。別に誰が読むわけでもないのだ。
それにしても、ふと私は柿の種を食べる手を止めて考えた。
昼間のレビル将軍の言葉が気になる。近寄るな、か。あの真っ赤なBアパートには一体なにがあるというんだ?
まぁ、将軍のいうことは聞いておこう。私は柿の種を口の中に放り投げ、ビールで流し込みながらそう思った。
(三日目終了)




256 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 07:43 ID:???
カイ、貞操の危機?(´Д⊂
グエンはいいキャラになってますね

257 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 13:39 ID:???
ローラたんハァハァ保守

258 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 20:14 ID:???
保守

259 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 20:30 ID:???
最後のフレーズに村上春樹節を感じ取りましたでつ

260 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 22:01 ID:???
スレンダーにも勝てないのか、イザーク・・・

261 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 22:15 ID:???
>>260
こと残る事に関しては
奴に勝てる者など居ない

262 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/08 22:49 ID:???
>>259
むしろ料理してるところに感じた。
それにしてもレビル将軍・・・酸素欠乏症にかかって・・・

263 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/09 08:43 ID:???
保守だ

264 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/09 22:24 ID:???
随分前も言ったが1さんの食に関する描写は危険だ。
コンビニでカルボナーラ買ってきてしまった(゚∀゚)=3 ウマー!
今度はレシピに沿って作ってみよう。
あとローラたんハァハァ。これもやばいって。

265 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/09 22:26 ID:VMEoCZ9V
536、そろそろ上げ

266 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/10 04:41 ID:???
保守だな

267 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/10 08:33 ID:???
久々に見たら第三回が始まってるなんて…
>1さんすげえよ、あんたすげえよ!!

268 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/10 15:48 ID:???
「やあ、正二」というとやはりあの正二なのだろうか
とか思いつつ保守です。

269 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:03/04/10 17:32 ID:???
>>268
そう、ポップコーンの正二だよ。決まってるだろう。

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