第三回天下一武道会 3月3日
[ 第三回天下一武道会 サイドB ]
- 138 :3月3日(1/1) :04/04/21 15:51 ID:???
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メール送信履歴 (3月3日 23:52)
Subject:アムロの部屋で
To:黒いサザンクロス(onnatarashi@kinge.ac,xx)
From:赤棟(overman@kinge.ne,xx)
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今日はアムロにあってきました。
アムロ・レイ。15歳。初代ニュータイプといわれる人物です。
現実には、どこにでもいそうな引っ込み思案で、多感で繊細な少年ですけれど、世間はそうは思わないみたいです。
彼の部屋は、機械を製作するための工具やら配線やらが入り乱れていて、雑然としていて、座る場所もないくらいでした。
あきれちゃいました。
けれど、彼は、ゲームが強いんですよ。ゲインさん!僕と互角に戦えるのはシンシアだけくらいかと思ってたけど、甘かったですね。
彼はとにかく読みが凄い。色んなゲームをしたのですが、ストⅡでの話をいうと、彼は僕が波動拳をだす呼吸を完全に見切っているとしか
思えないんですよ。完璧なタイミングですし、連続技も正確無比で、堅実です。一発を狙うこともしません。
これが戦場での彼の動きそのままだろうと、推測できました。いやいや、なかなかどうして・・って、感心しちゃいましたよ。
ニュータイプってのは便利ですね。オーバースキルがいつも発動してるんじゃないかっておもっちゃいました。
勿論、ゲームをしにきたんじゃないんですが。ついついしちゃいますね。ゲームは。。
話を戻します。
えっとですね、アムロは白棟にいるのですが、ほかの白棟の住人とは違って、実はかなり僕や会長と密接な関係にあります。
それはどうしてかというと、まぁ、彼にも色々と理由があるのですが、それでつまり彼は白棟の監視を行っているのです。
それゆえに僕はアムロと連絡を蜜にしています。白棟の内情などを聞き出したりしなければいけませんし。
彼の話によると、こっちの管理人はいまのところ、何も気がついていないようです。雑誌の編集作業に頭がいっぱいなようです。
(白棟は「エクソダス」脱落者を原稿と、読者アンケートで決めるのです。赤棟は・・・)
けれど、今日、アムロの部屋にいたときに彼からノックされたんでびっくりしましたよ。
アムロがうまく追い返したし、部屋の中にいれなかったので助かりましたけど、もしみつかってたら面倒なことになるとこでした。
どうやら昼食を持ってきただけだったらしく、サンドイッチの入った皿を置いていったのでアムロと二人で美味しくいただきました。
やっぱりシベリアよりこっちは食材が豊富ですね。飽食国家万歳といったところですか。食べたあとは早々に引き上げました。
キングゲイナー対ニュータイプの、ゲームの勝敗は・・・内緒です。
さて、それじゃ、今日はこの辺で。
また今日も棟内で喧嘩があって大変なんですよ。後始末が。血って、結構拭き取るの大変ですねぇ・・
あ、そうそう。参考までに白棟の作品をひとつ紹介しときますね。アムロが書いていた作品です。
創刊号に載せるとかいってました。あ、けど、いっときますけど、暗いですよ。ゲインさんはあまり好きじゃないかもしれませんね。
- 139 :アムロ特別編 (1/4) :04/04/21 15:58 ID:???
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「人間失格」 アムロ・レヰ
はしがき
私は、手元の置いてある三葉の写真を眺めている。ボロボロに擦り切ってやや茶に変色している古い写真である。
その一葉は、まず、幼い少年が笑顔で母親の胸に抱かれている姿である。隣には父親がやや固い顔で寄り添っている。
度の強そうな眼鏡をかけた神経質なところがありそうな技術者タイプの男だ。家族より仕事をとるタイプかもしれない。
母親のほうは、にっこりと笑い、息子の手を握り、頬を寄せている。息子はあどけない顔で、ただカメラをみつめている。
父親と息子は余所行きの服を着ている。母親だけが普段着のようなくだけた服を着ている。これだけみたならば単なる親子スナップだ。
「微笑ましいものですね」
などと何の想像もせずにお世辞をいう人もいるかもしれない。ただ、すこしだけ人の表情というものに造詣があるものならば、
この写真にある奇妙な雰囲気を理解し、「なんて嫌な写真だ」と思って、いまいましげに床にほうりなげるだろう。
この良く作られた、政府広報のパンフレットにおかしくもない、そんな典型的見本の家庭団欒写真には、偽りがあるのだ。
父親の顔の強張り、母親の媚びたような笑い顔、息子のどこか不安げな目。
フォーマルな服をきている父と子と、カジュアルな服装の母。私はこういったときにとる写真がどういうものか知っている。
離婚した夫婦がとる写真のようなのだ。これは。事実、この写真は父と子だけが、宇宙にいって、母親が残るその日に撮られたものらしい。
第二葉目の写真は、少し時代が進んでいるようだ。すっかり成長している。
幼かった少年は、成長して、年はハイ・スクールに通う程の年齢であろう。特徴だった赤毛のくせっ毛は相変わらずのようである。
その少年が、連邦軍らしき制服を着て、直立の姿勢で写っている。周りには、同年代の少年達がにっこりと笑っている。
場所はどこかの艦内である。またその中央には、大半の人の目を惹きつけるであろう魅力のある女性・・階級章をみると中尉だと判る・・
が、立っている。
置かれている場所が、少年の年齢を考えると、やや異様ではあるが、全体的には、順調に成長している様子が窺える。
もしも私がこの二様の写真だけを、みていたとしたら、さして興味を持たなかったであろう。
あの戦争の末期では少年兵が駆り出されることはさして珍しいことではなかったからだ。
悲劇ではあるが、それ自体はありふれたものである。
ただ、私がこの三葉の写真に惹きつけられたのは、最後・・つまりこの第三葉目の写真が、あまりにも異様だったからだ。
年はわかる。第二葉とほとんど変わらないだろう。ただ表情が全く別である。
人の表情がここまで変わるのか、とびっくりするような、まるで、そうー、あたかも灰に塗れた鼠のような、うつろな顔をしているのである。
目は胡乱で、どこもみていないようであり、髪は相変わらず赤毛だが、先ほどあったような生き生きとした癖ッ毛の元気はなく、
頬はややこけており、幼さの残っていた口元は、まるで笑うことを忘れてしまったかのように固く貝の如く、閉じられている。
それが、三方が漂白したかのように真っ白な部屋で、(もう一面はガラス張りになっているらしい。この写真はガラス越しに撮られている)
アルミ製の椅子に腰をかけているのである。
異様なのは、それだけではない。
その写真の、彼の背後に、人がいるのである。それも少女である。絶世の、まではいかないが、綺麗な翡翠の瞳をした褐色の少女が、
彼の背中の後ろに、いるのである。また、表情がなんともいえない、哀しげな、訴えかけるような顔をして、少年の背を抱きしめているのである。
ただ、その姿は少年に比べると、おぼろで、まるで砂漠に浮かぶ蜃気楼のような淡さをもって、たゆたっているので、
普通の人間ではないとは推察できる。が、それでは彼女が何なのか、と問われればわからない、としか答えようがない。
私はこの三葉の写真をみせてくれた男に質問したことがある。彼は、現在、敏腕ジャーナリストとして世間に注目されだした人物で、
この写真の男とは旧知の仲であった。彼に、どういう経緯をたどって少年が、こんな、まるで廃人のようになるまでになったのか、ということを
私は質問した。この質問に答える代わりに彼が私に与えたのは一冊の古ぼけたこげ茶色のノォトであった。
以下は、その文の転載である。
- 140 :アムロ特別編 (2/4) :04/04/21 16:16 ID:???
恥の多い生涯をおくってきました。
自分には、これまでの生涯のなかで、何一つ身についたものなどありません。
ただ身に付いたことといえば以下に効率的に機械人形を使って人を殺すか、破壊するか、などという非生産的な行為の技術だけであります。
自分は、現在、どのような人物が議会にいるのかも、選挙で選ばれているのかも、また議会で何について話し合われているのかもわかりません。
興味がないのです。
所詮、そんなことを理解しても、政治に参加することができるほど自分に意味が見出せないからでしょう。
しかし、僕のしている行為、それは戦争といわれているものですが、それはまさに政治的な次元の行為なのです。
けれど、今述べたように僕には政治というものに興味を持てません。だから、ただいわれたとおりに出撃し、人を殺していたのです。
今考えると、それは盲目の人間のようであり、聾者のようであり、また唯の白痴的言い逃れであることに気がついたのです。
政治に使役されている身分で、政治に興味がないなどとはいうべきではないのです。それは子供の言い逃れ、お金なんてなくても生きていける、
というような類の妄想となんら代わりがないのです。まさにこれは赤面しても足りないほどの大恥でした。
恥の多い人生とかきましたが、幼いころ、母親が地球に残り自分を捨てたことが、僕にとっては第一の恥でした。
僕はそのときのみじめな気持ちが脳裏に常にあり、それが他人との関係を恐怖し、避けるようになる原因だったと思います。
彼女は僕と父を捨てたのです。十年あまり後、軍人になった僕は彼女を捨てることでそのときの恥をつき返しました。
もっともそれは極めて幼児的な行為だと後に思い知ることになりましたが、そのときは僕は、それが正しいことだと思っていたのです(中略)
艦内に、医者志望という美しい金色の髪と、皮膚の下を流れる赤い血液の色がみえるほど白い肌をした女性がいました。
僕はその女性と何度も性交をしましたが、愛などではなく、そこにはただ肉体的快楽があるだけでした。
気持ちいいのですが、それだけを求めるであれば、それは動物園で、僕らが軽蔑の目で眺めている猿と同じです。
僕が求めていたのは、そんな単純な犬畜生でもえられるような即物的快楽でなく、もっと深い精神的充足であったはずでした。
彼女が求めていたのもそうだったと思います。ただ、僕らにはそれをどうやって求めたらいいのかわかりませんでした。
だから、最初はぎこちなく、最後のほうは無我夢中に身体をあわせるしかすべがなかったのです。彼女の胎内はとても温かく、気持ちよかったのです。
しかし、終わったあとに待っているのは、深い奈落の底に落とされて、みじめに傷を慰めあっているだけだという現実の認識だけです。
あるとき、行為が終わってシャワーを浴びた後に、彼女が自分の兄について話しました。驚きました。
彼女の兄は僕にとっては倒すべき最大の敵だったのです。僕は彼女がどうして僕にそんな秘密を打ち明けたのか理解できませんでした。
いまならわかります。彼女は兄を、あの男を僕に殺してほしかったのです。いや、殺してほしくなかった、ともいえます。
それは明らかに矛盾していることなのですが、彼女の中ではそれはイコールなのです。殺すことで、彼女の記憶の兄は生き続けるのです。
彼女は兄を愛していたのだと僕はいまでははっきりと理解できます。彼女はそこに背徳を意識し、それを深く考えたくないがために
僕と寝ていただけなのです。つまり僕は代用品に過ぎなかったのです。ただ僕が哀れだったから寝てくれただけなのです。
彼女の話す言葉から僕が理解したのはその一点だけでした。
彼女の裏切りは僕を再びどん底に落としました。自分は女性と幸福に結ばれるような男ではないのだと思い知ったのです。
そもそも憧れていた中尉が死んでしまったときに、僕はこのことに気がつくべきだったかもしれません。僕は、そんな幸福を得られる男では
ないのです。父をみれば、それは明白なことでした。母は父を捨て、また僕もそのときに母に捨てられた子供に過ぎないのです。
僕は彼女に対して、それからあまり接しないように意識しました。動物的快楽ならば自慰で十分でしたし、また女性と付き合うことよりも
これ以降は艦隊の戦闘が激しくなり、そういったことを考える余裕すらも奪われていきました。
- 141 :アムロ特別編 (3/4) :04/04/21 16:33 ID:???
ララァ・スンという女性に遭遇し、理解しあい、また失った後、僕には何も残っていませんでした。
ただ、彼女を死地へと追いやった男への復讐心だけで、機械人形に乗り込んでいました。僕にはそれしかありませんでした。
しかし、彼と接触し、彼もまた彼女を失ったことを深く哀しんでいることを知り、自分は彼をそれ以上憎めませんでした。
彼女に対する彼の愛は本物でしたし、また彼女の愛もまた彼に向けられていたのだと僕は考えるのです。
となると、僕のいったいどこに僕の入る余地があるでしょうか?僕は、彼の妹にも代用品として扱われ、また運命の女性には
遅すぎたと拒否をされ、母親には捨てられてしまっているのです。僕は心身ともにぼろぼろでした。
何も僕には残ってません。僕がずっと乗っていた機械人形もそのときには既に崩れ落ちて、その活動を停止していました。
それはあたかも僕自身のように、その身を横たえていたのです。
僕とあの男が向き合ったときに彼が放った言葉を僕はいまでも覚えています。
「君のようなニュータイプは危険すぎる、私は君を殺す」
あぁ、彼が本当に僕を殺してくれればどんなによかったろう!僕はもう生きている意味を見出せなかったのです。
彼とフェンシングで決闘をしているときも、実は、僕はこのまま彼に心臓を貫かれることを期待していた、と告白できるのです。
勿論、ただ殺されるだけではララァへの復讐になりませんので、彼も殺せればそれにこしたことはありませんでしたが、
死にたかったのは事実でした。僕には何も残ってなかったのですから。
このまま死んでララァとあえるのであれば、それは幸福なことなのかもしれない、と感じていたのです。
ニュータイプであることにも僕はなんの意味も見出せませんでしたし、それは逆に自分にとって重荷だとしか理解できませんでした。
ただ、ひとつだけいいことがあったとすれば、それは戦場から仲間を助け出すことに僕の能力が役立ったことだけです。
それは何一つ役に立たないと思っていた自分にとって、あの戦争の記憶の中で唯一、今でも覚えている幸福なことでした。
そして、僕がそんなことをしている間に、いつのまにか、本当にいつのまにかとしかいいようがないのですが、戦争は終わりを告げていました。
それはあたかも僕という存在を無視して別居した父と母の関係のように、一足飛びによくわからない終わりを迎えてしまっていたのです。
- 142 :アムロ特別編 (4/4) :04/04/21 16:37 ID:???
戦争が終わり、僕らの部隊はニュータイプの部隊、人類の希望を体現した部隊、などとわけのわからないほどに賞賛されました。
無論、あまりの加熱振りにとまどいましたが、人にほめられることのなかった自分は、少し嬉しかったのも事実です。
けれど、ちやほやされたのはほんの数ヶ月だけでした。それからの世界は僕にとってまるで楽園を追われたアダムとイブのようなものでした。
僕が閉じ込められたのは、真っ白な、何もない、空気さえもほとんどないのではないかと思えるほどに、淡く希薄な部屋でした。
三方は真っ白で、一面だけ総ガラス張りになっており、そこに沢山の連邦政府の人間が待機して、こちらを絶えず監視していました。
そこで僕は毎日、白衣を着た科学者達に徹底的に調べられました。身長や体重は当然のこと、眼球運動や反射速度、感受性や
思考力の程度、更には性的嗜好やDNA成分まで、何一つ残すことなく調べられました。それは僕を、明らかに、ただの戦争の一道具として、
一分子として扱うものであり、そこに人権の尊重などという配慮は全くみえませんでした。
たとえば感受性テストなどは、その最たるものでした。僕が戦場で殺したジオン兵士の家族の写真や、哀しんでいる映像などをみせて
僕の心拍数の変化や脳波の推移を計測するという実験でした。これが、僕には一番つらい検査でした。これが、毎日あるのです。
僕の食欲は日に日になくなっていき、頬はこけ、顔に生気がなくなっていくのが自分でもわかりました。僕の精神は崩壊寸前でした。
そんなあるとき、科学者の一人が僕の血液を調べていたときにいった言葉があります。
「君は、ニュータイプの標本なんだ。まだデータを取り終わってないのだから、しっかりしてくれないと困る」
その言葉は僕を断崖絶壁から叩き落しつけました。
なんということでしょう。僕はいつのまにかそういった偶像に祭り上げられ、ただ解剖されるだけのモルモットのようでした。
僕は連邦政府に協力しているつもりでしたが、向こうはそんな気はなく、ただ僕を実験材料として観察していただけなのです。
それは僕が軽蔑していた動物園の猿となんらかわることがない境遇でした。僕は、人でなく牢獄に繋がれた只の実験動物に成り果てていたのです。
言葉は通じます。会話は通じます。けれど、我は人にあらず。
人間、失格。
僕はニュータイプという種族に分類され、既に人間ではありませんでした。ただ呼吸する、人間と同じ形状をした生物なだけでした。
それからの僕は何も感じず、何も思わず、ただただ彼らのすることに服従し、自分の考えを放棄しました。
それで、もういいのです。慣れてしまえば、それは心地よいものでした。苦痛はもはや感じず、悩みもすべて消え去りました。
僕に意識が戻るのは一日に数時間だけで、あとはなんだかよくわからない感覚に脳が満たされています。
ただ、僕は時折夢をみます。その夢のなかで僕は、戦争のさなかに図らずも殺してしまった少女に会います。
彼女は僕の震える背をしっかりと抱きしめてくれ、その赤い唇を耳に寄せて、天使のような声色でそっと子守唄を歌ってくれます。
僕はそのときだけが幸せです。そのときだけ僕は母のことを思い出し、他の僕がいままで出会ってきた人のことを考えます。
おそらく皆かなりの変貌を遂げているものと思われます。君の艦長は結婚し子供もいると、なにかの話のときに科学者が教えてくれました。
また他の者についても日々を恙無くすごしているようでした。成長しているのです。けれども彼女だけはまだ僕と出会ったころのままです。
彼女も既に人間ではないのです。僕もしかり。彼女は矢張り、この世で唯一僕と近しい存在であります。僕は彼女を愛しています。
ただ、ふと思うのです。もしも彼女が生きていたとしても、この世に僕と彼女が幸せになれる場所などなかったのだろうと。
けれど、それはもうどうでもいいことです。
一切は過ぎていきます。僕はもう今年で23になります。そういえば僕は今でも議会で何が話されているのか知りません。
- 143 :あとがき :04/04/21 16:46 ID:???
私はこのノォトを読み終えた翌日、これを貸してくれたジャーナリストの友人に会いにいくために電車に乗った。
中はすいていて私の他には、仕事帰りと思わしきサラリーマンが一人いるだけであった。実にくたびれた顔をしていた。
ほどなくして、彼は降りて、電車の中は私一人になった。ノォトを小脇に抱えたまま、私は窓から移りゆく景色を眺めた。
この地区のコロニーの再開発がはじまっているらしく、いたるところに作業用ポッドが忙しげに動き回っていた。
駅前にある喫茶店にいくと、彼は、前にあったときと同じ鼠色のコートを着て、ちびちびとブランデーを飲んでいるところだった。
その隣には、20歳くらいと思われる女性がいた。こちらも前回あったときにいた女性で、確かノォトの彼の幼馴染ということだった。
私は二人に簡単な挨拶を交わした後、ノォトを彼に返し、こう問うた。
「この彼はまだ生きているのですか?」
「さぁ、どうなのかな。生きているといえば生きているし、死んでいるといえば死んでいる。
彼自身もわかっていないのかもしれないな」
「どういう意味です」
「だから、わからないんだよ。彼は脳がいかれちまってるし、心臓だってとまってるかもしれない。それに俺はもうどうだっていいんだ」
彼はブランデーをあおった。大分酔いが回っているらしいかったし、この様子では詳しい情報は得られそうもなかった。
私は、礼もそこそこに立ち上がった。今日は家内と外で食事をする約束をしていたので、一旦着替えるために家に帰るつもりだった。
外はもう薄暗く風もつめたかったので、私は外套の襟を立てて歩き始めた。すると、後ろから声がしたので、振り向くと、
先ほどの女性が立っていた。少し二人で話がしたい、というのでまた近くの喫茶店に入った。店内にはマーラーが静かに奏でられていた。
「貴方もこのノォトを読んだのですか」
「はい・・」
「どう思いましたか」
「こんなことになってるなんて・・私いつも一緒にいたんですけど、全く気がつかなくて・・」と、彼女は声を落としていった。
「彼はやや自虐的に物事を考える思考の持ち主だったようですし、なによりあの戦争は異常でした。
人は誰も自分が生きていくのに必死で、他人のことなど気にする余裕はない時代でしたから、貴方が気に病む必要はないですよ」
私が慰めようと声をかけても彼女は首を振って、
「私が悪いんです。私が・・もっと・・」
「忘れなさい。もう貴方がどうしようとも彼はきっと駄目でしょうから」
残酷なようであるが、この手記が本物であるならそれは確かなことであるように思えた。連邦に隔離されているのであれば、もうどうしようもない。
「けれど・・・」
「貴方はわるくありませんよ。皆わるくない。けれど、もしも悪い人がいるとすれば、それは彼の母親ではないかと私は思います」
時計をみると、もうそろそろ家に帰らなければいけない時間であった。私は立ち上がって帽子をかぶり伝票を掴んだ。
「ニュータイプになる人は、個人的には不幸なものであるという俗説は本当かもしれませんね。さよなら」
彼女に別れの挨拶を述べると、彼女は俯いたままこう言った。
「私の知っているアムロは、優しくて、繊細で、少し臆病ではあったけれど、意外と男らしいとこもあって・・・
ほんとに、ほんとにふつうの・・・ごくごく普通の少年だったんです」
- 144 :通常の名無しさんの3倍 :04/04/21 20:34 ID:???
- アムロきたー
- 145 :通常の名無しさんの3倍 :04/04/21 20:58 ID:???
- アムロと太宰はやっぱり破壊力あるなぁ
はずみで「ガンダムで文学」スレとか立てたくなった
- 146 :通常の名無しさんの3倍 :04/04/21 22:01 ID:???
- 前に「ガンダムで漢文」みたいなのを見たことがある。
- 147 :通常の名無しさんの3倍 :04/04/26 01:30 ID:s8uMs1iU
- 太宰age
- 148 :通常の名無しさんの3倍 :04/04/26 19:20 ID:???
- >>146
管理人破れてサンガあり、みたいな。。。
- 149 :通常の名無しさんの3倍 :04/04/26 20:46 ID:???
- 1さんはネタの引き出しが多いね。尊敬する。