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第二回天下一武道会 最終章 (1)

[ 第二回天下一武道会 ]

第二回天下一武道会 最終章「めぐりあい 宇宙」

650 名前:投稿日: 03/01/04 21:15 ID:???




僕の心の中にはずっと細い雨が降っている。
それはまるで霧の様にひそやかで、まるで母親の子守唄に思える程に優しく降り注ぐ。
天から地面にまるで吸い込まれているように雨音さえまったく聞こえない。
気が付いたら髪が額にしっとりと張り付いているような、そんな種類の雨だ。
それはまるで幻の様に淡くほそい。
そして、僕はその雨の中を一人で歩いている。ゆっくりと。
歩いている最中でさえ、僕は雨に気が付かない。
けれど、その細い銀の雨は確実に僕を濡らす。



僕はその雨にうんざりしている。嫌になっている。もう何年降り続いているのかすら判らない。
わかっているのはこの雨は、”止まない”ということだけだ。それ以外は何もわからない。
長雨の所為で、河が氾濫したのか、気が付けば僕の足首の辺りまで水が来ている。そしてその水はまるで身を切る程に冷たい。
僕はその水を手のひらにすくう。溜まった水をちょっとだけ舐めてみる。そして、またすてる。
立ち止まってどんよりとした灰色の空を見上げる。雨が僕を穿つ。
このまま降りつづけたらいずれは僕を飲み込んでしまうんじゃないか、と思う。
透き通った水が、僕の膝まで侵食して、やがては胸のあたりまで、そして最後には頭の上まで来て僕を溺れさせる。
水が口から僕の中に入り、肺にまで流れ込んできて、呼吸ができなくなる。








651 名前:投稿日: 03/01/04 21:21 ID:???



僕はそんな自分を想像して少し嫌になる。
同じ死ぬのならもっと楽に死にたいと思う。いや、こんなことを考えるのは止めよう。
僕はまた歩き出す。水を蹴るようにして歩く。


けれど一度考え出した思考というものは中々離れない。


僕は再び立ち止まる。また水をすくう。
ひょっとしたら既に僕は溺れているのかもしれない。この水に飲み込まれているのかもしれない。
ただ単に僕が、気が付いていないだけかもしれない。雨が降っていることにさえ気がつかないぐらいなのだから。
僕は右手を微かに動かしてみる。小指からゆっくりと一本ずつ折り曲げてみる。
まだ、動く。
次に左手のほうも同じ様にうごかしてみる。・・こっちもうごく。
僕は大きく深呼吸をする。酸素が僕の肺を満たし、また静かに出て行く。
そして、僕は呼吸と共に、溺れているかもしれないといった錯覚を振り払う。
大丈夫、まだ僕は溺れていない。


水はまだ膝までで、僕を飲み込むことはできない。






652 名前:投稿日: 03/01/04 21:24 ID:???


そして僕はゆっくりと目を開く。
現実の世界。灰色に沈む空間が僕の眼前にはある。
そこには一人の少女の姿がある。その姿だけがまるで壁画の様に僕の目にくっきりと映りこむ。
彼女はこちらを黙って、じっと僕を見つめている。
その透き通ったエメラルドの宝石のような瞳の奥に僕が映っているのを感じる。
あの時と同じ様に。その瞳は、僕の心を激しく震わす。
ドクン。
心臓が激しく鼓動を打ち出し、血液を循環させる。
その血液の流れと共に、僕の止まっていた時間もまた動き出す。
そしてそれが止まることはもう、ない。






最終章  「  めぐりあい 宇宙  」












653 名前:投稿日: 03/01/04 21:29 ID:???


アムロ・レイは知らず涙を流していた。
感情の糸が切れて、自分では涙を止めることができない。
思いが激流の様に溢れでて、その圧倒的な感情の渦をせきとめられない。
アムロの頬を、透きとおった涙の粒が濡らす。
彼は声を発しようとする。けれど、想いとは裏腹に声は少しも出てこない。
唇がこわばって、何も声がでない。
アムロは震える両手で自分の顔を覆い、初めてそこが濡れていることに気がついた。




アムロは目を擦る。
手の甲でごしごしと涙を拭う。少女の瞳に映る自分を見るために。それに泣き顔を見られるのは嫌だった。
全身の身体の震えをなんとか抑えて、右足をゆっくりと前に出す。
そして左足も。
一歩一歩彼女に近づいていく。彼女はギレンの倒れているところにいるのだ。
ようやく、彼女のぼんやりとした薄い輪郭の前に立つ。
目の前に少女の顔がある。彼女の息吹を間近で感じられる距離。
アムロは目の前の少女の瞳をじっと直視する。
その瞳は深い美しいエメラルド・グリーンであり、その奥には無限の空間が広がっている。
吸い込まれそうなほどその瞳は透明で、その上の長い睫毛が更に少女の魅力を引き立てている。
彼女は相変わらずアムロをその瞳におさめている。
アムロはそこで漸く声を漏らす。
「ラ・・・ララァ・・」


言葉が自分の耳にリフレインされる。少し掠れた声だ。
ララァ・・。
その言葉を発することによりアムロはその事実を再確認する。



654 名前:投稿日: 03/01/04 21:30 ID:???




アムロはまるで大事な宝物でも扱うときの如く、そっと慎重にララァの肩に手を乗せようとした。
が、途中で思い直して止めた。
腕が中途半端なところでピタリ、と止まり、宙を漂う。



触るのが怖い。
彼女の存在を確認することは何か重要な意味を持っている。






655 名前:投稿日: 03/01/04 21:36 ID:???



僕は、この少女自身と直接に接触したことはない。
ララァに触ったことは無い。これまで一度もない。
つまり彼女は僕にとって確実に知覚できるものでありながらも、あたかも実像を有していない存在のように思える。
彼女のことはほとんど何もしらないのだ。テラスで、道端で、宇宙で会った以外には。
けれど知覚はできる。彼女の思惟を捉えることも。一度も触ったこともないのにだ。


いや、触ったことがないからこそ、あの時、少年の僕は彼女と精神が一つの認識域として意識を共有できたのかもしれない。
具体的な肉体的なイメージが存在していなかったからこそゆえに、僕らはメンタル的にリアルに繋がれたのだと思う。
僕らはそういったものを超越しなければいけないのかもしれない。肉代などといったものから。
肉体という殻からを破り、精神を無限の宇宙へと広げるために。
僕、アムロはそう思う。根拠はない。
あくまで、なんとなくだ。


だから、僕がここで彼女を掴んでしまったら、その時の感覚と言ったものは消滅してしまうんじゃないかと不安に捕らわれる。
彼女を触ってしまうと、あの時のような意識の繋がりはなくなるかもしれない。僕たちはわかり合えなくなるかもしれない。
勿論、それは杞憂に過ぎないのかもしれない。自分自身、あまりに悲観的に過ぎるとも思う。
それぐらいで消えてしまう繋がりなどとは思っていないし、また簡単に消えるようなら意味は無い。
そう思う。
けれどそういった可能性が僕を躊躇わせる。
僕と彼女の間には薄く、目には見えないほど透明な壁があってそれが僕らをふれあわせまいとしている。
そしてその壁をつくっているのは僕なのだ。







656 名前:投稿日: 03/01/04 21:38 ID:???




「ララァ・・」
結局、中途半端にララァに伸ばしていた手をゆっくりと引っ込める。
そして決まり悪そうに俯くと、靴の先で床でコツコツと蹴る。
乾いた音がこの空間に響き渡る。それはアムロに何故か孤立感を強く感じさせた。
孤立感。
薄く灰色に濁るこの空間に、その音だけが響く。
その反響音の後は、沈黙が再び空間を支配する。







657 名前:投稿日: 03/01/04 21:53 ID:???


僕は一体ララァになんと話し掛ければいいんだ?
アムロは自問する。


それがアムロにはわからない。話したいことは・・話さなければならないことは沢山あったはずなのに。
アムロは完全にあの少年の当時にたち戻っている。あの不安定でイノセントでナイーブな少年時代。
ララァは相変わらずこちらをじっと見詰めている。
それがまたアムロを落ち着かなくさせる。


そこでアムロはある事に気が付く。ララァの目の前で手を振る。
反応は無い。まるで眠っているかのごとく。目は開けているのにだ。
どうやら・・まだ完全ではない?
だがすぐに、それも当然だと思い直す。
あの時のことは昨日の様に思えるけれど、実際にはもう遥か前のことなのだから。
・・僕のビームサーベルが貴方の意思を飲み込んでしまってから。




ララァの意識は、精神の波動はまだか細く淡い、まるで僕の心の中に静かに降りつづける雨の様に。
だが、時間の問題だろう。やがて彼女は覚醒するに違いない。



658 名前:投稿日: 03/01/04 21:57 ID:???


となると、今すぐしなくてはいけないことは・・・

アムロはそこまで考えて、漸く今のうちに自分がしなければいけないことがある事に思い当たった。
ララァをそのままに、アムロは椅子に戻って、肘掛のところについてあるコンソールパネルを操作する。
壁一面のモニターに艦内の全体図が映し出される。艦内マップだ。
そこには四つの光がオレンジ色に点滅している。
アムロはその点滅の場所を確認する。
・・士官室の部屋番号D-5に一つ・・Rブロックの通路に二つ、そして・・ここに一つ。








659 名前:投稿日: 03/01/04 22:02 ID:???


更にアムロはパネルを操作する。



士官室の映像をモニターの右上に大きく表示する。
そこにはウッソ・エヴィンがベッドに顔を埋めている姿が映し出されている。
どうやら今は落ち着いているようだ。もう泣いているような気配はない。
ただ、動かないでベッドに沈み込んでいるだけだ。
その姿は一見すると安らかに眠っている様に思える。
だけど、その背中には哀しみの影が絶望的なまでにべっとりと染み付いている。
アムロにはそれがはっきりと読み取れる。
少年の哀しみ。切慕。そしてある種の決意。
一つ小さな溜息を漏らす。彼をできることならもうしばらくそっとしておいてやりたかった。
けれど同情している暇はない。急がなくてはいけない。
アムロは呼びかける。



”ウッソ・・聞こえるな・・?・・今すぐに・・ドックに来るんだ・・”



その思惟はあっという間に空間を越え、士官室にいるウッソの心の領域にするりと入ってくる。
瞬間、ウッソの背中がピクっと震えた。








660 名前:投稿日: 03/01/04 22:07 ID:???


「次は・・」
アムロは更にモニターを切り替える。
今度は左上にRブロックの通路を映し出す。倒れている散乱した人々たちの群れ。
そこの曲がり角の隅のほうに、ミライとソシエの姿を発見した。
真っ暗な中で蛍のような光が彼女たちをぼんやりと照らしている。
2人とも魂が抜けたかのように、床にぐったりと倒れていて、まったく動かない。


”ミライさん・・・ミライさん・・起きてください・・”

アムロはそう思惟を伝達する。それはア・バオア・クーの時と同じ様に彼女の耳に届くはずだ。
あの時とは彼らはあまりに変わってしまったのだけれど。
けれど、ミライは起きない。動かない。
アムロは根気強く何度も呼びかける。

”ミライさん・・ミライさん・・・”

ミライがようやく微かに身体を動かした。
アムロは更に彼女の魂を揺さぶるかのごとく激しく強い思惟を飛ばす。
戦場でならばプレッシャーとして感知される種類のものだ。それは人にある種の強制力を有する。
その直接の刺激を受け、モニター上のミライがようやく起き上がった。
どうやら意識は回復したようだった。淡い光では顔色まではわからないが。
アムロはホッとしてもう一度ミライに呼びかける


” ミライさん・・ドックの方に来てください・・ソシエも・・連れてきてください・・
     真っ暗?・・・大丈夫です・・あなたの感覚なら・・迷わずこれますから・・・・”




661 名前:投稿日: 03/01/04 22:13 ID:???





「後は、と・・・」
アムロは独り言を言いながら、更にコンソールパネルを操作する。
巨大モニターに簡略化された宇宙図が表示され、更にオレンジの光点で現在の艦の位置が表示される。
それはシャアが言っていた最終目的地・・これはあくまで当初の計画上であるけれど。
そこにもうじきこの艦は到達しようとしていた。もう半日ほどでオレンジの光点がその最終目的地の部分に重なるだろう。
全ての始まりであり、終わりである地点。



”シャアは・・そこで僕と・・ララァを・・待っているんだ ”



そしてそこで彼はアムロにある決断を迫るだろう。そのために彼はこの艦に乗艦してきたのだから。
馬鹿げている、とアムロは思う。けれど、それがシャアである。シャアの純粋さである。
彼はそういう風にしか生きられないのだ。
シャアの軌道は途中で変わらない。文字通り、彗星の様に彼は赤く燃え尽きるまでその生き方を変えない。
だから・・貴様って男は・・
アムロは呟いた。その中に微かな羨望が含まれていることを彼は自覚する。







662 名前:投稿日: 03/01/04 22:20 ID:???



その時ララァは・・どう・・思うかな・・・
アムロはその時のこの少女の反応を思うと、心が重くなる。
どちらにしてもそれはあまりに重い結末かもしれない。



そして、どこか哀しげにアムロをじっと見つめているララァを、アムロもある種の感情のこもった瞳で見る。
けれど、すぐに頭を振るとそんな思考を振り払う。とりあえず今はそれよりしなければいけないことがある。
アムロは、彼女に優しく語り掛ける。
「ララァ・・・行くよ・?」
そう言ってアムロは、ララァを安心させるようににっこりと微笑んで、扉を指差す。
ララァにその声は聞こえたらしく、彼女はゆっくりと頷くと、アムロの後を黙ってついてくる。
アムロはそんなララァにホッとしながら、心の中で呟く。




本当はここに残している方がいいのかもしれない。
けれど、僕は君を一人にしておきたくはないんだ。






663 名前:投稿日: 03/01/04 22:23 ID:???



****************
とりあえず今回はここまでです。皆様、保守いつも有難うございます。感謝してます。



664 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/04 22:32 ID:???
おお!いつの間に!
新年早々お疲れ様です。
先が本当に楽しみです。でももうすぐ終わってしまうのか…
少し寂しいかもです。
では誰かに言われる前に…

ララァキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!


665 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/04 22:36 ID:???
うおおおおおおお!!!!!どうなるんだ?


666 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/04 23:11 ID:???
や、初めて来ましたが、4時間ほど見入ってしまいましたよ。面白すぎ。

クソスレと 
  思って覗けば
     神 が 居 た     字余り


667 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/05 00:04 ID:???
あげ



668 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/05 00:06 ID:???
>>1さん、おまえ素敵だ!


669 名前: 通常の名無しさんの3分の1 投稿日: 03/01/05 00:33 ID:???
>1さん
乙彼~。
遂にクライマックス。期待して待っています。


670 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/05 03:13 ID:???
1回目を含めて、11月位?から2ヶ月位・・・?早いなあ
終わりを早く見たいんだけど、終わって欲しくないよーという
複雑な気持ち。
続き、楽しみにしてます。



671 名前: ろうろん 投稿日: 03/01/05 11:02 ID:???
いやあ、もうついにここまで来ましたか・・・・
本当に興味がかなり!持てるおもしろい文章ですね。
そろそろ最後期待してます!



672 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/05 18:31 ID:???
きたいしてまつ


673 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/05 22:52 ID:???
続きみてえ!からsage保守


674 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/06 01:15 ID:???
完結までスレを死守せん


675 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/06 11:09 ID:???
エロSSなら南極に保存できるが、こういうのは誰が有志がHP
に再録してくれるしかないのか


676 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/06 11:51 ID:???
サエグサ「スレが落ちそうです!」
ブライト「ようし、緊急浮上だ!」


677 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/06 14:03 ID:???
>>675
任せろ。
着々と保存化は進めておる。


678 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/06 18:53 ID:???
なんか寂しくなってきた


679 名前: 山崎渉 投稿日: 03/01/07 02:55 ID:???
(^^)


680 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/07 23:47 ID:???
そろそろあげるよ。


681 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/08 02:09 ID:???
>>677
たのんます


682 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/08 06:18 ID:???
ho


683 名前: ペンギン村 投稿日: 03/01/08 14:41 ID:???
んちゃ、私ageレ


684 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/09 00:48 ID:???
>>683
キシリア閣下ハケーン


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