第二回天下一武道会 第十一章 (8)
[ 第二回天下一武道会 ]
- 508 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:31 ID:???
「遅かったな・・・ニュータイプ?」
「・・・・・・ギレン・ザビ・・一つききたい事がある」
灰色の薄暗い空間の中に、アムロの押し殺したような声が響きわたった。
- 509 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:33 ID:???
ギレンはアムロが拳銃を突きつけているのに一向に気にした様子は無い。
彼、ギレンの首は後ろから見ると、ひどく太い。
「何をそう焦る必要がある?ニュータイプ?もう貴様は遅かったのだ。」
ギレンは振り向きもしないでそう断定する。
「・・・ニュータイプなんて言葉で形容しなくても、僕にはアムロ・レイという名がある。」
アムロは苛立った。図星なのだ。
確かにアムロは焦っている。だけど、それはギレンにではない。自分自身にだ。
どうしてもっと早く知覚できなかったんだ?僕は自惚れていたのか?自分の能力に。
ギレンの思惟を、位置を把握できなかった。
アムロはギレンに拳銃を向けたまま、モニターをみる。そこにある死の残像を読み取る。
僕の所為だ。あの時・・僕が・・シャアを・・
アムロは呟く。
こんな惨劇は起こらなかった、と。少なくとも彼らは死なずに済んだのだと。
- 510 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:35 ID:???
ギレンは、それを聞き逃さなかった。その神経質そうな細い眉をひそめる。
「何を悔やんでいる?なんの存在価値の無いクズが何人死のうが関係ないだろう?」
これは彼の本心である。挑発とかいうものではない。彼は純粋にそう思っているのだ。
「もっとも、地球連邦のような、地球にしがみ付き汚染するだけで、優れた人間の存在を冒涜する連中などクズ以下だが。
それに悔やむ必要はない。これで、私の目的は叶う。奴らは死んでようやく私の役に立つのだ。」
アムロは何も喋らない。
ギレンはそんなことはまったく関係なしに喋りつづける。
「ニュータイプ・・貴様もとっくに気が付いていたのだろう?今更、後悔などするのは止めるんだな。」
ギレンは喉の奥をクックと鳴らして笑った。
「それにしてもこの艦にこんな秘密があったとはな。私もいささか驚いたぞ。そして感嘆した、その発想力にな。
まさかこんなことを現実に考えるものが連邦に存在していたというのは信じられないほどだ。」
その声は2人を取り巻く空間を震えさせ、灰色に歪む世界を更に極大化させた。
「常識ではあり得ぬよ・・私もカツのもっていたデータがなければ信じられなかっただろうな。」
- 511 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:38 ID:???
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私、ミライ・ノアが目覚めたとき、室内は暗闇に包まれていた。
まるで暗黒のカーテンで覆われているような錯覚を覚える。
ぼんやりとした頭で私は考える。
「真っ暗・・・?」。
どうして非常灯がついていない?
その瞬間、眠気が一気に覚めた。
私の周りに柔らかな暗闇が漂っている。
いや、真っ暗ではない。
先程は気が動転して気が付かなかったが、よくみると微かに周りが発光している。
発光?そう、発光しているのだ。壁が。
その光は、まるで深夜の月の様に、ほのかにひっそりと淡い銀色の明かりを燈している。
この部屋の四方の壁全てがぼんやりと浮き上がって空間を歪ませている。
蛍の様にそれは、発光している。
おかげで室内灯がついてなくとも、なんとか全体の様子はわかる。蜃気楼のようにおぼろげだけれど。
私はこの部屋全体に何処か異常がないか、身体を強張らせたまま探り当てようとする。
どうやら・・・何も変わったところはない。
少なくともざっと見た感じでは、この部屋は私が眠りにつく前となんら変わらない。
狭い部屋・・監禁室なのでそれはすぐにわかる。
誰かがこの部屋にいるという気配もない。
私を囲んでいる空気は相変わらず監禁室特有の硬質な世界を構築している。
- 512 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:42 ID:???
それなのに、まるで異世界のような幻想的な現象が目の前に起こっている。
私は光の蛍が舞い散る部屋に囚われている。まるでよくできた童話の一ページの様な。
私は混乱する。これは夢?それとも幻?
右手で頬を少しつねってみた。
それでも、もちろん目覚めないし、依然として壁はほのかに光っている。これは現実だ。
私を取り囲む壁は現実に発光しているし、そのおかげで私は真夜中の月に照らされた子供のように困惑している。
何が起こっているの・・?
突然、嫌な予感が鋭く背中を突き抜けて、私は身震いをする。
じっとりと汗をかく。
直感だ。これは昔感じていた感覚だ。いや、感性ともいえる。
一年戦争時、頻繁に感じていたけれで、戦争の終結とともに次第に薄れていったあの感性。
それが突然私に戻ってきたのだ。
だけど、嬉しくはない。
ただ、戻ってきたと認識できるだけだ。
だってブライトもハサウェイも死んでしまった今頃にそんな能力がなんの役にたつ?
- 513 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
01:43 ID:???
-
- 514 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:44 ID:???
そんなことを考えながら、もう一度部屋全体を眺める。
別世界のような情景は私をここに繋ぎとめようとしているかの如く魅力的であった。
ずっと眺めていたいと思う。
だけど、じっとこのままここにいるわけにもいかないだろう。何かが起きたに違いないのだから。
私は起き上がると、足元の感触をそっと確かめるように床に下ろした。床にも粒子は内在されている。
まるで月の上にたったような気分だ。光が淡くて、か細いからそう感じるのだろう。
足元に確かな感触を感じる。どうやら普通に歩けるようだ。
私は慎重に立ち上がる。
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- 515 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:48 ID:???
「艦の秘密・・なんのことだ?」
「フ・・・とぼけるか・・まぁいい。」
アムロは心の中でかすかに舌打ちした。
やはりギレンは把握している。
だが、一体どこまで把握している?それを確認しなければならない。
ギレンは朗々といった。
「サイド国家論。地球聖域論。ジオン・ダイクンが提唱したこの二つの思想は宇宙移民の心を激しくうった。」
彼の声には張りがあり、勢いがあり、また確信に満ちていてとても力強かった。
これは優れた指導者だけが持ち得る類の喉だ。世の中にはこういう声を持つものはそういない。
人を突き動かす何かを有している人物であり、死に向かわせることさえ可能なほどの抗えない強制力を有している。
アムロは黙ってギレンの台詞の続きを待つ。
「彼の思想の根底にあるのは、ニュータイプ論だ。」
そこまでいうと漸くギレンは椅子から立ち上がり、アムロの方に向き直った。
- 516 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:52 ID:???
「・・・それがどうしたというんだ。所詮、ザビ家のいいようにダイクンは使われた。」
アムロはギレンと視線を合わせず、そういいきった。
ジオン・ダイクン。
ギレンは心外そうな表情をした。もちろんポーズだ。
「惜しむらくは、ジオン・ダイクンは所詮アジテーターだったのだよ。」
そういってギレンは椅子についているコントロール・パネルを操作して、モニターにある映像を映し出す。
モニターには意思の強そうな目をした男が壇上で演説をしている様子が映し出された。
「これがそのプロバガンダのシーンだ」
演説。
- 517 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:57 ID:???
『人類は生活環境を拡大させる度に認識力を拡大していくという能力を有している!
その認識は、徒歩で移動し得る間で、国家というものを形成せしめたものだ。
無論最初は国家とは呼べない小さな組織だ。集落と呼んでもいい。だが、時はそんな組織を成長させ国家を生んだ!
この時人類は一つの飛躍を迎えたと言ってもよいだろう。
次に産業革命以後、急速に発展した文明により得た、拡大した移動力・・
これが旧時代の人類を新たな世界に導くことになった、容易に人を国家間の移動ができる事実!
結果、人類は国家の認識を超えたグローバルな世界観を獲得した。
そうこの時、人類は地球的視野、展望を獲得したのだ!それは更なる飛躍を人類に与える。
人類は己の欲望と叡智を肥大させ認識力を研鑚させてきたのだ。世界を拡大し、把握し、認知するたびに!
そして現在、宇宙という空間にまで人は翔んだのだ。その圧倒的な空間、暗黒性、虚無感は人を更なる次元へと超越せしめる!』
- 518 名前: 1 投稿日: 02/12/23 01:59 ID:???
『地球の重力から抗って我等は翔んだのだ!
宇宙!
この引力から離脱した人類を迎える新しき無重力の世界!
だが、この無限とも思える空域において人が本当に存在できるのか?勿論、それは肉体的なことではなく、精神においてだ!
考えてみたまえ。神が何故、人に己の脳細胞を半分以下しか使わせなかったのか?
それはこの宇宙空間において使用すべき部分だからではないか?
そう、これはそのために有史以前から神から人に与えられていたと考えるべきなのだ。来るべき時代のための遺産として!
決して潜在能力などというものではない。これは革新なのだ!人の!魂の!
諸君!目覚めよ!この宇宙という広大無比の世界を生活の媒体とする時、人は時空をも乗り越える力を抱かなければならないのだ!
広大な時空をも一つの認識域として捉え、それによって一つ一つの事象により深い洞察力と優しさを兼ね備える人類へと!
ニュータイプ!
それがニュータイプである!
宇宙の民としてこの先未来永劫生き抜かねばならない我々のあるべき姿なのだ!』
- 519 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:04 ID:???
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ドアが開いている?
私は、部屋を動いてすぐにそれに気がついた。視界にドアの輪郭がぼんやり浮かんでいる。
いつもは厳重にロックされているはずが、今は半分開いているのだ。ぼんやりと半分開いたそれは何か不吉な印象を与えた。
それはとても不安定で、だけど冥界への扉のごとく一度くぐれば帰れないような錯覚を私に与えた。
扉には当然の様に光の粒子が無数にくっついていて淡い影を作り出していた。
粒子をそっと指で撫でるとそれは微かに震えると、すぐに飛散して消えた。
「あ・・」
その直後、頭が激しく痛み、私はその場でうずくまった。まるでキリで頭をえぐられたような痛みだ。
気が遠くなりそうな程、それは私の中を縦横無尽に蹂躙していった。
私は吐き気を覚えて、口元を抑えたまま、その痛みがどこかに消えるのを待つ。
数分後。
痛みはまた来たときと同様に、突然去っていった。
私は額にこびり付いた汗を袖で拭う。
なにが起きているか知れないが、このままここにいても仕方がない。そう判断した私は扉を開こうと手をかけた。
その時、扉が半開きの理由がわかった。
人間が・・カツが挟まっているのだ。
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- 520 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
02:04 ID:???
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- 521 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:10 ID:???
「これが・・ジオン・ダイクンの演説?」
アムロがこの若き革新家の姿をみて、そう呟いた。
「そうだ。・・・この演説は確かに何か人を惹きつけるものがあった。彼はまさにカリスマだった。
仏陀やキリストの再来とまでいわれるほどに。宇宙移民者の心を激しく揺さぶったのだ。そして惹きつけた。
民衆はこの思想に扇動された。口々に独立を叫ぶ。
そしてその力がジオン共和国建国の原動力となったのだ。父デギンと私はその為に尽力した。
正直、私はこの当時はニュータイプなどは理想に過ぎないと思っていた。」
ギレンはそこでいったん言葉を区切った。
「それより、私には、現実的である宇宙移民の独立が魅力的であった。可能性からいってな。
今もそれは変わらん。が、今ではニュータイプの存在を信じてもよいのではないかとも考えるようになったのだ。」
そこまでいうとギレンは、再びこちらを振り向く。
彼は、後ろのモニターの光の所為で輪郭だけが、黒く浮かんでいる。
黒く浮かび上がるそれは人間というより何か別の生物にみえた。
- 522 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:15 ID:???
「ニュータイプ・・お前は今まで何をしてきた?この人類のために・・革新的な能力を有していながら。
なにもしようとせず、ただ連邦政府のいいなりとして動いていた。考えることを放棄していたのではないか?」
それはかつてシャア・アズナブルにも言われたことであった。
アムロは何も答えない。
ギレンは少し遠くを見る表情になった。
「私は、人類は宇宙にもっと翔ぶべきだと思った。
無限といわれる宇宙がたかが200億人程度の我々人類の存在を疎ましく思うほど偏狭ではないと確信するのだ。
人は宇宙にもう少し己の存在を主張できるのではないか?それともそれは自惚れか?
いや、自惚れでは無い。人は確かに主張できるのだ。
ならば我々は、地球にいつまでも囚われるわけにはいかないのではないか?
モグラの様に土中にいるよりは、この宇宙にもっと生活空間を拡大し、全身で存在を示すべきなのだ。
宇宙にはそれだけのキャパシティがある。どうしてそれを使おうとしない?
既に人類はその次元に達しているとは思うだろう?」
- 523 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:19 ID:???
そこでギレンは更にモニターを切り替える。
2人の眼前には、今度は宇宙が広がった。外部カメラの映像だろう。星が輝いて見える。
アムロはモニターに目をとらわれた。久し振りに見る宇宙は、相変わらず深淵で果てしなく深く広い。
星がよくみえる。
大気が存在しない宇宙では、星をぼかすものは無く、それは透き通った光を放っている。宇宙でしか星はこうくっきりとは見えない。
遠くに煌く星の渦をみているといったい自分が何者なのかわからなくなる時がある。それは酷く頭を混乱させる。
アムロも例外ではない。だから宇宙で、星を眺めるのは好きではない。その感覚は時として死を想像させるからだ。
星というのは地球で見るから神秘的なのだ、とも思う。
宇宙ではそれはありふれた情景の一つとして視認されてしまうし、それは哀しすぎるからだ。
星というのはいつまでも人類の希望であって欲しいと思う。
例えそれが、実際にはただの鉱物であっても。
アムロは宇宙空間に広がる銀河の流れをみながら、それを不気味とも華麗とも思う。
宇宙は確かに胎動し、人類を包括的に包み込んでいる。遥か昔から現在にいたるまで。
ふと、鼓動が聞こえた気がしてアムロは首を振った。
軽い頭痛を覚える。
動悸が激しい、喉が酸素を求めて苦しげに呼吸を搾り出す。宇宙が迫ってくる感覚がする。
・・自分も引っ張られ始めている?まさか!
- 524 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:24 ID:???
「大量に人類を虐殺し、ニュータイプへの革新の可能性を奪った貴方が人類の未来を謳うなど・・・」
宇宙を視界に捉えながら、アムロはようやく、そう言葉をだす。
「ニュータイプなる存在が正しい人の進化の行く末であるのなら、私個人の斧などからは逃れてくれよう。
たった一人の人間の手によって阻止される程度の革新ならば、それは革新とは呼べないのではないか?
進化というのはもっと圧倒的に人類を包み込むのでなければならない。
人類総体の脱皮というのはそういう絶対的なものでなければならぬ。私はそう解釈している・・」
ギレンは断定した。
- 525 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
02:27 ID:???
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- 526 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:27 ID:???
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「カ、カツ・・?」
足元にうずくまるように挟まっているカツを見る。
私は屈み込んでカツを抱き起こす。
薄暗闇でよくわからないが、身体をさわってみる。顔を撫でてみる。
ぬるり、としたものが手についた。べっとりと付着したそれの匂いをかいでみる。
「やっぱり・・・」
血液だ。
となるとカツは・・死んでいるのだろう。
脈をとってみる。
やはりうごいていない。死んでいる。
- 527 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:33 ID:???
普段の私ならば、ここで動揺して取り乱したかもしれないが、今は何故か落ち着いていた。
冷静だった。非情と思われるほどに淡々と事実を理解する。
少なくともカツとは一年戦争時からよく知っている。そのカツが死んだというのにどうしてこう落ち着いているのだろう?
汗もでないし、心臓は一定のリズムで静かに鼓動している。頭は正常に働いている。
カツが死んだというのに。
おそらくブライトの死が私の感覚を麻痺させてしまったのだろう。
そしてこの幻想的な部屋の中では何が起きても不思議ではないと感じてしまうのだ。
このよくできたファンタジーの世界では、人の死もその中では一つのオブジェの様に思える。
予定調和。現実感の喪失。ワンダーランド。
カツの死体をそのままに、私はその扉から通路に出る。
外がどうなっているか知りたい。
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- 528 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:40 ID:???
「それに・・・・」
ギレンの声だけが、この部屋に響く。
「人の革新を・・翔ぶのを妨害するだけの下衆は地上に存在する価値はないと私は断ずる。
クズ共に崇高な理想のなにがわかる?大衆は常に愚かで醜く、目先の利益しかみていない。
先導者がいなければ奴等は何もできん。明日のことさえ考えていないだろう。これは誇張ではない。
それほど大衆というのは愚かだ。だれが、彼等を導く。この不安定な世界で。
地球連邦?内部が腐敗しきっているあの屑どもにはそんな能力は無い。
この宇宙に・・・人類の永遠の繁栄をもたらすのが私の目的だ。ジオン帝国を築くといったような馬鹿げたことは考えておらん。
私はヒトラーやアレキサンダーのような旧時代の権力者とは違う。
目的が叶えば私はいつでも隠居をしよう・・」
その声には偽りの色はない。これはギレンの本心なのだ。
よく聞こえわたる彼の声と、鋭くて澄み切った眼光は決してギレンが単なる独裁者ではないことを示している。
たんに権勢欲に凝り固まった俗物ではない。
- 529 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
02:44 ID:???
-
- 530 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:48 ID:???
ギレンはアムロに近づく。
「どうだ?私の・・同志になるというのは・・?」
「・・なに・・?」
「無論、ここにきたということは本当は知っているのだろう?この艦の秘密を?」
「・・」
「どうして知っているのかは知らんが・・この場所を知るのはブライトしかいないと私は思ったが。
まぁ、貴様はニュータイプであるのだから感知できても不思議ではない。
この場所に近づいてきているのをモニターで確認して私は愉快だったぐらいだ。
問題はそこではない。
人が本当にニュータイプへの革新ができるとするのならば、それを邪魔しているのは地球連邦に他ならぬという事だ。
奴らを滅ぼさねば、いつまでも人は愚鈍なままだ。
そして、この艦があれば、時間はかかるにせよ地球連邦を滅ぼすなど容易いという事実だ・・そうだろう?」
確信に満ちた声でギレンはいう。
アムロはこの言葉を聞いて、ようやく彼の把握の程度に気が付いた。
そして、微かに失望した。
- 531 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:50 ID:???
滅ぼす・・か・・。
やはり彼も独裁者なのだ。オールドタイプ的思考をする。
そこまで気がついたのならばもうひとつ発想を進めればいいのだが、そこにはたどり着かない。
ブライト・ノアと同じ到達点だ。そこでは駄目なのだ。そこは通過点に過ぎないのだから。
もっともそこにたどり着いたのはシャア・アズナブルだけである。
アムロは彼から全てをきいて知っている。この艦の秘密を、全て。
- 532 名前: 1 投稿日: 02/12/23 02:56 ID:???
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通路には更に惨い光景が広がっている。
無論通路も依然として暗い。まるで宇宙の闇にほうりだされたような深い闇が支配している。
淡い光の粒子が辺りをほのかに照らしてなければまるで何も見えなかっただろう。
やはりここでも光の粒子は壁の中に組み込まれているように存在していた。光苔の様に。
おそらく艦内全てがこの光に覆われているのだろう。そんな気がした。
しかしその光の粒子が見えないところ・・・通路の所々に真っ黒な塊がある。
この通路にはまるで水溜りの様に、光の粒子が途切れてて塊が転がっている。
それはそこに何かがあるということを示している。
その暗闇の水溜まり・・それは人であるのは間違いない。
粒子の上に覆い被さっているので微妙な陰翳がそこにはある。
私は息を殺してその塊の一つに接近する。
- 533 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:02 ID:???
暗いので顔は見えない。この光はあらゆるものを全て霞みの様に照らしているのだ。ぼんやりと。
そこには実態というものが消えて、まるで残像であるかのごとく現実感を喪失させる。
腕をとって握ってみる。脈は無い。ぐったりとした肉体は少しまだ温かい。
"まだそんなに時間はたっていない?"
顔を触ってみる。やはりほのかに温かい。
そこで私はようやく、この男の顔に特徴的なレンズがつけられている事に気付いた。
「ハリー?」
それはハリー・オードだった。
先程のカツと違い、外傷はなさそうだ。だが、死んでいる。
「どうして・・?一体何が?」
ハリーが死んでいる?何が起きたの?
私はあらゆる可能性を考える。毒ガス?いや、違う。それはない。
それじゃあ一体?
その時、通路の少し向こうから、何か音がしているのに気が付いた。
- 534 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:08 ID:???
私は緊張した。誰かがこの通路にいるのかもしれない。
それがハリーやカツ、更にその他(まだ確認していないけれど)を殺したのかもしれない。
方法はわからないけれど。
私はその場でジッと息を殺して、気配を感知しようとする。
どうやら・・人の声のようだ。人がいる?
少し躊躇したが、私はその声のする方に近づいた。危険かもしれないが、ここにいても何も解決しないのだ。
これは手がかりになるかもしれない。
私はその声のする方へ近づく。
足元の塊は極力みないように、壁に手をついて。ゆっくりと。
この幻想的な通路を通って。
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- 535 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
03:09 ID:???
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- 536 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:12 ID:???
「ニュータイプである貴様にも地球連邦の唱える絶対民主制、それによる議会至上性の弊害はわかっているだろう。
あのシステムでは内部が腐敗するのは明白なのだ。
凡俗どもは認めたがらんがな。
だが、それはジュリアス・シーザーの時代から変わらぬ真実だ。見せ掛けだけの民主主義とやらになんの救いがある?
政治家は自分の地位の安定だけを願い、抑圧された民のことなどなんら眼中に無い。
連邦が公式にニュータイプの存在を認めたか?認めていないだろう?
彼らは恐怖しているのだ。新人類の誕生により自分たちの利権が消滅してしまうことを。
保身だけを考える政治家どもは人類の革新など信じようとしないのだ。仮に信じたとしても公に認めることは無い。」
アムロの微かな態度の変化に気が付かず、ギレンは喋りつづける。
ギレンの声には自分の言葉による軽い陶酔感が含まれている。
この暗い灰色の世界でギレンは一人夢を見ている。20億人殺してもまだ覚めない。
アムロ・レイにはギレンのいっていることは理解できる。確かに現在の地球連邦政府ではダメだと思う。
けれどギレンの思考は理解できても、決して賛同はできない。
- 537 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:16 ID:???
「それに・・仮に貴様がこの艦を止めようとしても・・
もう誰にも止められぬ・・システムは起動したのだ。遅かったな・・」
ギレンは唇の端をかすかにあげて、そう言った。
アムロは言う。
「違う・・まだ・・遅くない。」
そこには暫定的に二つの意味が含まれている。
地球への意味と。この艦への意味と。
「遅くない・・?」
ギレンの声には微かな動揺を読み取れた。が、一瞬でそれはまた消える。
「・・フ、冗談はよせ。」
- 538 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:19 ID:???
そういうとギレンは、椅子についてある装置を少し操作した。
モニターの右隅に映っているロランの映像、それがモニターの中央に拡大表示される。
更にギレンが少し操作すると、少し遠目のアングルに切り替わる。
通路全体を映し出すアングルに切り替わった。
真っ暗な通路がほのかに光っている。淡い光をほのかに残しながら、そこに沢山の黒い影が見える。
それはジオン兵達が、倒れている姿であった。通路のちょうど中心付近だ。
彼らはぐったりと、思い思いに倒れて、重なり合っている。まるで月に眠る死人の様に。
誰も動かない。動けるわけが無いのだ。
だけど、彼らは死んでいるわけではない。飲み込まれているだけだ。
そしてそれはこの艦のシステムが最終段階に入りつつあることを教えている。この暗闇と光がそれを証明している。
ギレンはそれを確認し、先程のアムロの言葉を、戯言と断定した。
- 539 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:21 ID:???
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「ソシエ?」
私は泣き声のするところまで壁に沿って慎重に近づいて、その人影を見かけたとき思わず声を出していた。
それは間違いなくソシエである。
勿論ほぼ真っ暗の世界なので、はっきりと視認したわけではない。それほど彼女に接近はしていなかった。
ただ女性の泣き声が、私の耳に入った瞬間、ソシエだと直感的にわかっただけだ。
ソシエは膝を抱えて通路の隅にうずくまるようにして、泣いていた。
泣きながら、何かを呟いている。
私の呼びかけはどうやら聞こえなかったようだ。
- 540 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:31 ID:???
あたりに点在する光の粒は月の反射光の様に彼女を青白く照らしあげていた。
そしてそれは少女の哀しさを宿命的に染め上げていた。
ハッとするほどの美しさを、少女期独特の淡い儚さを。それは少女期にしかない性質の美しさである。
私は彼女のすぐ側まで行くとそこに屈み込み、彼女を覗き込むようにして、もう一度静かに声をかけた。
「ソシエ?」
その声は自分が出しているとは思えないほど、この空間に硬質に響いた。
ソシエはビクっと身体を震わせたかと思うと、しゃくりあげながらその顔を上げた。
そしてこちらを見て涙で濡れた瞳を大きく開く。
その中に驚きと、安堵が含まれているのが今の私には読み取れた。
- 541 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
03:33 ID:???
-
- 542 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:42 ID:???
「ミ、ミライさん・・・?」
「ソシエ・・どうしたの?一体何があったの?どうして泣いているの?」
私は彼女が正常な反応を返してくれたことにホッとしながら、そう矢継ぎ早に質問した。
「ミライさん・・ロランが・・ロランが・・死んじゃった・・・。ロランがぁ・・」
ソシエは私の質問には答えずそう声を絞り出すようにいい、私にしがみ付いた。
「ロランが・・私の・・所為で・・」
ソシエの瞳から大粒の涙がぽろぽろとこぼれる。
それはこの青白い淡い月のような光に照らし出されながらも、無重力の闇にそっと消えていった。
少女は悔恨の言葉を呟きながら私の胸に顔を埋めて泣いた。
私は、静かに少女の背中を撫でる。ガラス製のグラスを扱うようにそっと壊れないように。
少女の背中が小刻みに震えて、行きどころの無い哀しさで涙は洪水の様にあふれ出る。
- 543 名前: 1 投稿日: 02/12/23 03:56 ID:???
「そう・・ロランも・・」
私は呟く。
彼の銀髪を私は鮮明に思い出した。にっこりと微笑みを浮かべている様子と共に。
「・・・死んじゃ・・駄目・・じゃな・・い・・・・」
腕の中で、ソシエの掠れた泣き声だけが私の耳に届く。
それは少女の純粋な哀しみに彩られていて、私の麻痺した感情を直線的な刺激として激しく揺さぶる。
血液が10日ぶりに、私の心のなかを循環しだした気がする。
私はやっと本当に認識する。
あぁ、これはやっぱり現実なのだ。
ブライトの死も、この幻想的な世界も、ソシエの哀しみも、私たちを包み込む全ての要素は現実で、
この艦はそれを全て集積していく。まるで枯葉が静かに降り積もるように。
そう考えたとき、私は漸くこの現象の原因に思い当たった。
- 544 名前: 1 投稿日: 02/12/23 04:02 ID:???
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とりあえず一旦ここで区切ります。連続投降補助してくださった方どうも有難うございます。
- 545 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
04:05 ID:???
- >>1
乙~。規制はどんな感じ? 適当に入れてたが
- 546 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
04:05 ID:???
- 深夜に長時間お疲れ様でした。
相変わらず綺麗で素晴らしい。
- 547 名前: 1 投稿日: 02/12/23 04:17 ID:???
>>545
おかげさまで大丈夫でした。感謝です。
規制には引っかからなくてホッとしました。
>>546
そういっていただけて嬉しいです。
ちょっとギレンとアムロの方は会話の内容が長くて複雑になりすぎたので、読みにくいかな?と心配でした。
かといって、あんまりギレンの口調を読みやすくするとギレンっぽくないので・・折り合いをつけるのがなかなか。
次でホントに11章が終わりです。こんな時間まで読んでくださって有難うございました。
それでは・・
- 548 名前: 通常の名無しさんの3分の1 投稿日: 02/12/23 09:47
ID:???
- 1さん乙彼~~~。
一体何が作動したんだ!? WBR!
- 549 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23 11:35
ID:???
- ああ~!>>1様ああ!>>1様あああ、文体かーいいよーーー!かーいい~!
- 550 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23
14:14 ID:???
- 一応、ageておく。
- 551 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23 16:52
ID:???
- 今回も楽しく読ませていただきました。
カツが扉を開けたところで何かが起きた?・・・ワクワク
- 552 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23 21:06
ID:???
- とうとう>>1ブリッジ大佐が現れたか・・・w
>>1さん
お疲れ様でした。ワクワクドキドキしながら読みました。
相変わらず引き込む力が、凄いです。
- 553 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/23 21:19
ID:???
- 1さん乙です!!!
続きが楽しみだぁ
- 554 名前: ろうろん 投稿日: 02/12/23 21:54
ID:???
- 話がすごく良かったです・・・
この文章を見てると何だかドキドキしてしまいますね。
展開がどうなるのかとか・・・
次の話も期待してます、>>1さん
- 555 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/24
12:31 ID:gekO/+Uj
- やばいやばい、あと10個下がったら倉庫行きたっだよage
- 556 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/24 13:50
ID:???
- datに落ちるスレは最終書きこみ時間順で決められるから
sageもageも関係無いのだが・・・これはちょっと沈みすぎだよな。
- 557 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/24 19:09
ID:???
- ハリーの死は貞子かと思ったクリスマスの夜
- 558 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/24 20:11
ID:???
- キングクリムゾン!!
- 559 名前: kanrinin 投稿日: 02/12/24 23:43
ID:???
- 冬休みに入ってしまいました。
age時が難しいですよね。
- 560 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/25 10:02
ID:???
- sageで細々と保守ればいいかと。
1さんが来た時以外ageる必要もあんまりないし、なんといっても冬。
- 561 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/25
13:12 ID:JgPnmcDm
- ガリクソン
- 562 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/25 14:25
ID:???
- どんどん落ちていって、もう表示されなくなってもdatオチってしないもんなの?
- 563 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/25 17:14
ID:???
- >>562
厳しいようだが、調べたり考えたりすればわかる。
- 564 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/25 21:03
ID:???
- まあ確かにスレ一覧の最後にあるということは他のスレよりも最新書き込み率が低い可能性はあるけども、
このスレは基本はsageだからなぁ。
ageは>>1が書き込むときくらいでいいと思う。