第二回天下一武道会 最終章 (6)
[ 第二回天下一武道会 ]
31 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/09 17:36 ID:/77X04aS
「行った、か・・」
アムロは二つのモビルスーツが出て行くのを見送る。
そして深く溜息を吐いた。
安堵の溜息だ。
これでいいんだ、と思った。彼らがここにいては駄目だ。
アムロはウッソに話した言葉を思い出す。
「運命なんてない・・か・」
そう漏らす。
「本当にそうだったらいいんだけどな・・」
アムロはララァを見詰めながらそう思う。
そして彼女との会話を思い出す。あの時、時空を越えたララァとの会話を。
それはもう大分昔のことだけど、未だに鮮明に思い出せる。
一字一句間違えることはない。
では、この僕達の出会いはなんなんだ?
ああっ
これは?これも運命なの?アムロ
ああ、そうだ、そうだと思う。これも運命だ・・
32 名前:1 :03/02/09 17:37 ID:???
運命。
アムロ自身は運命というものは、存在していると思っている。
しかし、あの少年にはこの結末が運命だと思って欲しくなかった。
運命という言葉はとても便利で、一度使ってしまうと癖になってしまうから。
それは決して好ましいことではない。
これから前を向く人間には、そう思って欲しくない。
あくまで自分の行為による結果として、物事が生じたと思って欲しい。
少年には希望が必要なんだ。その為に多少の嘘は必要だと思う。
「だけど、これは僕のエゴかな・・僕は彼に次世代の重荷を背負わせただけかもしれないな・・」
アムロは先程まで少年の座っていた場所をじっと眺めて、そんなことを思った。
33 名前:1 :03/02/09 17:39 ID:???
「ッツ・・・・」
軽い頭痛を感じる。
アムロは一瞬目を閉じる。
眩暈も微かに覚える。
シャアが来るまでに、もう暫く時間があるだろうと考える。
とりあえずこの場所を出ることにする。
そしてララァに「行くよ・・ララァ」と声をかけてドックから出て行く。
もうハッチは開け放しておいた。
サザビーが着艦できるように、シャアが戻ってこれるように。
そして、それはそんなに後のことではない。
34 名前:1 :03/02/09 17:41 ID:???
アムロは再びキールームに戻る。
ゆっくりと辺りを見渡す。
そこもいまやあの宿命的な暗闇は存在していない。
ドックと同じ様にもはや圧倒的な光に包まれている。そして霧にも。
そんなに広くはない空間にしては、霧はかなり濃く、足元の方はもはや床が見えないくらいだ。
ギレンの姿は見えない。この濃厚な光の霧の中のどこかに埋没しているのだろうとアムロは思う。
無論、探すつもりはないけれど。
そっと椅子に座る。
ララァは自分の右手にそっと立つ。
手を伸ばせば届きそうな距離に彼女は立つ。
35 名前:1 :03/02/09 17:43 ID:???
けれど、僕は手を伸ばせない。
まだ、僕と彼女の間には透明なガラス板が存在している。
それは依然として僕と彼女を完全に隔てている、とアムロは思う。
舌打ちをする。
自分で作った壁が僕を苦しませるなんて。
そんな自分がさっきウッソにした説教を、つくづく滑稽だと思う。
前に一歩も進んでいないのは僕の方なんだ。
僕とシャアの方なんだ。僕らはまるで彫刻の様に固まっている。
そんな自分に、アムロは苛立ちを隠せない。
自分は他人に説教出来るほどの人間じゃない。
そう思うのだ。
36 名前:1 :03/02/09 17:45 ID:???
アムロはララァに触れるのを、今は諦める。
駄目だ。この壁は、今は、まだ取り除けない。
今はまだ?
それじゃあ、もう少し後には、触れるようになるのか?
この硬く閉ざされた扉が、開くというのだろうか?
わからない。
いつのまにか、手持ち無沙汰になった手の爪を無意識のうちに噛んでいた。
そのことに気がついて、一瞬やめようかとも思ったが、思い直して噛みつづける。
別に誰もいないのだから、そんなこと気にする必要はない。
人はいない。
僕とララァ以外には。
アムロは爪を噛む。
強く。割れんばかりに。
37 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/09 17:47 ID:???
- 援護 いらんかな。
38 名前:1 :03/02/09 17:54 ID:???
爪を噛みつづける。そしてもう一度ララァを見ようとした瞬間。
頭の中で、何かが弾けた。
「ッ・・・・!!」
アムロは激しい頭痛を感じて、蹲る。
いや、これは頭痛なんて生易しいものではない。
まるで頭の中で異物が力いっぱい跳ね回っているかのような痛み。
頭の中で多量の閃光が弾けたように思えた。脳をかき乱す光。
それは自分の精神を、破壊する圧倒的な光。
目の前が、真っ白になる。
耐え切れずに思わず椅子から転げ落ちると、そのまま床を這いつくばる。
39 名前:1 :03/02/09 18:00 ID:???
「ア・・ア・・・」
思わず、ただ呻く。
顔を床に押し付けて、アムロはもがく。先程のギレンと同じ様に床を這いずる。
あまりの痛みによる生理的な涙が出てくる。ボロボロと。
全身が総毛立つ、酷い悪寒と吐き気もする。動けない。
身体が、引き裂かれる。
霧の中から、無数の手が伸びてきて、自分をどこか遠いところに連れて行こうとする。
霧に囲まれているせいか、そんな感覚にも同時に襲われる。
駄目だ・・
まだ僕は・・そちらには・・イケナイ・・
思わず、そんなことを呟きながら、アムロは抵抗する。
アムロは亀の様に身をひたすらに丸くして、この地獄のような時間が過ぎるのを待つ。
歯を食いしばり、瞼をぎゅっと閉じたまま。
40 名前:1 :03/02/09 18:06 ID:???
時間で言えば、三十秒程度だったろうが、アムロには永劫に感じられた。
閃光は、さざなみの様に薄れて、すぅっと消えていった。
「・・・消え・・た・・?」
アムロは安堵する。
だけど、もはや立ち上がる気力さえなかった。
指先一つ動かせない。
よくみると。血液すら止まっていたのか、指先は、真っ白になってて、感覚がなかった。
それを、見詰めながらアムロは思う、。
もう後ほんの少しでも長く続いていたら、自分は駄目だっただろう・・
そう思う。
41 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/09 18:08 ID:???
- 連投防止援護。1さん頑張れ!!
42 名前:1 :03/02/09 18:11 ID:???
動こうとしても、全く動けない。
仕方なしに、アムロはうつぶせになったまま、とにかく呼吸を整えようとする。
酷く小刻みに息を吸って吐くことをしばらく繰り返す。
ゆっくりと酸素を送らないと、肺が痙攣しそうだと感じたからだ。
静かに、まるで怪我をした小動物の最後の瞬間の様に、短い呼吸を繰り返す。
吸って、吐く。また吸って、吐く。
一定のリズムを取りながら、アムロは慎重に呼吸をする。
それを5分ほど繰り返す。
ようやく酸素が肺に溜まっていく気がしてくる。
アムロは、やっと大きく息を吸い込む。
ゆっくりと、肺の隅々にまで、新鮮な酸素を行き渡らせる。
自分の中の細胞が静かに息を吹き返すのを感じる。
その感覚はとても心地よいものである。
けれど、全てが息を吹き返すわけではない。
43 名前:1 :03/02/09 18:17 ID:???
アムロは感じる。
今の発作で、自分の細胞のいくつかは、死んでしまっている。
それは、もう決して蘇らない。
意識の海の底に、自分を構成するいくつかの欠片は埋没してしまった。
けっして、誰の手も届かない深海に。
そしてもう掘り返すことはできないほど、深く。
アムロは身体を少しだけうごかして、仰向けになる。
そして、天井を眺めようとするが、霧の所為で何も見えない。
仕方なく、アムロは目を閉じる。
思考の海に沈む。
その中で、失われていく、静かに死に絶えている自分の残骸を思う。
そして、その代わりに自分の中に何かが侵食してきたのを感じる。
どろりとしたものだ。
これは、なんだ・・?水・・・なのか?
アムロは漠然とそんなイメージを頭に浮かべる。
44 名前:1 :03/02/09 18:26 ID:???
頭を振って、そんなイメージを振り払おうとする。
しかし、そのイメージはもはや自分の中に内在されてしまっている。
自分を濡らす水。それは雨なのか?
アムロは、再び爪を噛みはじめる。
そして、自分なりに今の発作について検証し始める。
だが、考えるまでもなく、すぐに妥当と思われる仮説を思いつく。。
それはこういうことだ。
いくら自分が常人より、多少優れているとはいっても常に思惟の干渉を受けているのはムリなんだ。
戦場だけ、コクピット内だけ、というような限定的時間ではない。この艦にいる限り恒常的に、だ。
ざっと考えると自分は一ヶ月も精神の干渉を受けている。
それを支えつづけるには自分の精神は限界に近づきつつある。
複雑に重なり合う思惟の負荷に耐え切れそうにないらしい。
どうやら、自分の精神は、限界に近づきつつあるのだ。
いや、限界に近づいているというより、臨界といったほうが正確かも知れない。
脳の何処かにある見えない境界があって、そこを超えそうだといったほうが的確かも知れない。
そこを越えたらどうなるのかわからない。
けれど、知りたいとも思わない。
45 名前:1 :03/02/09 18:28 ID:???
「これってある意味強姦だよな・・」
アムロはそう口にだす。
むしろ、強姦より酷いのかもしれないと思う。
強姦は肉体への侮辱だが、これは己の精神そのものへの侮辱なのだから。
頭痛は治まったが、一時的なものに過ぎないだろう。
今まで感じていたような軽い痛みではなく、今のような重い痛みはこれからも自分を襲う。
いつまで耐えられるかな・・?
そんな考えが、頭をよぎる。
もっとも、そんなことわかるわけがないのだけれど。
46 名前:1 :03/02/09 18:34 ID:???
シャアはこの事を知っていたのかな、と考える。
いや、知らないだろう。
普通なら三ヶ月かけて、じっくり強めていくであろう思惟の負荷だ。
深海に潜るときにゆっくりと圧力に身体を慣らしていくダイバーの様に。
一気に潜れば、圧力で内臓は破裂してしまう。
それと同じことが自分の脳にもいえる。普通に負荷を強めていけば、おそらく大丈夫だったのだろう。
だけど、急激に覚醒してしまった所為で、自分の精神は予想以上に減耗してしまっている。
死んでしまっている。
そしてそれは時がくれば、蘇るといった種類のものではない。
絶対に。
アムロは、床に仰向けになったまま、そんなことを思った。
47 名前:1 :03/02/09 18:54 ID:???
こうして床にそっと身体を横たえていると、時間の感覚がまるでなくなる。
アムロは目を閉じる。
深い海の底にいるような、どこか無限に近い感覚。
そこに一人で自分が浮かんでいるような錯覚に陥る。
時間がまるでゴムの様に延びたり、縮んだりしているような気さえする。
質量を持たない時間がただ、茫漠と過ぎていく。
もはや一時間がどのくらいなどは全く判らなくなる。
時間の実体が、なくなる。アムロは何もわからなくなる。
未来さんたちが出て行ってどれだけたったかな?
アムロは考える。
既に一日が過ぎたようでもあるし、まだこの部屋に来て何分も経っていないように思う。
しかし、そんな事は、もうどうでもいいと思う。
アムロは何も考えずに眠る。
意識が、繋ぎとめられなくなる。
48 名前:1 :03/02/09 19:07 ID:???
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いまだ、雨が降っている。
したたる雨の中、僕は未だ一人歩いている。
足元まで水かさが増しており、既に足首の辺りまで僕を捕らえている。
歩くたびに足に負荷がかかって仕方がない。
水の抵抗を足元に感じながらも、僕は足を進める。
目的地に行くために。
目的地?
そう、僕はある一つの地点に向かっている。
止まない雨に打たれながら歩いているのはそのためだ。
僕は一つの地点に向かっている。
銀の様に細い雨は、相変わらず僕を穿っている。
優しく地面に落ちるその雨を僕はもう何時間も浴びつづけている。
おかげで、服はぐっしょりとしていてとても気持ち悪い。
脱いで、着替えたかったが、とてもそんな時間はない。
第一、着替えの服すら持ってないのだ。
49 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/09 19:11 ID:???
50 名前:1 :03/02/09 19:11 ID:???
「・・厭になるなぁ・・」
足元に溜まっている水に不快感を感じて、僕は立ち止まって呟いた。
もっともそんなことをいっても、水がなくなるわけはないけど。
僕は溜息をつく。そして、辺りを見渡す。
ここはどこだろう?
突然にそう思う。そういえば、ここは何処だったっけ?
僕が歩いている道は、湖畔沿いの細い道だ。
いまでは、もはや湖の形は見る影もない。
長雨の所為で湖の水は氾濫してしまっているみだいだ。
僕が見渡せる一面の世界は水が侵食している。まるで洪水の様に。
というか、これは洪水そのものなんだ、僕は思い直す。
僕はその水をみつめる。
そんなに青くはない。どんよりとした雲が、太陽を隠している所為で暗い陰気な水といった印象を受ける。
道沿いに所々に生えている木々はその姿を現しているけれど、根もとの地面はもう見えない。
木のほかには、なにもない。
ここは、そんなに開発された土地ではないのだから。
51 名前:1 :03/02/09 19:20 ID:???
そんなことを思いながら、僕は、ゆっくりと辺りを眺めた。
そして、この道沿いの遥か向こうに一つの建物があることに気がついた。
雨が降っている中でもその建物は朧に浮かび上がっている。
そうだ、僕はそこに行くところだったんだ。
僕は突然、思い出した。
そこにいるある人に会いに行くつもりだったんだ。
急がないと。僕は思う。けれど、その前に水が無性に飲みたかった。
僕はもう一度、足元の水を掬う。
手のひらに溜まったその水をもう一度舐めてみる。
・・少し塩辛い。この洪水の先は、海と繋がっているのかもしれないな、と僕は思う。
そこで、僕は脛の辺りまで水がきていることに気がつく。
さっきは足首だったのに。僕は、愕然とする。
水が急速に増えていっている。
時間がない。
僕は水の中を駆ける。
足にかかる負荷はかなりのものだけど、走らなければいけない。
この水が僕を飲み込んでしまう前に。
僕はあの人にあわないといけない。
水のなかを駆け抜ける。いつのまにか日は暮れてきている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
52 名前:1 :03/02/09 19:27 ID:???
目を開ける。
ぼんやりと、何かが、視界に入る。
なんだ・・?
あれは・・天井だ・・天井が見える・・。
天井?
そこで、アムロは意識を取り戻す。床に横たわっている自分に気がつく。
記憶はないが、いつのまにか眠っていたらしい。
酷く汗をかいているようで、気持ち悪かった。
慎重に身体の感覚を探る。足のつま先に力を入れてみる。
・・ちゃんと入る。
どうやら、身体はもうなんとか動くみたいだ。
アムロは、ゆっくりと、起き上がり、一度だけ大きく伸びをする。
そして、辺りを見渡す。
霧はいつのまにか大分薄くなっているようだ。
53 名前:1 :03/02/09 19:32 ID:???
アムロは椅子に座る。
背中に椅子の硬質な感覚を感じる。
ララァは相変わらず、そこに立っていた。アムロは彼女の顔を見て、心を落ち着かせる。
そして、手元のコンソールパネルを操作して、璧面モニターを再び起動させる。
現在のこの艦の位置を確認するためだ
灰色だったモニターに、外の、宇宙の映像が映しだされる。
正確なデータもだそうとしたが、やめた。どうやらその必要はないらしい。
モニターには、透き通るような青い地球が映し出されていた。
アムロはその美しさに息を飲む。やはり、この美しさはたとえ様がない。
全ての始まりであり、終わりである地点。
この航海の終着点・・目的地はここである。
54 名前:1 :03/02/09 19:35 ID:???
この艦が宇宙空間を漂っていた理由は元々思惟を集めるためだけである。
ゆえに、この艦は今まで、地球連邦とジオンの戦闘が行なわれた場所を巡っていた。
それを三ヶ月かけて全て廻る予定であったのだが、システムが起動すればもはや巡る必要はない。
この艦は、起動した瞬間に、自動的に地球への帰路を取っていた。
地球への降下。
ブライトにとってもギレンにとっても目的は地球連邦に対する復讐みたいなものだから、これは当然といえた。
シャアにとってみても、重力に魂を引かれた人間を宇宙に解放するには地球に住む人々が根本の病理である。
だから、地球への降下は、彼の理論に沿っているといえる。
アムロにはこの艦の降下を止めることは出来ない。
この艦は地球に落下する。降下する。自分の認識を人類に共有させるために。
そして、それは嫌悪すべきことなのだ。
大気圏で、この艦が燃え尽きてしまえばいい、とアムロは思う。
全ての思いも、哀しみも、生命も、飲み込んで、燃やして、滅却してしまえばいい。
そう思う。
僕とララァをこの艦に閉じ込めたまま。
なにもかもを閉じ込めたまま。
55 名前:1 :03/02/09 19:38 ID:???
シャアは・・まだ・・いないみたいだな・・、アムロは呟く。
そして、彼は再び目を瞑る。
再び。
意識の暗転。
56 名前:1 :03/02/09 19:44 ID:???
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日が完全に沈んだ。
僕はようやく目的の建物まで、あと百メートル足らずといったところまできている。
その建物の大きな窓からは、とても明るい光が差し込んでいて、温かそうだった。
それにくらべて、僕は思う。
自分の下腹部に視線を落とす。
そこはもう完全な暗闇に包まれていて、いったいどこまでが水に浸かっているのかわからない。
僕の身体は完全に冷え切っていて、もう水の冷たささえ感じ得ない。感覚がない。
このままだと、すぐに風邪を引いてしまうだろう、と僕は思う。
僕は今度は空を見る。
暗い、救いが感じられない闇だ。そして、雨は相変わらず降り注ぐ。
この時間帯は嫌いだな、と僕は呟く。
57 名前:1 :03/02/09 19:48 ID:???
日が沈み、月が昇るまでのこの不明瞭な時間帯は嫌いだった。
それはどこか死んだ時間だった。
傲慢な太陽により殺された大地に、月による救済が始まり蘇る前の。
死んだ時間。
そう、僕が過ごした時間の大部分は死んだ時間だった。
だけど、僕は、これ以上死んだ時間を過ごしたくはない。
・・その為に僕はあそこに行くんだろう?
あの建物に向かっているんだろう。
そうか、そうだったな。
僕は、そのためにいくんだった。
思い出せて、よかった。
58 名前:1 :03/02/09 19:50 ID:???
「急いでいかないと・・」
僕は水をかくようにして、前に動く。
かくように?
そこで、僕は自分の胸の辺りにまで既に、水が来ていることに気がつく。
間に合わないかもしれない、僕は焦る。
このままじゃ目的地に着く前に僕は溺れて死んでしまう。
自分の両腕が鉛の様に重いと感じる。
もっと早く動かさないといけない。
もっと早く動かさないと。
もっと早く。
だけど、僕が焦れば焦るほど動きは反比例的に遅くなる。
水は増える。
僕は、焦る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
59 名前:1 :03/02/09 19:56 ID:???
「う・・ん・・」
アムロは目を覚ます。
心臓が乾いた音を立てている。動悸が激しい。
それに、気のせいか、体の節々が痛い。
どうやらまた一瞬、気を失っていたようだ。
何かを感じた気がするけど、なにも思い出せなかった。
椅子から立ち上がると大きく伸びをする。
そして、モニターに映し出したデータを確認すると、頭の中で試算する。
艦のスピードと距離からいって、おそらくあと一時間ほどで、この艦は大気圏に突入するだろう。
シャアが地球で待っていることはまずない。
・・彼は必ず宇宙で待っている。僕の答えを聞くために。
となると、目的地の直前である、この付近にいるはずだ。
もうすぐ来る。
アムロは、それを直感で感じている。
60 名前:1 :03/02/09 20:00 ID:???
決着。
アムロは口に出してみる。
自分と彼の因縁はもうすぐ、ピリオドを迎えるだろう。
それは予定どうりだ。
けれど、同時に僕はもう一つの決着をつけなくちゃいけない。
そっとララァを見る。
年齢はおそらく15,6歳。体つきは小柄で、華奢だ。
姿勢はよく、美しい濡れたような黒髪を中央で分けて左右に束ねている。
吸い込まれそうな程美しい瞳は、ある種の感動さえ与えてくれる。
形のよい紅い唇。
そして、今気がついたのだけど、彼女の足元は裸足だった。
美しいと思う。
自分の感情を抜きにして客観的に見たとしても(もっとも自分である限り主体性は拭えないのだが)
だが、同時に哀しくなる。
それは彼女の美しさには、やはり現実のものとは思えない何かが含まれている。
そしてそれが、彼女の存在の非現実さを強調している。僕に気付かせている。
61 名前:1 :03/02/09 20:02 ID:???
アムロは自分の心臓が跳ね上がるのを感じる。
やはり自分はどうしようもない程この少女に惹かれているのだと思う。
これが恋愛感情なのかどうかはわからない。
わからないが、もうそんなことはどうでもいいように思う。
自分は彼女に惹かれ、探し求め、ようやくであったのだ。それでいいじゃないかと思う。
ムリに感情に名前をつけるのは好ましくない。
名前に感情が左右される怖れがあるからだ。
彼女と話すのは今しかないと思った。
今なら何か喋れそうな気がする。
例えララァが何も返事を返してくれなくとも、話し掛けるべきだと思う。
アムロはちょっと舌をだして唇を舐める。唇はかさかさに乾いていた。
ララァの目を見詰めながら、言葉を発する。
そして。
自分の気持ちを手探りで掴みながら、言葉という形に変えて載せていく。
62 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/09 20:42 ID:???
- 1さん乙!!!!
今初リアルで興奮中
63 名前:1 :03/02/09 20:45 ID:???
「・・僕は、あの時は・・あの頃は、貴女の言ってることが最初はよくわからなかった。
あの頃の僕は他人の気持ちを推し量れるほど、大人じゃなかったんだ。
君のシャアへの思慕を推察するほどには・・・成長してなかった。
むしろ、自分の気持ちを主張するだけして、受け入れられないと拗ねる程子供だった。」
そういってあの頃の自分を思い出す。
イノセントな少年時代を。過酷で、人が死にすぎたあの時代。
「けれど」 アムロはいう。
「けれど、それにもかかわらず、僕と貴女はわかりあえたでしょ?
たとえ、一瞬だったにせよ、あの時、僕らは人の繋がりを体現したんだ。
そうだろ?ララァ?」
それだけをアムロは熱に浮かされたように言った。
まるで何かに急かされるように。
アムロはララァの肩を掴んだ。無意識のうちに。
64 名前:1 :03/02/09 20:52 ID:???
「この事実は、人類を総体としてみたときにとても大事なことなんだ。
これは、僕たちに課せられた使命といってもいい。
僕たちだけが・・できたこと・・見せつけられた事実・・
人の繋がりは希望なんだ。
人類にとって、それは限りない希望だったんだ!人がわかりあえる事実!
それこそが僕らが子供たちに伝えなくちゃいけないことなんだ!」
アムロはそこで口を一旦閉じる。
話しながら、自分の感情が高ぶるのを感じる。
「人類にみせなくちゃ・・あの時の・・繋がりを・・
僕たちはあの時、未来を体現したんだ・・そうだろ・・?ララァ・・」
アムロはララァに肩に力を込めた。
自分が彼女に触れられるということに、疑問は感じなかった。
65 名前:1 :03/02/09 20:57 ID:???
「それなのに・・それなのに・・・貴女は、シャアを愛していた・・
そして・・死んだ・・僕らの・・繋がりは千切れてしまった・・
人の革新は・・僕らの体現した事実は・・それによって消滅してしまった・・
それは個人的思慕だ・・あなたのエゴイズムだ・・」
最後の方は自分の声は掠れていたと思う。
シャアを愛したあなたの罪だ、とアムロは糾弾する。
彼女を責める。
しかし同時に僕は遅すぎたのか、と自問もする。
ララァは待ちくたびれていて、それで、シャアに惹かれてしまったのか?
それは、僕の責任・・?
そして、僕が遅く現れた所為でララァの平穏を破ってしまった?
それゆえにあんな結末になってしまったのか?
彼女の小さな恋を壊したのは・・僕で・・死んだのも・・そのためで・・
僕の所為で。
そうかもしれない、だけど。
アムロは自分の思考に反論する。
首を振る。
66 名前:1 :03/02/09 21:07 ID:???
「けど、僕たちの出会いがあんな形だったのもやはり運命だったんだ。
あの時の僕らのめぐり合いは・・・必然なんだ。
貴女がシャアに惹かれたのも・・必然だと思うのは抵抗があるけれど・・」
もう一度深く呼吸をする。
喉の奥がまたひりついてくる。
無性に水が飲みたくなった。
「そして、あなたが死んだのも・・運命で・・
今、ここで、出会えたのも・・運命だとしたら・・
ここから・・僕たちの・・思いは・・何処に行くのかな・・」
それも決まっているのかな。
こんな考えは、危険かもしれない、そうも思う。
けれど、止められない。喉が渇く。
僕の心の中の水を汲み出して、それを飲み干してしまいたかった。
それでも決して喉の乾きは癒されないだろうけど。
67 名前:1 :03/02/09 21:17 ID:???
アムロは無意識の内にララァに顔を近づけていた。
少し、顔を伸ばせば、彼女の唇に触れられるほどに。
その事実に気がついてアムロは一瞬ドキリ、と心臓が跳ね上がるのを感じた。
一瞬そのまま、彼女にキスをしたい、と思った。
いっそ、抱いてしまいたい。
そう思う。
僕とララァは一つになるべきなんだ。
精神面でも。肉体的にも。
そしてそれは、ただの男と女の関係というのとは、違うと思う。
68 名前:1 :03/02/09 21:25 ID:???
アムロはララァの細い顎にそっと手を置く。
「ララァ・・・」
その時、ララァの後ろにあるモニターの映像が目に入った。
アムロはその映像を見て、ふと、ある種の安堵感を覚える。
サザビー。
正面モニターに、あの赤い機体が、地球の青さと対比するようにゆっくりとこの艦に近づいて来る様が映し出されている。
だが、あくまで一定の距離を保っている。ハッチは開いているので入ろうと思えば、簡単に入れるのだけれど。
赤い機体・・サザビーはその場を動かない。
出て来い・・ということか。
アムロはシャアの真意を推察した。そして、純粋な哀しみを同時に感じる。
ララァの顎からそっと手を離すと、アムロはドックに向かうべく、踵を返した。
69 名前:1 :03/02/09 21:35 ID:???
ドックに再び戻る。
ここは相変わらず霧が全ての主体をぼかしている。
その中で、モビルスーツは異質なものとして浮かび上がっている。
ドックにおいてあるモビルスーツに違和感を覚えるなんて滑稽だよな、とアムロは思う。
普通ならこの光の方に違和感を覚えるべきなのに。
。
そこでアムロは、ララァを見る。
「ララァ・・君はどうする?」
アムロは無反応だと思いつつも、問い掛けた。
だが、予想に反して、ララァはそっと微笑むとすっと指を指した。
その指の先をアムロは辿る。
壁だ。ドックの内壁がある。
そして、その壁の向こうには、シャアの待つ宇宙が広がっている。
70 名前:1 :03/02/09 21:39 ID:???
「そうか・・宇宙で・・僕たちを見届けるというんだね・・」
アムロは問いかけた。
そうだな、それがいいかもしれないな、とアムロは思う。
ララァは僅かに頷くと、その姿を白鳥に変化させる。
美しい白鳥のイメージと、美しい少女のイメージが重なり合う。
その姿は、アムロが今まで、何度も夢で見てきたものだ。
そして、白鳥ははふわりと宙に浮かぶと、壁を通過して、素早く宇宙に出て行った。
アムロはその後姿を見送ると、自分もデッキの床を蹴る。
そして、ガンダムのハッチに取り付くと、コクピットに乗り込んだ。
71 名前:1 :03/02/09 21:52 ID:???
νガンダムのコクピットは、相変わらず硬質な感覚をアムロに与えてくれた。
鉄の棺桶に入っているかのような冷たさだ。
けれど、アムロはそれを正常なことだと思う。
むしろ、軍艦の中で安心感を与えてくれるような現状は異常なのだ。
アムロは正面のハッチを閉める。
軽い機動音がして、ハッチは静かに閉じられる。
コクピット内は完全な闇になる。
アムロは目を閉じ、また開けてみる。
何も見えない。何も変わらない。自分は闇に包まれている。
その暗闇に親近感を覚える。
アムロは頭の中でこのコクピットの様子を再現する。
手元にレバーがあり、足元のペダル。無数のコンソール・パネル・・
手にとるようにわかる。
いつもの出撃の時と何ら変わらない。
ただ、シートは普段より少し硬く感じられた。
「僕が子供の頃は、暗闇が怖かったんだけどな・・」
自分が幼い頃、部屋が真っ暗になるのが怖かった。
それは、暗闇が死へとどこかで繋がっているからだろう。
人は本能的に死を怖れる。大人はその恐怖を理性でカバーする。
だけど、子供はそんなことは出来ない。
ただ、泣くだけだ。
72 名前:1 :03/02/09 22:02 ID:???
アムロは視線を四方に走らせたが、やはり何も見えなかった。
勿論、いつまでもこうしているつもりはない。
けれど今はもうしばらくこうしていたかった。
擬似的な宇宙が眼前に広がっているのだ。
キィを一度入れると、このコクピットの中は光に包まれてしまう。
それにサイコフレームはこのガンダムにも内在している。
だから、暗闇なのは、後ほんのすこしだけだと思う。
もう少しこの暗闇の中で考えたいことがあった。
暗闇と完全な無音の中にアムロの存在はあった。
聞こえるのは自分の微かな呼吸音だけである。
自分の息遣いの中にアムロは、生命を知覚する。
アムロは目を閉じると、もう一度思考の海に落ち込んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
73 名前:1 :03/02/09 22:16 ID:???
ようやく僕はその建物の目前にまでたどり着いた。
明かりだけを頼りに両腕を動かす。
必死に水をかく。
突然に、胸にまであった水の感覚が消えた。
僕は思わず前につんのめってしまう。
僕は足元を見る。そこは確かな地面があった。
所々から草も生えている。足元に確かな土の感触を感じる。
ここには、水がない。
建物の周りには、普通に草や、木が生えていた。
74 名前:1 :03/02/09 22:20 ID:???
水は家の周りになると、その存在は拒絶されていた。
その建物を中心にして、円をぐるりと囲むようにして。
まるでそこに透明の壁が存在しているかのごとく。
僕は恐る恐る水に手を触れてみる。プルン、としている。
こちら側から触ると、それはゼリーのような感触だ。
どうやら水は、これ以上入れないらしい。
いまは、まだ。
僕は、濡れた髪をかきあげ、水を含んでぐっしゃりとした服の感触に眉をひそめる。
けれど、今は贅沢を言っていられない。
建物は、とても外見は地味で、ありふれた一般的なつくりだった。
玄関の前の階段を上って、木製の扉の前に立つ。
そして、僕は、大きく息を吐くと力任せにドアを引いた。
が、その扉は開かない。
鍵がかかっていると、僕は気付く。
75 名前:1 :03/02/09 22:38 ID:???
僕はドアを乱暴に叩く。ここまで来て中に入れないなんてシャレにならない。
思いっきり、引っ張る。ビクリともしない。
空いていた手のほうも取っ手にかけると、僕はもう一度力を入れた。
体重を込めて引っ張る。
「 イケナイ 」
後ろから何か重厚な鉄のように硬く、けれどどこかドロリとした声がした。
僕は反射的に振り返る。
そこには黒い粘膜が在る。それは人の形をとっている。
まるで自分の影が、起き上がったみたいだ。
「 ソノ扉ヲ開ケテハイケナイ 」
そういって彼(といっていいのか?)は口の端から真っ黒な血を流す。
僕は、その異様な光景に目を疑う。
76 名前:1 :03/02/09 22:39 ID:???
「だってこの中で、僕を待っている人がいるんだ。」
そういって僕はその粘膜の顔の部分をじっと見る。
顔の部分には、口があるだけだ。目らしきものはどこにもない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
77 名前:1 :03/02/09 22:44 ID:???
再び、アムロが目を開けたとき、コクピットは微かに光が差しているようだった。
どうやら、このなかのサイコフレームも共振し始めたらしい。
頭がぼうっとする。
どのくらい意識がブラックアウトしていたのか、わからないがまた一瞬のことだったと思う。
「また・・か・・」
額の汗を拭いながら、アムロは小さく息を吐いた。
アムロはエンジン起動のキーを入れる。
シートに軽い振動が伝わる。
一瞬の感覚をおいてもう一度今度はさっきより強い振動が身体に伝わる。
擬似的な宇宙はその姿を消し、全視ディスプレイに光がともり、外の映像を映し出す。
アムロはもう一度、汗を拭った。
78 名前:1 :03/02/09 22:55 ID:???
宇宙。
無慈悲な真空が支配する世界。
誰もが救済を求めるが、誰も救済できない世界。
モニターには青い地球が豊かに見える。周りの純粋な黒さがそれを際立たせている。
こんな真空の宇宙という世界なのに、生命で溢れる地球が存在しているのは不思議だな、とシャアは思う。
物理的な説明とは別に、やはりこれは奇跡なのだなと感じる。
シャアは無論、ずっと一機でここにいたわけではない。
それはモビルスーツのエネルギーの面からも、食料の面からも不可能である。
赤い彗星としての彼を慕ってくれている協力者がいるのである。そして、シャアには自艦がある。
シーマの艦を落とした後、シャアはその艦に帰還して、先回りしていた。
艦長室で、奪った資料から、地球への降下地点は把握していたので、シャアは待つだけでよかった。
最も今はその艦は月に待機させている。
自分とアムロの間に、余計な口出しをされたくないからだ。
79 名前:1 :03/02/09 23:01 ID:???
それにしても、思ったより早かったな・・
そう思う。
まだ、この艦が地球を出発してから、一ヶ月足らずしかたっていない・・
にもかかわらず、艦は覚醒して、ここまで帰還してきた。
やはり、ギレンが何かをしたのだろうとシャアは、鮮やかに発光しているホワイトベースを見ながら推測する。
だが、別に知りたいとは思わない。
そんなことはどうでもいい。
肝心なのは、この艦のシステムが起動している以上は、アムロ・レイは生きているということだ。
そして、起動したこの艦にアムロ以外はおそらく存在していないはずだ。
アムロは自分がここで待っていることは予測済みだろう。
だから、シャアはただ、待つのだ。
アムロが出てくるのを。
80 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/09 23:10 ID:???
81 名前:1 :03/02/09 23:22 ID:???
「ン・・・出てきたか・・」
全方位ディスプレーに、光を帯びたνガンダムの機体が見えた。
その機体は、真っ直ぐに自分の方に近づいてくる。シャアも機体を動かす。
サザビーが増速をかけて、一気に正面にまわり込む。
そして、その因縁の白い機体と、赤い機体はある一定の距離を保ち、停止した。
地球光は、その二つの機体を鮮やかに照らす。
82 名前:1 :03/02/09 23:56 ID:???
会話。
ミノフスキー粒子は、シャアの母艦が近くで散布しているはずだから、これはテレパシーといってもよい。
シャアの声がアムロの耳を打つ。
「さて、アムロ・・答えを聞かせてもらおうか?
ア・バオア・クーで、そしてホワイトベースで聞けなかった答えをな」
「その答えなら、あの時と変わらない・・
ニュータイプの革新としての手段として、貴様の考えは、間違っている・・」
「間違っている・・か・
それが、貴様が考え抜いた答えというわけか?」
「そうだ・・貴様は間違っている・・」
アムロはもう一度繰り返す。
サザビーのモノアイが、フッと輝く。
「結局、貴様はその程度の男か・・
覚醒したのではなかったのか?まぁ、最早どちらでもいい。
君が、私の理想を否定し、間違っているというのなら、私は一人でも実行しよう。
だが、その前に・・・・私と君はここで闘うしかないな。」
シャアは、静かに言った。
けれど、その声に失望の色はない。
83 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 00:14 ID:???
- ドキドキ!
84 名前:1 :03/02/10 00:18 ID:???
静寂が二つの機体を飲み込む。
アムロは息を飲む。
神経を細く集中させる。
微かに頭が痛む。前兆かもしれなかった。
ホワイトベースは、ゆっくりと地球に向かって降下を始めている。
「そういえば・・・ララァとはゆっくり話せたか?」
シャアがふと思い出したように言った。
アムロはその問いかけを無視する。
85 名前:1 :03/02/10 00:22 ID:???
「・・どうした?ひょっとして、会話が出来なかったのか?
私が君にララァと二人でいる時間を作ってあげたというのにな・・」
その言葉には、どこか嘲りの感情が含まれていると感じた。
アムロはハッとする。
「そうか・・?
だから、貴様は艦を降りたのか・・?
貴様とララァが一年戦争時に持った個人的時間と同じ様に・・
僕とララァにも個人的な時間を与えるために・・」
「少し違うな・・
ララァ自身に選択する時間を与えたのだ。私か、貴様か・・
そのためにはララァが君とも過ごす時間が必要だからな・・・。」
「フェアじゃない・・と言いたいのか?」
アムロは哀しみを覚える。
この男は、あまりに純粋すぎる。
彼の決着の中には、自分とララァとの奪い合いの決着も含まれている。
そしてその勝負は、条件が対等でなければならないと思っているのだ。
・・あらゆる面で。
86 名前:1 :03/02/10 00:40 ID:???
「同情で、私についてきて欲しくないからな!」
その言葉が合図とばかりに、サザビーはビームライフルを撃ち放つ。
一条の閃光が、ほとばしる。
それは確実にガンダムの機体を捉えている。
だが、アムロは神業の様に、微かに機体を逸らすと、それを難なくかわした。
そして、負けじと、ライフルを撃つ。サザビーも、かわす。
「アムロ!」
サザビーが、4基のファンネルを放出し、ガンダムに集中させる。
「ファンネル・・?来る!」
アムロは放熱板に似たフィン・ファンネルを二枚放出して、それに対抗する。
それは、アムロの思惟を確実に受けて、宇宙に舞い、シャアのファンネルと激しく交錯する。
「どうして、私の目的が間違っているか!
聞かせてもらおうか!アムロ!」
双方のビームがぶつかり合う干渉波に照らされながら、シャアのサザビーが叫ぶ。
87 名前:1 :03/02/10 00:44 ID:???
「僕を・・個人を経由して・・不自然に拡大した認識域に人類を包み込んでも駄目なんだ!
それはあくまでも個人の意識の拡大に過ぎない!ただのエスパー化だ!
触媒を必要とする革新などは、どこかで必ずゆがみを生じる!
ニュータイプになるとは、人類をエスパー化にすることではない!本質ではない!
それは貴様にも・・!わかってるんだろう!?」
そう、シャアはそんなことには気がついているはずなんだ、アムロは思う。
そしてシャアの返事はそのアムロの考えを肯定した。
「そんなことは初めからわかっている!だがな、アムロ!
それしか方法がないことに何故気付かん!今は一歩でも先に進まねばならん!
ある程度の欠点には目を塞がなければならんのだ!」
腹部にある拡散メガ粒子砲をサザビーは撃つ。
激しい光の粒子の奔流が、宇宙に、散る。
「それが貴様の焦りすぎだというんだ!
早合点だ!本質を貴様は見誤っている!
人類の可能性はそんなものじゃない・・!
僕らはそれを信じなければいけないんだ!」
アムロが、それを回避しながら、叫ぶ。
88 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 00:49 ID:???
89 名前:1 :03/02/10 00:49 ID:???
「ならば今すぐ人類に可能性を見せてみろ!
人が自発的にニュータイプへと進むという証明をしめせ!
それが出来なければ、貴様のはただの理想論にすぎん!」
またシャアはライフルを撃つ。
だが、アムロの機体はなんなくそれをかわす。
「ええぃ!!」
シャアは、叫ぶ。
「人類は宇宙という極限の世界に放逐された盲目の羊なのだ!
大衆はその小さな地球という擬似楽園の中で草を食んでいるのだ!
草はいずれ尽きる!だが、羊たちはその楽園から動こうとしない!
ならば!
誰かが・・彼らを動かさなければ仕方がないではないか!そして導かねば成らん!
我々はこの宇宙を牧する羊飼いとして存在しなければいかん!」
「くだらない御伽噺だな、シャア!
そんなレトリックは通用しない!
僕たちは羊じゃない!純然たる人間なんだ!
貴様が大衆を愚かな家畜の様に思っている限り、人の革新など望めるわけがない!」
「だが、これが正しいモノの見方だ!
地球で無駄に生きている奴等には、家畜ですら高尚だ!」
90 名前:1 :03/02/10 00:55 ID:???
「そういった蔑みが!
貴様の傲慢だと・・いうんだ!ザビ家と同じだ!」」
「ならば!
貴様が、私の理想を!人類の目覚めを!
この認識の拡大による補完を不自然だというのなら!
それでは、結局!人類は新たな種へと変革できないというのか!
となれば、やはり、地球を暫く眠らせて人を!強制的に宇宙に導くしか方法はないのだ!」
「それは違う!
人は地球にそういった決定権を持っていない!
それに・・どうして地球上ではニュータイプへの革新が出来ないなんて思う?!
種への変革に、人の存在する場所は関係ないとどうして信じられない!
それは貴様が!一番地球に囚われていることの表れだ!」
「言ったな、アムロ!」
サザビーがファンネルを更に一基放出すると、同時にビームを撃つ。
かわしきれない、アムロは瞬時に悟る。
ファンネルのビームがガンダムの右肩を焼く。体勢が崩れる。
そこをすかさず、サザビーが急速に距離を詰めて、接近する。既にビーム・サーベルを装着している。
だが、アムロの判断は素早い。
サザビーのビームサーベルによる第一撃を、間接のアポジモーターを駆使することで、何とか避ける。
同時に、ビーム・ライフルを腰の後ろのジョイントに固定させると、ビーム・サーベルの柄を掴み、引き抜く。
チィィィィィンン!
互いのサーベルの交錯による干渉波が、激しく装甲を痛めつける。
91 名前:1 :03/02/10 01:05 ID:???
「地球上に人類がいては・・種の革新など出来ん!」
「それは違う!ジオン・ダイクンの理論はあくまで理想論だ!
地球にいる人類が宇宙にいる人類の間に繋がりを持ちえれば・・
その遥か彼方の人と、思いを共有できれば・・!寧ろ、それは萌芽だ!
人は自ずと変わっていけると信じられる!父の名前に囚われる貴様には信じられないだけだ!」
「宇宙との間に繋がりだと?!それこそ御伽噺だ!
地球にいる人間は、宇宙になど関心はない!スペースノイドと迫害するだけだ!」
シャアが苛ただしげに叫ぶ。激高した思惟が宇宙に飛散する。
「それこそが貴様の偏見だ!」
アムロも絶叫する!
νガンダムは、サーベルを消すと、素早く後方に下がった。
サザビーが、ライフルを撃とうとするが、頭部のバルカンでそれを牽制する。
92 名前:1 :03/02/10 01:14 ID:???
「偏見ではない!純然たる事実だと何故わからん!
腐敗した官僚を見ろ!地球連邦、エゥーゴやティターンズを思い出せ!
奴らの本質は旧体制の頃と何ら変わらん!
それでも貴様が、思いを共有できるいうのならば・・!
ならば、それを実証して見せろ!
覚醒した貴様が、そういうのなら私に認識させてみろ!」
「実証して・・や・・」
アムロは一瞬、目の前がブラックアウトする。
まただ。
また、意識の闇に引きずり込まれる。
触手が自分を引きづり込んでいく。
複合した意識の海に落ちこむ。
抵抗できない。何故だ?
これは・・ララァ・・の・・
93 名前:1 :03/02/10 01:19 ID:???
- ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は必死に影に説明する。
「だから、僕は、この扉を開けなくちゃ・・ダメなんだ」
僕はその粘膜にそう反論する。
そのためにこの水の中を乗り越えてきたんだ。
そこで僕を待つ人に会うために。そう力説する。
「それに・・もう戻れない・・戻る道はないし・」
そういって僕は、廻りをみる。徐々に水は家の近くにまで、侵食しつつあった。
水かさは既に僕の頭を超えているようであった。
これじゃあ、帰ろうとしても溺れてしまうだけだ。死んでしまう。
94 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 01:20 ID:???
95 名前:1 :03/02/10 01:29 ID:???
だが、粘膜の影は、首を横に降るだけだ。
僕は、この影を説得するのは無理だと考える。めんどくさくなる。
「あー、もう!帰る途中に溺れ死ぬくらいなら、ここで死ぬさ。死ぬよ!」
僕は、開き直って、最後にそう言い放つ。
そういうとその粘膜はそれ以上何も言わなくなった。
哀しげにその場に立ち尽くす。どうやら、説得を諦めたらしい。
「死・・ヌ・・」
よっぽど、その言葉に驚いたらしい。
階段の一、二段目のところから、五段目にいる僕を見上げるだけだ。
「そーだよ。わかったらこれ以上、邪魔しないでください」
僕は、これ以上、影に構うのはやめる。
何をいってきても無視することにする。それに、もうそんな余裕はない。
この扉を、はやくあけないといけない。
96 名前:1 :03/02/10 01:44 ID:???
僕はもう一度、その扉を思いっきり引っ張る。全体重を乗せてみる。
駄目だ。ビクリともしない。
扉は完全にロックされている。
とても僕独りの力だけでは開きそうにない。子供一人の力じゃムリだ。
僕は諦めかける。
やっぱり僕にはムリだったんだ。そう思う。
それに時間もない。水は段々とこの家の辺りまで侵食してきている。
僕は、ハァ、と溜息を吐くと、扉に額をくっつけて、目を閉じる。
悔しくて、泣きそうになった。
僕は、爪を噛んで泣くのを堪えようとする。
けれど、その癖は、行儀が悪いから思い直してやめる。
僕は、目を開く。視界一杯に、ぼんやりと扉の木目が、見える。
その木目の微かな隙間から、温かな光がこぼれだしている。僕には、それが見える。
ほんの少しの光だけど、それは僕に力をくれる。
僕は大きく息を吐く。
もう一度だけ、試してみようと思った。
僕の残った全存在を使って、この扉をあけようと思った。
97 名前:1 :03/02/10 01:49 ID:???
その時、取っ手を持つ僕の手のひらに、誰かの手が重なった。
温かいその感触に僕は思わず、顔を挙げる。
「父さん・・?・・母さん・・?」
そこには、決別したはずの僕の両親がたっていた。
僕は、パニックに陥る。訳がわからなくなる。
どうして・・いるの?
もう何年もあってないのに、彼らは僕が最後にみたときと変わらない姿で僕を見る。
「どうして・・?」
しかし、その僕の問いには答えず、彼らは目で合図する。
僕の手に重ねた手に力を込めてくれる。
そのぬくもりが僕に教えてくれる。
98 名前:1 :03/02/10 01:56 ID:???
そうか、この扉を開ける手伝いをしてくれるんだ。
そのために来てくれたんだ、僕は悟る。
二人はそっと笑う。
それは今まで僕が一度も見たことのない程の穏やかな笑顔だった。
僕はとても嬉しくなる。同時に理解する。
この扉は一人の力じゃ決してあかない種類のものなんだ。
それは、まるで天啓の様に僕の中に刻み込まれる。
僕は力をいれて、扉ヲ開く。父の無骨な手が、母の柔らかい手が僕を支える。
硬く閉ざされていた扉は、ゆっくりと開き始める。
中から、まばゆいばかりの光が漏れて、僕と父と母を照らす。
後ろで僕たちの様子を眺めていた粘膜は、その光を浴びて静かに蒸発していく。
僕は、扉を開く。
99 名前:1 :03/02/10 02:04 ID:???
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・まだ・・生きている・・?!」
アムロは意識を取り戻す。
どのくらい気を失っていたかはわからない。
だけど、自分が死んでいないことを考えると、それはほんの一瞬だったのだと思う。
100 名前:1 :03/02/10 02:10 ID:???
全視界モニターを見る。
サザビーがライフルをこちらに撃ち放つところだった。
アムロは慌てて回避しようとするが、ムリだ。間に合わない。
「・・無理かっ!?」
そう思った瞬間から、アムロの機体は、仄かに発光し始めていたと思う。
無論、アムロはそのことに気が着いていない。
直撃かと、思われたビームの衝撃は、いつまでたってもこないのを不思議に思っただけだ。
「・・ミスか・・?」
そんなアムロの耳に、シャアの驚きを隠せない声が響く。
「馬鹿な、バリアーだと・・!?
いや、違うな・・そうか・・あれが、思惟の力、か?」
シャアの放ったライフルは、アムロの機体に当たる直前で、飛散していた。
101 名前:1 :03/02/10 02:18 ID:???
そうか
アムロは、悟った。
そういうことだったのか。僕の意識は・・そうか!
「シャア!もう無駄だ!
貴様の攻撃は、効かない!お終いだ!」
そうシャアに宣告する。
サザビーが微かに動揺したように思えた。
その後ろに青いものが見える。地球だ。
いつのまにか地球は、眼前に広がっていた。
これ以上接近したら、重力に引かれて落下してしまうな、とアムロは思う。
102 名前:ほげら~ :03/02/10 02:24 ID:GPVDL+S+
- がんばれ 1さん がんばれ
103 名前:1 :03/02/10 02:33 ID:???
一瞬、アムロの目にララァの姿が見えた気がした。
「ララァ・・わかっているよ・・」
彼女にそう返事をする。
そして、今度は、サザビーを見る。
「シャア!さっきお前はいったな!共有を実証してみせろ、と。
今から、俺が貴様に実証してみせる!」
俺、アムロの言葉遣いは、俺に戻っていた。そういえば、自分はもう少年の姿でもない。
しかし、これは当然なことだ、とアムロは思う。
104 名前:1 :03/02/10 02:46 ID:???
さて、どうする?
アムロは考える。自分で、という手もあるけれど、やはりシャアに・・
そう判断したアムロは、牽制のビームライフルを撃ちながら、サザビーに接近する。
「チィィイ!アムロォ!」
シャアは、そのライフルをかわしながら、無駄だと思いつつも、ライフルを撃ち放つ。
思惟の光、それによって、はじかれるだろうと。
だが、それは、違った。
105 名前:1 :03/02/10 02:57 ID:???
シャアのサザビーが放ったビームが、光の粒子が、ゆっくりとガンダムに吸い込まれていく。
その情景は、まるでスローモーションの様に、アムロの目には映った。
無論、回避しようとすればできただろう。だがアムロは避けようとしなかった。
彼の腕は動かない。そんなことをすれば、シャアに実証できなくなるのだから。
その瞳は正面から来るそのビームを享受する。
暴力的な光が、アムロを貫こうと迫ってくる。
アムロの思惟は、その光を、あえて許容する。ガンダムは、その光りを、受け止める。
粒子の奔流の中にアムロは、一つのビジョンをみることができる。
” ア ム ロ ”
ララァ!
アムロは、嬉しそうに笑った。
暴力的な光は、その瞬間、柔らかな温かい光に変わる。
閃光が確実に、そしてあっさりとνガンダムのコクピットを撃ちぬいた。
アムロは、アムロ・レイの肉体は、瞬時に消滅した。
光に包まれる瞬間まで、彼は笑っていたと思う。
106 名前:1 :03/02/10 02:58 ID:???
「直撃した・・?!バカな!直撃した?!」
シャアは愕然と叫ぶ。
シャアは呆然と正面のディスプレイを眺める。
そこに映しだされていたのは巨大に膨れ上がる光芒。
ガンダムの爆発の情景。
サザビーはガンダムの爆発の閃光で鮮やかに照らし出される。
メイン・エンジンの爆発。
「どういうことなんだ!アムロ!」
シャアは激高して叫ぶ。
107 名前:1 :03/02/10 03:03 ID:???
かわせたはずだ。
いや、それよりもガンダムを包む思惟の力が、何故あれを弾かなかったのだ?
ミス・・?
いや、それはありえない。
そんなことではないはずだ!まさか・・実証するといったのは虚言だったとでもいうのか!
シャアは、自分が、愚弄されたと感じた。
その瞬間。
激高するシャアの視界に、爆発したガンダムから出るオーロラのような光の波が一瞬見えたと思った。
オーロラ?
シャアがそう感じた瞬間、目の前がその光の中に飲み込まれた。
圧倒的な光の激流!
108 名前:1 :03/02/10 03:08 ID:???
これは・・なんだ・・?
アムロの潜在していた・・光・・?
シャアはその宇宙全てに広がりつづける光を呆然と眺める。
不思議と、これだけ、強い光なのに、眩しさはない。
ガンダムの爆発と同時にその機体から発生した光は、宇宙空間に波打ちながら、驚異的なスピードで広がっていく。
その光の波動の一つは圧倒的な速さで地球を、線で囲み、それが行く筋も重なり合い、帯を形成していく。
地球を囲んでく。
まさしくあっという間に、土星に存在するような、一つの光の帯の輪が出来る。
帯は、幾重にも重なり合いながら更に光の膜を形成していく。
まるで、温かなシーツのような膜を。
地球が、その白い膜に包まれていく。
それは胎児を包む羊水のような印象をシャアに与える。
109 名前:1 :03/02/10 03:14 ID:???
シャアは、自分の身体が、小刻みに震えていることに気がついた。
彼は気付きはじめる。
これはアムロの死により、拘束から解放された巨大な意思の複合体が、幾重にも重なり合い構築される海だと。水だと。
そして、アムロが敢えて、私に見せてくれているものだと。
それは人の意思が、生み出していく理想!
人が見ることのできる究極の思惟の完成!
シャアは、コクピット内にも、通過してくる光の粒子をみつめる。
まるで蛍のようなそれは、ふわり、と宇宙の海に漂う。
この光は、一つ一つが人の思惟なのだな、シャアは思う。
アムロの拡大した思惟は、いまやララァや幾千の思惟と混じりあい、重なり合い、一つの繋がりとして宇宙に翔ぶ。
それは地球から見れば、まさにオーロラであろう。
生命の繋がり。
思惟の奔流。
110 名前:1 :03/02/10 03:19 ID:???
シャアは呟く。
「これが・・人の繋がりの具現化というのか・・
人に繋がりを見せて、その存在を、願いを、人類はこの光から感知するというのか・・
そしてあくまで自発的に洞察力を持った人へと昇華していく・・宇宙に思いを・・繋ぐ・
人にはそのプロセスが必要だと・・アムロ・・お前はいうのか・・」
無論、地球上からこの光を見ても何もわからないかもしれない。
天を覆うこの光を見ても、大多数の人は、ただの神秘的現象と思うだけかも知れない。
そして、すぐに忘れてしまうかもしれない。
しかし、それは大して重要なことではない。
人が繋がりをもてる事実!
これは未来。アムロとララァによりかつて、具現化された未来なんだ。
人の思惟が紡いだ宇宙の虹。希望の渦。
それを彼らは、今一度構成して、くれた。それは、きらめき、宇宙に翔ぶ想い。
シャアは目の前で地球が巨大な一つの繭となる様をただ眺めていた。
高速で地球を覆う白い膜により、地球は包まれていく。
そしてその光は、白色から、次第に透き通ったエメラルド色に変わっていくようであった。
111 名前:1 :03/02/10 03:22 ID:???
地球は繭になる。
そこに眠る人も、起きる人も全て包み込んでいく。
巨大で、美しい繭になる。
シャアはその繭に、母性を垣間見ることが出来る。
地球に・・
「そうか・・・」
シャアは声を漏らす。
彼は、この母なる地球そのものが、巨大なサイコフレームなのだと悟る。
この地球自体が巨大な装置なのだ。システムだったのだ。海なのだ。
あのホワイトベースに内在されているような矮小なものではなく、圧倒的な思惟を内に秘めている地球こそが。
それはこの地球が始まり、今まで人類と共に共存してきた中で、集めたもの。
胎動している人の希望。
112 名前:1 :03/02/10 03:26 ID:???
私たち・・人間の考えなど・・浅はかなものだ・・
目の前に・・あるものが・・そうだとは・・・・・この航海は・・なんだったのだ・・
シャアは唇を血が出るほどに噛み締める。
アムロは・・気付いたのだな・・
同時にそう思う。
そしてディスプレイを見詰める彼の目の前に 少女が現れる。
それは最後の邂逅。
ララァ・スン。
113 名前:1 :03/02/10 03:30 ID:???
ララァ・・
シャアは呟く。
少女は、依然と変わらず、眼前にあった。
そのララァの声が、直接、頭の中に響く。
大佐・・自分を責めるのはやめてください・・
アムロは・・こうなることを望んでいたんです・・
繋がりを・・未来を・・見せることが出来て・・・そのための・・扉を開いて・・本人は納得してるでしょう・・
中に・・入ることは・・できなかったけれど・・彼は・・心配してません・・
それは大佐や・・後の・・世代に・・託したのです・・
私に託した、だと・・?
できるものか!私が生き残ってなんになるというのだ!
シャアは、ララァに、叫ぶ。
114 名前:1 :03/02/10 03:35 ID:???
これから・・
私は・・どうすればいい・・
もはや・・何も・・考えれん・・
それは・・大佐次第です・・・既に気付いてるはずですよ・・
貴方は・・これから・・何を成すべきか・・
ただ・・私から・・一つだけ・・願いを言わせていただいて・・いいですか・・・・
・・?なんだ・・?
大佐・・・・子供を作ってください・・
私が・・?子供・・・?
そう・・赤ちゃんを・・・子を・・持ってください・・
そうですね・・男の子がいいかもしれません・・
115 名前:1 :03/02/10 03:39 ID:???
息子・を・・・?
それで大佐は父親になります・・
私に・・父になれというのか・・父親に・・
しかし・・子供に・・この世界をみせるのは・・気が重い・・
そうお考えになるのは・・もうおやめください・・
その考えは大佐の悪い癖です・・それは・・貴方の責任では・・ないのです・・
・・だが・・
大佐・・貴方は優れた人です・・
けれど・・子とは・・常に・・それ以上のものです
子は・・父が成し得なかったものの・・全てです・・
・・父が成り得なかったものも ・・全て子の中で大きくなるのです・・
子は未来であり・・・・温かな回帰・・
子は胎であり・・海なのです・・
116 名前:1 :03/02/10 03:42 ID:???
子が・・海か・・
賢い・・ララァが言うのならそうかも・・しれないな・・私が・・子を・・
大佐・・貴方にも見えたはずです・・
未来が・・繋がりが・・
貴方が許せなかったことも子が許します・・
果たせなかったことも・・子が果たします・・それは・・繋がりなのです・・
子どもと・・繋がる・・・?
ええ・・繋がり・・
ふふ・・大佐の赤ちゃん・・とってもかわいいでしょうね・・
それが・・お前の願い・・か・・ララァ・・?
私の子・・それが・・お前の・・
117 名前:1 :03/02/10 03:45 ID:???
あぁ、大佐・・
私はもう行かなくちゃいけません・・
アムロが・・呼んでる・・
行くな・・ララァ・・!
まだだ・・・私を導いてくれ・・・
私を・・理解してくれ・・何処にも・・いくな・・
あぁ・・シャア・・・!
私も・・別れは辛いです・・私は・・貴方を・・慕っているのですから・・
だけど・・・
だけど・・・なんだ?
118 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 03:55 ID:???
119 名前:1 :03/02/10 04:00 ID:???
哀しむことはありません・・
私とは・・いつでも会えますよ・・
人はめぐりあうものですから・・
それは・・生命の循環なのですから・・
刻を・・・超えて・・
また・・めぐりあうんです・・・・
そう言ってそっと微笑むララァの顔は、美しかった。
シャアは、この一瞬が、永遠であればいいと思う。
あぁ・・信じよう・・ララァ・・
そう言ってシャアも微笑する
そして、ララァの存在が朧になっていくのを黙って見送る。
消える直前に、もう一度、何かをいったようだが、それは最早、聞こえなかった。
120 名前:1 :03/02/10 04:16 ID:???
視界が、再び、鮮明に蘇ってくる。
宇宙の静かな闇が、そこには、在った。
「・・消えている・・・?」
シャアは、呟く。
地球を包み込んでいた光の繭は消えていた。
それに宇宙に飛散していた、あの光の帯も、もはやない。
消えてしまっている。宇宙は、また以前のひそやかな闇に戻っている。
だが、それで別にどうということはない。
ただ、オーロラが消えた。
それだけのことだ。それ以上でも、以下でもない。
シャアは、溜息を一つ吐く。
自分の手のひらをそっと見詰める。
その中を流れる血液を思う。温かく、赤い血液の流れを感じる。
ドクン、ドクンと力強く脈打つ。
それは熱い生命の循環。魂の胎動。生きている思惟。
121 名前:1 :03/02/10 04:20 ID:???
「私に・・いや、私たちに・・人類の未来を託すというのだな・・・
そして仮に私が・・志半ばで倒れたとしても、子が・・次の世代が・・思いを・・継承していくのだと・・
人の意思は受け継がれて、永遠に残るものだと・・繋がりを・・残していくのだと・・
そういうのだな・・ララァ・・アムロ・・」
そう、この不明瞭な世界でそれだけが確かなんだ。
密室のような暗黒の中で、光として確かに残る。
大佐・・家族を・・
繋がりを・・大事にしてください・・それは・・刻そのもの・・なのですから・・
アムロとララァ、二人の透き通った声が、シャアの耳朶を打つ。
その響きを心地よく思う。
122 名前:1 :03/02/10 04:24 ID:???
けれど、その声が消えた後、彼は一人静寂に囲まれる。
もう、ガンダムの残骸はどこにも見えなかった。
オールバックの髪を手で触る。
そして、セットされている髪をシャアは無造作に崩す。
額に張り付いている汗を感じる。だが、そこに不快感はない。
自分の呼吸のリズムが、いつのまにか安定してきている。
けれど、心臓はドクン、ドクンと激しい鼓動を刻み、血液を循環させている。
全方位ディスプレイを見る。青く、巨大に在る地球を見る。
そこに、大気圏に突入しつつあり、摩擦熱で、灼熱化しつつあるホワイトベースの姿が見えた。
もはや、その艦に光はない。
燃え尽きそうだな。
シャアは漠然とそう思う。
123 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 04:32 ID:???
- ( ;´Д`;)
124 名前:終幕 :03/02/10 04:40 ID:???
シャアは目を閉じた。視界がなにも見えなくなる。純粋な闇だ。
だけど、微かに光るものが見える。胎動するものがある。
自分の中で何かが、変化していると感じた。
だが、それはこの場ですぐに変化する類のものではない、と思う。
時間をかけて、ゆっくりと変質していくものだ。そんな何かを孕んでいる。
それが何か微かにでもわかるまで、ここに居たかった。そして、ララァをもう少し感じていたいと思った。
だが、それは、ララァの望むことではない。
自分は、今すぐにでも動き始めなければならない。だが、何処へいけばいい?
思いつかない。だが、取りあえず、ここを離れるべきだと判断する。
シャアはまた目を開く。地球は当たり前だが、まだそこに在る。
微かに、舌で唇を舐めてみる。
先程強く唇を噛んでいた時に、どうやら出血していたらしく、微かに血の味がした。
手の甲でそれを拭う。
そしてシートの脇に、外して置いていたメットを取り出して、被る。
その時、首にかけてあったロケットペンダントに微かに手が触れる。
ふと、シャアはアルテイシアに会いに行こうと思った。
125 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 05:43 ID:???
- オ……オワリ……?
126 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 08:38 ID:???
- おつかれさま。
127 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 11:26 ID:???
- 今回はえらく爽やかに終わったな。
>>1さん乙!いやほんとご苦労様でした。ありがとう!
128 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 11:54 ID:???
- 1さん乙かれ。
楽しく見させていただきました。
本当にありがとう!!!
129 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 12:17 ID:???
- もうひとつの逆襲のシャア
130 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 12:21 ID:???
- 禿の小説と比べるのは失礼かもしれないが、
1さんは当時禿が言いたかったことを、禿以上に上手に表現していると思う。
131 名前:kanrinin :03/02/10 21:25 ID:???
- お疲れ様。
今度、初めから読んでみてみる事にします。
132 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 22:44 ID:???
- 前回といい今回といい、シャアが良い味だしてるよね。
133 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 22:49 ID:???
- キャラクターを本当によく掴んでいる。すげえよ。
134 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 23:06 ID:???
- 1は禿95%
135 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 23:20 ID:???
- >>1がトミーノだとカミングアウトしても漏れは驚かん。
136 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 23:28 ID:???
- >>135
禿同。
137 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/10 23:29 ID:???
- こう言っては悪いかも知れないが…Zの頃の禿より面白い
138 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/11 00:25 ID:???
- 凄いですね、一気に読んでしまいました
139 名前:kanrinin :03/02/11 00:42 ID:???
- >>135
・・・・禿に・・・・こんな文才は・・・・ない!
140 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/11 00:46 ID:???
- >>1は神
141 名前:褐色のおじさん :03/02/11 02:21 ID:???
- >>1 に惜しみない拍手を送ろう!
パチパチパチパチパチ
142 名前:通常の名無しさんの3分の1 :03/02/11 03:49 ID:???
- 1さん乙━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
1さんに絶え間ない拍手を!
パチパチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・
143 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/11 11:04 ID:O+lyutMR
- 賞賛age
144 名前:1 :03/02/11 18:26 ID:???
皆様、沢山の感想どうも有難うございます。ほんと嬉しいです。
第二回天下一武道会、なんとか最後までかきあげることができました。
これも全て、キャラクターを出して下さった人や、感想レスをくれた皆様方のおかげです。
本当に励みになりました。
特にkanrininさんや、褐色のおじさんにはスレ立てまでして戴いて・・感謝しています。
この最終回は、表現の仕方が難しく、苦戦しましたが、なんとか形になってホッとしてます。
抽象的な会話が多くわかりにくかったら申し訳ないです
けれど、皆様に最後まで読んでいただけたのなら、これに勝る喜びはありません。
本編は終わりましたが、最後にエピローグとして、この数ヵ月後の短編を一つ書くつもりです。
最初は、この話も含めて最終回にしようと思ったのですが、思い直してカットした部分です。
少しリメイクして、今週中には、載せられるかな、と思っています。
それでは・・皆様に感謝しつつ・・
145 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/11 20:46 ID:???
- 1さん・・・あんたスゲェよ
146 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/11 22:39 ID:???
- ファーストの小説版のラストととか、ベルチルではアムロに子どもができた
こととか考えながら読んだら、より深い味わいがあるとおもふ。
ともかく>>1は頭の毛を抜いてトミーノとして生きろ!
147 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/11 22:47 ID:???
- 良い話だった・・・1さんお疲れ様です。
エピローグも心待ちにしてます。
できれば最初にブライトに居残りを命じられたあの人の再登場を願いつつ・・・
148 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/11 23:37 ID:???
- 1さんが禿げであろうがデブであろうが
ヒッキーであろうが種スタッフであろうが
田代であろうが俺は1サンをすごいやつだと認識する
149 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/12 08:12 ID:???
- そんなにすげーか?ほんとにそう思ってるんだったらオメデテーナおめーら
150 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/12 09:45 ID:???
- すごいさ。この板にいてよくそんなことが言えるな。
今まで俺の見てきたガンダムの中でも最高と言ってもいいくらいの感動がこの作品にはある。
と思います。僕の中ではファーストと比べて遜色ないくらい感動するお話でした。
>>1さん最高!!これがガンダムなんだ!!
151 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/12 10:59 ID:???
- アイタタタ
同人が最高とは、あんたら根本的に間違ってるよ
152 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/12 11:10 ID:???
- >>1
お疲れ様です。ホント楽しませてもらいました。
ありがとうございました。
153 名前:通常の名無しさんの3倍 :03/02/12 12:19 ID:???
- >>1さん
ぜひ宇宙漂流刑にされたシーマの話を書いてください!
おつかれーーーー!!
154 名前: