第二回天下一武道会 第十一章 (3)
[ 第二回天下一武道会 ]
- 281 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:17 ID:???
激しい爆発音が響いて、ハリーたちの部屋を隔離していたドアは粉みじんになった。
その爆音は、さながら開幕ベルの様に艦内に響いた。
舞台の緞帳は上がった。後はそれぞれが自分の役目を演ずるだけだ。
幕間はない。台本もない。観客も存在しない。
あるのは人の魂の、精神の衝突である。シンプルなまでの。
だがそれが人の根源である。
なにかを演じ、それに従っているのだ。
それぞれの日常が既に喜劇であり悲劇であり、愛憎劇である。
ただ、この艦内での劇はその規模が大きいだけだ。
かつて欧州の偉大な劇作家がいった言葉がある。
「人とは生まれついて生涯何かを演じている不自然な存在だ。
ゆえに道化だろうが、独裁者であろうが大した違いは無い。」
- 282 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:19 ID:???
ドアが爆破された瞬間にハリーはすぐに動き出した。ドアの方向に走る。煙が充満していた。
今の爆発音を聞きつけて、すぐにジオン兵がくるだろう。ゆっくりしている時間は無かった。
ミライを奪取できなければこちらの数少ない人数では勝ち目は無い。
ただの捕虜の反乱だと思われてはいけないのだ。ミライを救出し、こちらにある正当性を強調しなければ失敗に終わるのは明白だった。
「ハリー中尉!こちらに置いてある袋の中に、拳銃など武器を置いておきますので!我々は陽動のためドックに向かいます」
オクトバーが室内にいるであろうハリーに呼びかける。煙の所為で何も見えないのだ。
「了解だ!無事を祈る!」
ハリーがオクトバーの声がした方向にそう答える。
「そちらも!ミライ艦長はどうやらブロックS・・特別捕虜室の一室にいる模様です!それでは!」
そういい残すとオクトバー達はドックへ向かう通路へ流れていった。
ハリーもぼっかりとあいた穴から、通路に出ながら部屋に残っている連中に叫ぶ。
「それでは我々はミライ艦長救出に向かう!拳銃はオクトバーの置いていった袋の中にある。各自一つ拾っていけ!死ぬなよ!」
そういい残すとハリーも部屋から消えた。
後に続いてスレッガーや他のメカニックマンたちも続く。
直ぐに通路で激しい銃撃戦の音が聞こえる。
ジオン兵達が今の爆音で集まってきたのであろう。通路には、監視をしていたジオン兵2人が死体で転がっていた。
ソシエもロランに、先にいくわよ、と言い残すと、矢のように走って出て行く。
残されたロランが慌てて
「ま、待ってくださいよ!お嬢さん!危険です!」
と、叫びながら急いでついていく。手にはしっかりと拳銃を握り締めている。
ロランは走りながら、軽く咳き込む。
頭痛と、微熱はまだ続いていた。
- 283 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:21 ID:???
「なんだ!今の爆発音は!」
ブリッジにいたランバラルがオペレーターに怒鳴る。
「わかりません!
「捕虜たちを閉じ込めている資材室のブロックの辺りから衝撃音が発生したと思われます。」
クルーのがそう報告する
「捕虜たちのいるブロックだと!」
ランバラルの眼が大きく見開く。
そしてにやり、と笑う。
こうでなくてはな。少年。
この位の気概はあると思っていた。
嬉しいぞ。血が騒ぐわ。
「ドックから緊急連絡!連邦の残党がなだれ込んできたようです!ただ今、銃撃戦を展開中!」
艦内モニターにドックの様子が映し出された。
ランバラルが立ち上がる。
「そうか!奴ら、モビルスーツを奪うつもりだな!断固阻止だ、兵をドッグに集中させろ!」
- 284 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:30 ID:???
ドアが爆発してから三分が経過した。
徐々に煙が部屋の空気調整パルプの中に吸い込まれていき、辺りがまたクリアに見え始めていた。
既に、部屋にはウッソ・エヴィンとアムロしか残っていなかった。
「・・君は・・ミライ艦長を救出にいかないのか・・?」
アムロが、まだ部屋に残っているウッソに向かって問い掛けた。
ここに残っていては危険だ、そう暗にウッソにしめす。
「・・・僕にはちょっと他に・・行くところがあるんです・・」
ウッソが少し躊躇した後にそう応える。
アムロは黙っている。
通路からは銃撃の音がかすかに聞こえてくる。
ウッソは更に続けていう。アムロに話すというよりも少年は自分に語っている。
辛そうな顔をしている。
カテジナ・ルースや母の最期の情景がウッソの脳裏には再現されているのだろう。
その戦争時のトラウマががウッソの精神を蝕んでいるのがアムロにはわかった。
もちろんカテジナや母親の死のことなどアムロは知らない。
ただわかるのだ。認識できる。この少年の苦痛が。
それはかつて自分にも覚えがある種類のものであるからだ。
- 285 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:34 ID:???
「終わりにしなきゃいけないことがあるんです。
そのためにこの艦に乗艦したんです・・。
今までずっと引き伸ばしてきたけど・・。もう終わりにしなきゃ。
これ以上は僕も彼女も・・限界でしょうから・・・・シャクティも待ってるし・・カルルや・・マーベットさんだって・・」
そこまでいうと、ウッソはゆっくりと立ち上がった。
アムロの目には、そういうウッソのその姿は非常に危ういものに見えた。
昔の自分をみるようだ。
しかしアムロはウッソを引き止める事はなかった。
彼はこのために乗艦してきたのだ。それを止めることはできないであろう。
アムロは直感的にそう判断した。
止めても無理なら敢えて警告することはない。
だからアムロは少年にこういった。
「君は・・君の決着をつけるといい。自分の信じるとおりに。艦のことは心配しなくていい」
そして手を差し伸べた。
ウッソはそのアムロの顔を見て、少し笑い、その手をしっかりと掴んだ。
アムロはその時この少年の手が思ったより小さくないことに気が付いた。
- 286 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:42 ID:???
「アムロさん・・一つ聞いてもいいですか?」
すこし間をおいてウッソが尋ねる。
アムロが黙って続きを促す。
「アムロさんも・・・何か・・決着をつけるんですか?」
アムロの顔を真っ直ぐ見て、ウッソは尋ねた。
決着。
アムロはその言葉を口に出して呟いてみた。
シャアとの?
それは簡単に決着というには、あまりに複雑に絡みすぎている。
シャアとの決着。
その極めて明確な言葉が、10日間に渡る葛藤を超えて、アムロの意識に新たな変化をもたらした。
”そうか・・僕は難しく考えすぎていたのかもしれない・・・”
物事は考えていたよりシンプルなのかもしれない。そう捉え直して見ると、意識が落ち着いてきた。
いや、落ち着いてきたというより、元に戻ったという方が適切かもしれない。シャアとあの会話をかわす前の。
やはりシャア・・それにララァの事がが絡んでくると自分は冷静に思考をできないのだろうとアムロは思った。
いらぬ危惧や、自己嫌悪に囚われて本質を離れてしまう。感情的・・感覚的に過ぎるのだろう。
それが仕方の無いことだとアムロは認めたくなかった。
- 287 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:50 ID:???
「アムロさん・・・?」
ウッソが戸惑いがちに声をかける。その言葉にアムロは漸く反応した。
「・・・そうだな。ウッソの顔を見てたら・・・やはりそうしなければいけない、そんな気がしてきたよ」
アムロの脳裏にシャア・アズナブルの顔が浮かんだ。
シャアの最後に勝ち誇った様にいった台詞。
『それがララァの・・ひいては私の望みなのだ』
10日前に血塗れで突然現れた彼がアムロに喋った内容。
アムロはあの時のことを思い出す。そして否定する。
”それは違う。お前は己のエゴにララァを利用しているんだ。”
アムロはそう断定しながらも、シャアへの嫉妬もかすかに感じた。
”それでも・・ララァを感じられるなら・・”
そうも思うのだ。だが、アムロにはそんな自分の感情を認める器量はなかった。
- 288 名前: 1 投稿日: 02/12/04 02:55 ID:???
「ところで・・・頭痛がしないか・・?ウッソ?」
「・・・ええ、少し・・。アムロさんも?」
アムロもゆっくりと頷く。そしてウッソには意味不明ともいえる言葉を発した。
「やはり・・か」
「え?」
ウッソにはこのアムロの台詞は理解できなかった。
「頭痛は最近から?」
「いえ・・10日程前からかすかにです。時折り軽く痛む程度ですけど。最近その間隔が狭くなってきているような気もします。」
「その頭痛の時には頭は妙に冴えて、余計なことまで思考してしまう・・」
「ッ・・!そうです。どうしてわかるのですか?」
だが、アムロはこれ以上この話題をしなかった。
「いや・・変なこと聞いてすまなかった」
そしてまた、黙り込んでしまった。
ウッソはそんな彼に微かな苛立ちを覚えた。
少年の純粋さは、こんなアムロを卑怯だと感じてしまう。
- 289 名前: 1 投稿日: 02/12/04 03:07 ID:???
いつのまにか外の銃撃の音がしなくなっていた。
アムロはそれに気がつくと、ウッソにいった。
「今なら、いけるみたいだ。だが、用心のため拳銃を持っていけよ。」
オクトバーの置いていった袋の中から拳銃一丁取り出すとウッソに投げてよこした。
「あ、ありがとうございます。アムロさんは・・?」
「僕のことなら気にしなくていい。僕も今からすることがある・・。」
そしてウッソに早く行くように促した。
(・・アムロさんの考えはよくわかんないけれど。とりあえず僕もいかなくちゃ・・・・)
ウッソはそう判断してドアに向かって歩く。粉々になったドアの残骸が足元に転がっている。空中にも飛散して漂っている。
そして通路の側に無造作に転がっている二つの死体。ジオン兵。苦悶の表情。更に銃弾の跡。硝煙の臭い。血の臭い。
それら全ての無残な姿はこの艦のこれからの結末を象徴している様に思えた。壊れ始めている。
もはや戻れない、と少年は痛切に感じた。いつからこんな風になってしまったのだろう?
最後に振り返って部屋に残っているアムロ・レイをみた。
彼は拳銃を握り締めてなにかを呟いていた。右手の親指をしきりに噛んでいる。
ウッソは何故か、アムロのその姿に、ふと父親のことを思い出した。
脳裏に浮かぶ父の顔は何故か酷くぼやけていた。
酷く気持ち悪かった。
- 290 名前: 1 投稿日: 02/12/04 03:17 ID:???
今回はここまでです。
次回はえーと・・ちょっとわかりませんが、木曜あたりじゃないかと思います。すいません。
思ったよりかなり11章は長くなりそうです。
今後はウッソの今後や、ロラン達ミライ救出組、迎え撃つランバラルの動き、ギレンに視点が動くつもりです。
見てくださっている皆様に感謝しつつ・・寝ます。
それでは・・
- 291 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/04 03:24
ID:???
- >>1さん
今回もお疲れ様でした!
- 292 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/04 04:35
ID:???
- >>1さん
応援してまっせ!
- 293 名前: 。・°°・(≧□≦)・°°・。 投稿日: 02/12/04
14:48 ID:???
- ぐわんがれ!!!
- 294 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/04 15:01
ID:???
- もう!惚れるゾ☆
- 295 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/04 15:13
ID:???
- >>294
俺なんてとっくに惚れてるね!
- 296 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/04 15:42
ID:???
- >>1様
しょうがない。俺が嫁に逝くか...
男だけどね。
- 297 名前: ろうろん 投稿日: 02/12/04 15:56
ID:n1bR4eph
- 応援してます!1さん!
あと馬鹿な発言して、本当」にすいませんっっ!!!!
- 298 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/04 19:38
ID:???
- なんつー健全なスレだ。
ここが悪いインターネットというのもおかしくないな・・・・。
- 299 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/05 01:12
ID:???
- >>298
あ、書き間違い。
「ここが悪いインターネットというのを忘れてもおかしくないな」でした。
- 300 名前: 1 投稿日: 02/12/05 04:29 ID:???
- >>294 >>295
ほ、惚れられてしまった・・嬉しいです・・
けど、お気持ちだけで充分ですので・・
>>295
ええ?!
それもお気持ちだけで・・(笑)
>>297
気にしないでください。
いつも見てくださっていらっしゃるようで、ありがとうございます。
>>299
本当に。
ここを見てくださっている皆様がたは優しくて嬉しいです。
それでは11章の続きをご覧下さい。
ウッソの話からです。
- 301 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 02/12/05 04:35
ID:???
- (;´Д`)ハァハァ