第二回天下一武道会 最終章 (2)
[ 第二回天下一武道会 ]
- 685 名前: 1 投稿日: 03/01/09 06:31 ID:???
ドック。
メカニックたちが作業をして、普段はモビルスーツが置かれている場所。
オイル臭く、機械の部品がいたるところに散乱しているところだ。まるでそこはマシンの巣であるかのように。
「凄い・・・」
ミライは息を飲んだ。
アムロからの指示を受けてから、はや二十分が経過した頃、ミライはようやくそこに着いていた。
いまだ眠っているソシエを背中に乗せている。
「ここがドック?」
ミライが手すりに寄りかかりながら、もう一度呟く。口にださないと信じられないといったように。
そこには一面に広がる銀白の世界が、ひっそりと構築されていた。
まるで雪が降り積もり、そこに三日月の光が降り注いでいるかのような美しい柔らかな世界がそこにはある。
あの通路にあったような光の粒子は、このドック内ではもう個々に球状にかたどっておらず、全てがくっついてひとつになっていた。
どうやら微かに発光しているらしい。
モビルスーツだけがその世界の中で硬質な存在としてあり、ただ一つ違和感を感じさせる。
それがなければここはまるで楽園のような場所に見る人には映るだろう。
通路の深い闇を辿って出てきたミライにはこれはまさに神秘的ともいえる空間であった。
彼女はドックの二階の通路の部分で立ち止まって、見下ろすように眺めているところだ。
- 686 名前: 1 投稿日: 03/01/09 06:40 ID:???
ゆっくりとキャットデッキからミライは降りた。後ろにソシエを背負っているので慎重にリフトを使う。
「それにしても・・・凄いわね・・」
ミライは嘆息した。
通路も凄かったけれど、ここの世界はなんと言うかその広大さの所為か、圧倒される。
さっきから色々、幻想的な光景を眺めてきたから多少のことでは驚かないつもりだけど、ここはまた今までとは別だ。
光が足元から私たちを照らしている事実。天井からも霧雨の様にそれは降り注ぐ。そして、それは人という存在の全てを鮮やかに照らし出す。
白い。
全てが。雪、もしくは肉を極限まで削ぎ落とした後の骨のような鮮やかな白の空間。
私もおそらくその中で白くなっているだろう。
リフトから降りて、ミライはそのまま歩く。
別に目的があるわけではない。アムロにはここに来てください、といわれただけだ。
ミライはざっと辺りを見渡す。モビルスーツの他には何もない。
どうやらアムロはまだ来ていないみたいだった。
- 687 名前: 1 投稿日: 03/01/09 06:58 ID:???
「アムロ・・いないわね。」
ミライは自分に確認するようにいった。広い空間に自分の声だけが響く。
念のため、もう一度辺りを見渡す。ふと、視界の隅のほうで何か動いた気がした。
誰か、人がいる。
ミライはその人影の方に歩く。
遠くて判らないというわけではないけれど、光がぼんやりと照らしあげている所為ではっきりとはわからない。
金色の髪だ。立ち止まってじっとしている。
金色?金色の髪?
シャア?!
ミライは一瞬身構える。
腰に手をやるがそこに拳銃はない。通路にあるのを拾っておけばよかった、とミライは悔やむ。
が、冷静にその人物をみればどうやら子供のようだ。体型でわかる。シャアにしては低すぎる。
金髪で・・子供となると・・
「ウッソ・・・?」
光に照らされている金髪の少年を見つけて問いかけた。が、返事は無い。
幻想的な中に一人、モビルスーツの足元に立っている彼の姿はどこか不安定に見える。
ミライは彼に近づく。
- 688 名前: 1 投稿日: 03/01/09 07:10 ID:???
「・・ウッソ・・」
ミライは彼の姿を間近で確認して、思わず息を飲む。
彼は白いTシャツを着ている。
けれど今そのTシャツは黒ずんだ血がべっとりと染み付いている。
涙で濡れた瞳。小刻みに震えている唇。脇腹をおさえている手。そこから覗く微かな赤。
彼の目は、モビルスーツをじっと見据えている。何か物思いに沈んでいる。足元にはバックが一つ置いてある。
こちらの声はまるで聞こえていないし、まったく気がついてもいないようだ。
その痛々しい姿は、ミライに少年に起きた出来事を容易に推測させる。
- 689 名前: 1 投稿日: 03/01/09 07:27 ID:???
この子もソシエと同じく何かを体験してきたのね・・。
ミライはそう思う。目の前のウッソと、背中のソシエが重なって見える。少年と少女の哀しみが前後から伝わってくる。ひしひしと。
そして、何も助けてあげられない自分に嫌気がさす。背中におぶっているソシエの体温を感じながらミライは強い無力感を感じる。
「あれ・・?ミライさん・・・?」
ウッソが漸くこちらに気がついたのか、不思議そうに声をかける。
「いつの間にこんな近くまで・・・・けど、よかった。助かったんですね・・」
心から安心したような口調でウッソはいった。
ミライはそんな少年の様子を痛々しく思う。この子はこんなときでも他人の心配をしている。
「なんとかね・・。ウッソの方も。・・・よくここまでこれたわね・・通路は暗くなかった?」
「ええ、部屋から外にでたら、そこも暗くてビックリしました。どこか艦の調子が悪いのかと思って。
けれど、ドックへの道筋は覚えていたので比較的簡単にここに着くことができたんです」
そういってウッソは辺りを見渡す。
「ここも・・ドックがこんな事になって驚きました。けど、何かとても綺麗ですね・・」
- 690 名前: 1 投稿日: 03/01/09 07:40 ID:???
「ええ。確かに綺麗ね。・・ウッソ、その脇腹の傷・・深いそうだけど・・大丈夫なの?」
「だ、大丈夫です。さっき一応簡単な手当てはしましたし、傷もそんなに深くなかったですから。出血ももう止まってます。」
そういいながらも左手は脇腹から動かさない。ミライは眉をひそめる。
「けど、・・痛そうよ。ちょっと見せてみなさい」
パシ!
その言葉と一緒に伸ばしてきたミライの手をウッソは反射的にはたいていた。
「ウッソ・・?」
「ゴ、ゴメンナサイ!けれど、今はちょっと触って欲しくないんです」
申し訳なさそうな顔をしながらもウッソは、はっきりと言った。そこに強い拒絶を感じる。
「そう・・あなたがそう言うのなら干渉はしないわ・・・本当に大丈夫なのね?」
ウッソは黙ってうなずく。
その様子を見てミライはとりあえず今は少年の好きにさせた方がいいだろうと判断する。
おそらく彼にとってこの傷は、ある種の意味を持っているのだろう。
それもかなり重要な要素として、彼に刻み込まれている。
肉体的にも。精神的にも。それはウッソにとって印として痕に残る。そして彼はそれを望んでいる。
ミライはそんなウッソの気持ちを察してまた哀しい気持ちになる。
どんな傷も、結局はただの傷に過ぎない。それに意味を賦与することは好ましいことではないのだ。
- 691 名前: 投稿日: 03/01/09 07:45
ID:???
-
- 692 名前: 1 投稿日: 03/01/09 07:46 ID:???
そんなミライの気持ちをしってか知らずかウッソは、ミライが背中におぶさっている少女を心配そうにみる。
「ソシエさん・・大丈夫なんですか?」
「ええ、ちょっとさっきまで不安定だったんだけど、今は落ち着いて寝てるわ。・・大丈夫よ」
「それならいいんですけど・・」
ウッソはソシエから目を離さないで、そういった。
- 693 名前: 1 投稿日: 03/01/09 07:52 ID:???
「ミライさんもアムロさんの声を聞いてドックにきたんですか?」
「そうよ。ウッソもやはりそうなのね?」
「はい。突然アムロさんの思惟が僕の中に入ってきたような感覚がして・・」
ウッソがそう言いながら、ミライの顔を見る。
やはり、といったのが気になったのだ。ミライはどこか懐かしげな顔をしてその疑問に答える。
「・・昔、一年戦争があったときにもこんなことがあってね。アムロの声のおかげでホワイトベースの乗員は皆助かったの。
おそらく今回もそれとおなじかもしれないわ・・アムロはそういったことができる人なのよ・・」
「それじゃあ、この艦の他の皆さんも、少ししたらこのドックに集まってくるかもしれませんね」
ウッソが希望的観測を口にする。
それはない、と思う。
- 694 名前: 1 投稿日: 03/01/09 07:59 ID:???
「そういえばロランもいないみたいだし。皆さん一緒じゃなかったんですか?」
ウッソがそう質問する。
「それは・・・」
ミライは言いよどむ。先程、ドックにくる途中で見た光景を思い出す。
あの血の匂いと残ってた生命の残滓を思う。
ロランの姿ももちろん途中で見ることができた。そして彼は間違いなく・・死んでいた。
彼の瞼はしっかりと閉じられていた。辺りは薄暗く、ぼんやりとしていて、それが彼の死を具現化しているように思えた。
背中にいるソシエが目覚めるといけないからすぐにその場は離れたけれど。
- 695 名前: 1 投稿日: 03/01/09 08:24 ID:???
「ちょっと・・はぐれちゃってね・・それより、ウッソ。
あなた、私に気がつくまでじっとモビルスーツを見ていたわよね?いったい何を考えていたの?」
われながら苦しい話題逸らしだ、とミライは思う。けれど、今ここで、そういったことを彼に教えるのはあまりよい結果を残さないだろう。
ソシエもいつ起きるか判らないのだ。それにこの少年の精神もそんなに安定しているとは思えない。
ウッソは、けれどそんなミライの苦し紛れの質問にいたって真面目に答える。
「・・カサレリアのことを考えていたんです。ほら、ここって今、まるで冬の雪景色のようじゃありません?
そこに異質的な存在としてあるモビルスーツっていうのは僕にとっては懐かしいと感じられるものなんです。
カサレリアにもこういったものがあるんですよ。山のところにビクトリーガンダムを置いているんです。二機。
冬になるとそこら中が雪で覆い尽くされて、白くなる中で、これだけは何とか判るんです。半分だけ露出してて。
その姿を見ながら、僕は雪が全てを覆い尽くしてくれたらいいのにっていつも思っていたんです。」
そういってウッソは少し笑う。
「・・嫌な思い出と共に、雪がガンダムを全て覆ってくれればいいのに埋め尽くしてくれたらいいのにって。
けれど雪はモビルスーツを全て覆い尽くすまでは降りません。だから、冬になると僕は半分だけ埋まったモビルスーツの足元にたって眺めていたんです。
ガンダムは別に好きじゃなかったし、むしろ嫌いなぐらいだったんですけど見てると何故か落ち着いたんです。」
ウッソは目の前のモビルスーツを見上げる。F91。10日前、ここでロランとジュースを飲んで話していたことを思い出す。
一瞬目を瞑り、また開くと話を続ける。
「・・今、こうしてモビルスーツを眺めていると、あの時の僕自身やらシャクティ・・幼なじみです・・と暮らしていた日常のことをリアルに思い出させてくれて・・
だから、さっきはそういったことを考えていたんです」
- 696 名前: 1 投稿日: 03/01/09 08:53 ID:???
「そうだったの・・大丈夫。きっとカサレリアに帰れるわよ」
そうウッソに言いながらも気休めだ、とミライは思う。
帰れるわけがない。私たちは捕らわれているのだ。
この艦にある見えない触手に、しっかりと絡み取られている。束縛されている。
私たちはいわば・・胎内にいるのだから。それを私は感じている。
脱出はできない。それは直感であるけれど、間違いないように思えた。
それじゃあどうしてアムロはドックに私たちを呼んだのだろう?
ミライは再び思索に入り込む。
「脱出はできますよ。ミライさん」
突然、アムロの声がミライの背後から響いた。
- 697 名前: 1 投稿日: 03/01/09 09:03 ID:???
*******
ここまででまた、一区切りです。
このペースでいければ、あと4回ほどで完結予定です。最後までどうかお付き合いの程よろしく御願いします。
- 698 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/09
09:53 ID:ooDo0XsY
- おもろいよーまじでほんとに
- 699 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/09 10:30
ID:???
- 1さんキタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
ウッソ…・゚・(ノД`)・゚・。
ミライさん大人や~…ミライさんだって辛いはずなのに。
どうなってるのか、これからどうなっちゃうのか
激しく期待してます。
- 700 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/09 11:18
ID:???
- ああ~
ああ~
言葉にできない~
- 701 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/09 12:28
ID:???
- >>1さん
何があんたを突き動かしてこんなもの(誉め言葉)を書かせて
いるんだよ
- 702 名前: ろうろん 投稿日: 03/01/09 16:19
ID:???
- 面白いですね~あいからわず先の展開が読めなくて次の話を
早くみたいと思います。
う~ん今生き残ってるのは・・・アムロ、ソシエ、ウッソ、ミライ、シャア?
だから・・・あの写真を見て考えると・・・MS戦でも始まるのかな?
- 703 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/09 17:05
ID:???
- あ、たった今すごい事実に気付いてしまった。
いや、話の中の矛盾じゃなくて。
>>1氏はすげぇなぁ。漏れじゃこういったものは書けないよ。
- 704 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/09 18:38
ID:???
- 凄い・・・
- 705 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/10 00:08
ID:???
- こんな良作は2chにはもったいないような気もしないでは
ないが
一般HPに置くと日昇(あと創痛)がうるさいので仕方ないな
- 706 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/10 02:41
ID:???
- >>705
ログうpはまずいかねぇ?
- 707 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/10 11:43
ID:???
- 1さん、これだけは言わせてくれ
1さん最高!!
保守age
- 708 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/10 13:02
ID:???
- パート1のログはVスレ保管庫にあるよ。
逃したやしはチェック。
- 709 名前: 投稿日: 03/01/10 14:00 ID:???
- ありがたやありがたや……
ttp://vgun2ch.tripod.co.jp/
- 710 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/11 01:35
ID:???
- 保守
- 711 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/11 13:47
ID:???
- こんな時間に圧縮はないだろうが
万一に備えて保守
- 712 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/11 20:14
ID:???
- age
- 713 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/11
20:16 ID:OlFQK+q+
- sage
- 714 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/12 00:36
ID:???
- 週末保全
- 715 名前: 通常の名無しさんの3倍 投稿日: 03/01/12 11:34
ID:???
- age